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第9話 X-day3.船山の買い物
柄にも無いジャンルの買い物をしてしまった。
ボーナス商戦真っ只中、デパートは混雑している。
如何にも仕事帰りなスーツ姿の男性客がこのフロアにいるのは珍しいせいか注目の的だ。容赦無い好奇の目線に耐えながら目当てのコーナーを吟味する。
ダイヤモンド?プラチナ?何かの鉱石?名前ではよく判らなくて、手にしてみてしっくりくるやつに決めた。傷一つない、輝く円を箱からうやうやしく取り出し、どんな反応をするか想像する。帰宅するのが楽しみだ。
「ただいま」と声を掛けてドアを開けるのは毎日の習慣。返事は無いのはいつもの事。
忘れててゴメン。貴方が何も言わないのをいいことに。
口うるさく嫌味を言われる訳ではないけれど、見るからに態度が硬い。この数日は忙しさにかまけて後回しにしてしまって悪かったよ。
この様子じゃなかなか機嫌を直してもらえないだろう。
今夜はお詫びに、ゆっくり甘やかして、とっぷりとふやかしてやろう。
早速とっておきのアレ、出さなくちゃ♪
初めにコレを買おうと思ったのは、深夜の通販チャンネルだった。生中継で、飛ぶように売れていくショーは今まで興味すらなかった俺にも圧巻で、かなりそそられたんだ。
そういえば、営業車のAMラジオで、12月のラジオショッピングで一番売れるのはダイヤのペンダントだと言っていた。
女性に贈るためのセンスに自信がない男性達が、ラジオ放送でジュエリーに飛びつくらしい。
毎日仕事中に聞いているパーソナリティの親近感って凄い!この人が欲しいと言って勧めてる、相場よりお買い得、クリスマスに間に合う、サイズ関係ない、予算内で収まる、仕事中に手配すればサプライズに出来る…
営業車のお父さん達は、思わず電話するんだろうな。
想像力に直接訴えてくるんだから、購買意欲が湧くに決まってる。
でも。俺は通販が苦手だ。出来れば実物を手に取って決めたい。
自分に基礎知識が足りない分野で、ちゃんとした物を買いたい時は、デパートが有り難い。
老舗百貨店の目は不景気が定着した今でも狂いはないはず。
通販チャンネルで観たのとまるきり同じものは無くて残念だったけれど、かなりイメージ通りの物を手に入れた。
。。。
すっかり機嫌も直り、素直に熱くなっていく様子に俺は昂ぶる。
うつぶせたまま焦れる姿もそそるけど、そろそろこっちを向いてもらおうか。
そんなに逃げないでくれないか? ジリジリと距離を詰める。
そのまま下がっても後ろは壁。、行き止まりまであと少し。
さあ、もうどこにも行けないよ、良い子だ、おいで。
諦めたようにこちらの掌の上に納まる姿がひどく愛おしい。
高まる熱に浮かされて震えるこの姿こそ、真骨頂だと断言する。
だって可愛すぎるだろう?自分の腕が上がったみたいな気がして、もう手放せない。
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