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ピロトーク:運命の出逢い③はじめての共同作業
好きな奴の顔を見に来ているのに、どうしてこんなにも、沈んだ気分になるんんだか……
「どうだ、進んでるか?」
今日で何度目だろう、コイツの家にあがるのは。初めてお邪魔したときは、それなりに驚愕だった。家の中の荒れ具合が、本人の顔と反比例していたから。
いろんな作家の家を出入りしたから、よく分かるのだが、やはり荒んだ状況だと、落ち着いていい作品が書けない。と個人的に思っている。
「――このゴミ屋敷状態で、あの作品を書いたのか、お前は……」
クリーンなスペースは、涼一の周りだけ。背後のゴミさえ目に入らなきゃ、大丈夫ってことなのか?
「お前はそのノートパソコン持って、近くにある公園に行け。二時間、戻ってくるな」
「は? なんで?」
「こんな汚いトコじゃ、お前を抱く気にもなれないからだ。つべこべ言わず、出て行けっ!」
「だっ、抱く!?」
手にしていたノートパソコンを、胸の前にぎゅっと抱きしめた涼一。恐怖に満ちた視線で俺を見つめ、その場に固まる。
――しまった! 願望がポロッとつい、口から出てしまった――
「えー、あーその……言葉のアヤだ。気にするな」
涼一の過去を知ってから、デリケートであるこの手の話題を、あえて避けていた。
「はぃ、あの僕、外に出ていますね……」
背中を丸めて、おどおどしながら出て行く姿を、静かに横目で追う。
そして扉が閉まった音を確認してから、足元に落ちていたゴミを壁に向かって、思いっきり蹴っ飛ばしてしまった。
「何やってんだよ。怯えさせちまったじゃねぇか」
病院でキスして以来、手を出してはいない。好きだから大事にしたい想いと、好きだからこそ、ひとつになりたいという、淫らな想いがせめぎ合って、俺の中でぐるぐると渦巻いていた。
押し倒すのは簡単だ――だけどそれじゃあ、ダメなんだよな。
「好きなのに手が出せないとか、俺は中坊か……?」
苦笑いしながら床に落ちているゴミを、せっせと拾った。
部屋の整理整頓は着実に進んだのに、自分の中の気持ちの整理がまったく手に付かず、考えあぐねることしか出来なかった。
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