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第9話
どこか心ここにあらずといった様子で部屋を出ていく高坂の後ろ姿を見送ると、息をついて東郷はダイニングの上を片付ける。
自分を知っていたのかという問いかけに、ずっと見張っていたなど告げることはできなかった。たしかに高坂の父親は、東郷をハメてこの世界に引きずり込んだ男だ。
だが、元々桜星会の2代目の孫だった彼は遅かれ早かれなんらかの工作で引きずりこまれる運命だった。だから、恨んではいない。
むしろ黒幕を炙り出す前に殺された高坂には、力足らずだったという罪悪感に似た気持ちがあり、葬式で見た幼い息子のことは見守ってきたつもりだった。
刑事になった理由など、分かりすぎるくらいに分かっていたので、いつかはこんなことになるだろうとは考えていた。
水面下の内部抗争に巻き込んで、尻尾切りされた男である。情などはなくトラウマになるような、初めての相手であるが、それでもその父親を信じて戦おうとする息子にはいつの間にか同情をしていた。
「関わらせたくはないのだが」
今回のことで父親がこちら側だと知り身を引く性格ならばいいのだが、そうではなさそうなのが分かる。
正義感がある男というには、少し流されやすいが真っ直ぐ育ってきた雰囲気は、母親の躾がよかったからだろう。
引き出しにしまいこんだ、興信所に依頼をした彼の調書を再度見返す。
昨夜無理矢理のように奪った体の感覚を思い出して、東郷は軽く天井を見上げた。
恐れを植え込むための行為だったが、夢中になってしまったのは、俺の方だ。
2度と関わりをもたせたくないから、というのは言い訳か。
それでも業務命令だ彼がつきまとうなら、それでいい。つきまとわれている間ならば、目を離すことはないだろう。
「親子2代、俺のために死なすのはしのびないな」
東郷はスーツを羽織ると、ゆっくりと部屋を出た。
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