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ピロトーク:郁也さんと周防さん⑥
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「あーあ、聞かなきゃよかった……」
郁也さんをキッチンから追い出し、やっと安心して調理に取り掛かれる。なのに――
周防さんとの関係を聞いてしまったせいで、気持ちがずーんと沈んでしまった。
清い関係を続けているって言いながら、どうしてそこで赤くなるんだよ。過去に何かありました! そう言ってるのが、分かってしまったじゃないか。
郁也さんが終わったことでも、周防さんの中では現在進行形なんだ。恋をしているんだから――
大根1本を真ん中から切って、ピーラーで皮を剥いていく。包丁で剥くよりも、そっちの方がキレイだからね。
さくさく剥きながら、つい考えてしまう。ふたりがどこまでの関係なのか。慌てて隠したってことは、つまり――
「ヤってしまったってことなのかな。でもその後に、友達でい続けられる? 僕なら絶対に無理」
頭の中でふたりが、抱き合っているところを想像してしまい……ビジュアル的には、僕よりも人目を惹く。一緒に並んで歩いてるだけで、絵になるもん。
こんなくだらないことで、いちいち嫉妬してしまうのは、自信のなさの表れだって分かってる。恋愛ってホント付き合う前よりも、付き合った後の方が、エネルギー使うよなぁ。
人の想いが目に見える形で見えたときに、自分の想いと周防さんの想いの、どっちが大きいものなのか――
恋人である僕はどこかその立場ゆえに、アグラをかいてるところがあるかもしれない。
レベルはMAXでも、そこどまりでキープされてる状態で。一方周防さんは叶わないからこそ、想いはどんどん募っていって、溢れまくってる感じ。上限なんかないんだ。
口では一番なんて言ってみたけど、実際は負けちゃってるんだよなぁ。
それでも足掻いてみせるのは、負けず嫌いだからこそ! 郁也さんのために、自分が出来ることをしてあげたい――
例え小さなことでも、何でもしてあげたいって思う。
そんでもって僕のことをもっと、好きになってもらい(口に出してくれないのは寂しいけどね)それを汲み取って、自信に変換する。
なんちゃら方式真似て、腕ピロトークのCD聴かせまくってたら、そういう流れを覚えて、愛の言葉を囁くタイミングとか、分かってくれるかも?
さっきだって、ワザとそういう風にもっていったのに、今ひとつだった郁也さん。それとも――さっきの王道話を小説化して、この状況と被ってるってこと、分からせてみるとか。
周防さんの気持ちに気づいたら、郁也さんはどうするんだろう。
(あ~分かりたくない! あんだけ意思表示してても、分からない人なんだから、気づくはずないよな、うん)
郁也さんは優しい人だから、周防さんの気持ちを大事にして、不器用に対処しながら、友達関係を築いていくだろう。だけどそれは、周防さんにとっては辛いよね。
いっそのこと、周防さんの心をぎゅっと鷲掴みするような人、現れてくれないかな。
郁也さんよりもいい男じゃなきゃ、ダメなんだけど。
――それって、無理難題かも……って、ガガガ━(ll゚д゚ll)━ン!!
あまりの悲惨な状況に、言葉が詰まった。無理難題が今、目の前に広がっている。ピーラーで剥き続けた大根がゴボウの太さまで、やせ細ってしまって、うず高く積まれた残骸が――
「これを、どう料理すればいいんだろう?」
中途半端に薄切りされた、大量の大根に目をやり、ため息をつくしかなかった。
恋も料理も、上手くいかない――
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