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ピロトーク:郁也さんと周防さん④
なぁんて、くだらないことを考えながら寝室に行ったら、郁也さんがタイミングよく目を開けた。
「……あれ? 周防は帰ったのか?」
「うん。 ついさっき帰ったばかりだよ」
ベッドの傍に跪き、枕元でぼんやりしてる、郁也さんの顔を覗き込む。顔色が幾分、いいように見えた。
「周防と喋ってる最中に、見事に落ちしちゃったみたいだな。短時間で今までの睡眠を、確保した気分」
ふわりと笑って、僕の頬を優しく撫でる。手の体温もいつも通り――
……って一体、何の薬を使って、一気に回復させちゃったんだ!?
「咳も止まって、良かったね」
「ん……でもまだ喉の奥が、ゼロゼロしてるから、言いつけどおり安静にしておく。悪いけど俺のスマホ、持ってきてくれないか? 周防に礼を言っておきたい」
「分かった、ちょっと待っててね」
リビングのテーブルの上に置いてあった郁也さんのスマホを、急いで手渡した。
よいしょっと、ゆっくり上半身に手を添えて起こしてあげると、手早くコールしてから、そっと耳に当てる。そんな郁也さんの枕元に腰掛けて、肩に腕を回してあげた。
僕の行動に顔をほのかに赤くして、少しだけはにかみながら、素早く頬にちゅっとキスする。
「サンキュー、涼一」
「いえ、どういたしまして////」
郁也さんに触れたくて、勝手に肩に手を回しただけなのに、こうやって応戦されると、困ってしまう。
「もしもし――」
郁也さんが繋がったラインに言葉を発したとき、周防さんがすぐさま、返答したらしい。何かを言いかけて、口をつぐんだ郁也さん。
困った顔して、頭をポリポリ掻いている。やがて気を取り直して、ため息をついてから、
「悪かったな周防、迷惑かけてさ。昼からオフだったろ?」
郁也さんの気遣うセリフに、何を感じただろうか――友達を思っての気遣いなんだろうけど、それでもやっぱり嬉しいだろうなと思った。
「……お前こそちゃんと、休みとってるのか? 疲れた顔してたし」
あの若さで個人病院を切り盛りしてるのは、きっと大変だもんね。少子化と世間は騒いでるけれど、病人は少なくはないんだから。
「そうか。何かイラついてたから、疲れが溜まってるのかと思ったんだが」
(イラつく原因を作っていたのは、僕だ)
堪らなくなり顔を伏せると、顎を強引に掴まれて、郁也さんの方に向かされる。慈しむような視線が、僕を捕らえて離さない――
「怒ってるお前は、俺だって怖いぜ。普段、仏のような優しい顔してるから、尚更なんだ」
同意を求めて首を傾げ、笑いかけてきた。そんな顔されたら、微笑まずにはいられないよ。
「分かってるって。親友の言うことは、きちんと聞くから」
郁也さんから告げられる親友という言葉は、きっと辛いだろうな。周防さんの気持ちに気づかず、使われているから尚更――
『俺はいつまで経っても、友達以上の関係になれないしね』
あのとき言った周防さんのセリフの意味が、やっと分かった。こうやって親友という言葉を使われると、踏み込みたくても出来なくなるんだ。
「周防ホント、ありがとな。お前がいてくれて良かった」
目を閉じて囁くように告げたセリフに、胸がじくりと痛む。どんな気持ちで、これを聞いただろうか。
そう思った瞬間、穏やかな空気が一変した。ビクッと、郁也さんが身体を震わせたから。そして――
「おい、周防!? どうした、何かあったのか?」
驚いて僕の体から手を離すと、持っていたスマホを包み込むように手を添えて、喋り続けた。
「大丈夫なのか? 返事をしてくれ!」
電話の向こう側の周防さん、何かあったのかもしれない。心配している郁也さんに何かを告げて、すぐに切られたらしいライン。
耳から離したスマホを僕に、そっと手渡してきた。
「周防のヤツ、ちょっとしたアクシデントだってさ。だったら変な声、あげるなっちゅーの」
「変な声?」
不機嫌と顔に書いてある、郁也さんに恐る恐る訊ねてみる。
「ああ、何か、ギャッっていうか、ヒャッっていうか。普段落ち着いてるヤツが、そんな声を出したの聞いたことがなかったから、ビックリした」
「アクシデント、ねぇ」
手渡されたスマホをベッドヘッドに置いて郁也さんを見ると、難しい表情を浮かべたまま、僕を布団の中に引きずり込んだ。
「大丈夫だって言ってたから大丈夫だろ、うん」
勝手に自己完結して、ぎゅっと抱きしめてきたと思ったら、僕の――
「ちょ、ちょっ! 何、触ってるんだよ////」
「やっぱり涼一から元気を、直接貰わなくちゃなと思ってさ」
先ほどの緊迫した状況が、ウソのよう――後ろ手から器用にジーパンを脱がしつつ、しっかり下半身を弄ってくる。
「びょっ、病人は、大人しく寝てなきゃダメっ…だ…ってば」
「分かってる、俺は大人しくしてる」
いたって落ち着いてる、郁也さんとは裏腹な僕の身体。
「その手は、っ…全然、んっ、大人しく……ないだろっ」
直に触れられた瞬間、形を変えた僕自身を感じるように、これでもかと弄った。正直嬉しいのだけれど、一応郁也さんは病人なんだ。僕を弄ってる場合ではない。
周防さんがしてくれた注射のお陰で、一時的に元気になっただけかもしれないのに。
「はぁ、久しぶり。放っておいて悪かったな」
ナニに話しかけてるんだよ、この不良患者!
「もっ…ダメ、だったら。マジメに、っ……寝てよ」
「いたって真面目に寝てるぞ」
言いながら反対の手は、Tシャツの裾から胸の頂へと伸ばされる。尖りに触れられた瞬間、身体がぞくぞくっと反応してしまった。
「まだちょっとしか触れてないのに、両方ビンビンだな」
わざわざ感じやすい耳元で告げるものだから、腹が立つやら、ぞくぞくさせられて――声にならない声で、喘ぐしか出来ない。
「や、もぅ…あぁあ、郁也さ――」
「妬いてたお前の顔、結構きた」
「な、にっ?」
「周防が俺のこと抱きしめたとき、妬いてたよな?」
――ああ、あれね。
「目の前で…んんっ、堂々と、あんなこと……あぁん…されたら妬くに決まって、んっ、るだろ」
与えられる快感を身体中に感じながら、やっとのことで伝える。だって郁也さんは、僕のなんだ。それが親友の周防さんであっても、触れてほしくないのだから。
「嬉しかった涼一……愛されてるんだなって」
「はぁ…はぁん、いい加減、っ……にっ」
「いい加減にしない。俺がこんなことをするのは、お前だけだからな」
ダメだ――こんなこと言われたら、理性を簡単に放り出せる。大事にするって周防さんに言ったばかりなのに、何やってるんだろ……
しかも僕がこんなに乱れているというのに、郁也さんはいつも通りで、更にもどかしさが募っていく。
「…っ、郁也さ、んも、一緒に……」
後ろにいる郁也さんの下半身に、手を伸ばそうとしたら、手首をぎゅっと掴まれた。
「こらっ! 俺は病人様なんだ。大人しく寝てなきゃダメなんだぞ」
「でもっ、僕ひとりで、こんなになってるのは」
「涼一ひとりじゃねぇよ、お前が感じてる姿を見て、ちゃっかりと俺も、しっかり感じてるし。それよか、挿れられなくて悪かったな」
ベルベットのように柔らかい声が、胸に染み渡る。そんなこと、気にしなくてもいいのに。そんなに優しくされたら、もっともっと好きになっちゃうじゃないか。
「郁也さん、お願い――」
「ん~?」
感じながらも、必死に呼吸を整えた。
「大好きだから……自分の身体を、大事にしてほしいんだ」
「分かった、ちゃんとお願い聞いてやるけどさ。まずはお前がイってからな」
「だったら、ちゃんと……」
僕がイけば、郁也さんが寝てくれる。恥ずかしいけど、伝えねばなるまい――
「どうした?」
「その……ぎゅっと、握ってほしいなって////」
「握ってって――ああ、コレか。こんな感じ?」
力加減が分かってるクセに、焦らすような加減で、ワザと握ってくれない。もどかしさも手伝って大胆にも、郁也さんの手の上から、自分の手を重ねてしまった。
「イジワル、しないで////」
「イジワルじゃない、愛情なんだけど。感じてる涼一の姿、久しぶりに見たかったし」
言いながら首筋をなぞるように、舌を這わせる。ぞぞっと感じてしまい、身体が仰け反ってしまった。
「もっと感じてるトコ見ていたかったけど、そろそろ限界だろ? すごいことに、なってるもんな」
「それを言わないで……」
何度かイきそうになるのを、我慢させられたので、痛いくらいに張詰めている。
「風邪うつしたら、ゴメンな――」
済まなそうに言って、覆いかぶさってきた郁也さん。僕の唇にめがけて自分の唇を、荒々しく重ねてきた。
唇は少しカサついていたけど絡んでくる舌は、いつも通りで容赦がなくて――口内も僕自身も一緒に、翻弄されていく。
「んんっ…はぁ……」
吐き出される甘い吐息と一緒に、何もかも全部飲み込む勢いで、ぎゅっと抱きしめてくれた郁也さん。やがて――
「あぁっ……もぅ……」
今まで触れられなかった寂しさとか、周防さんに対して嫉妬した気持ちとか、郁也さんに愛されてる幸せとか。
いろんなものが、ごちゃ混ぜになって、苦しくなり目をつぶる――
そんな脱力した僕に、さっきしたのとは違う、優しいキスをしてくれた。何度も何度も、触れるだけのキスをしてから……
「涼一の看病、終了な」
おどける様に言ってから、頬に音のする派手なキスをした。いつの間に僕は、病人になったんだ?
甘い気分に酔いしれていたかったけど、後処理をしなければならず。郁也さんのセリフにツッコミを入れられずに、シャワーを浴びに寝室をあとにした。
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