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ピロトーク:郁也さんの特技④
***
「ぅあっ…ふぁ、……ぁあ…!」
久しぶりの行為に、さっきから喘ぎ声が止まらない。
「んんっ、ぅっ! 郁也さ……ぁ、…っ!」
「…っ、涼一っ、んんっ」
左足を郁也さんの肩に乗せて腰を持ち上げられながら、奥の方をこれでもかと責め立てられてるんだけどこの人僕の中で2回もイったのに、そのまま第3ラウンドに突入しているんだ。
腰を打ち付けられるたび、ぐちゅぐちゅという卑猥な水音が寝室に響く。
「ああぁ、ぁ……あぁ…んっ……くっ」
与えられる快感に、頭の中もゆるゆるしてきた。ゆっくりだけど確実に僕の感じるトコを、じっくり責める郁也さん自身を内側でぎゅっと締めつけてあげた。
「こら、何やってんだよ。そんなにしたら、上手く動けないだろ」
「んっ、だって……郁也さんがそのまま続けちゃうんだもん。気持ちよすぎて、おかしくなりそぅ」
シーツを両手で掴んで肩で息をする僕の頭を、優しく撫でてくれた。
「今まで俺の看病して苦手な料理を作ってくれた、涼一にサービスをしてあげようと思ってさ」
「サービスって……。だからってそのままヤり続けるのは、僕の体力が持たないよ」
涙目で訴えてみたけど、何故か意味深な笑みで返されてしまう。
「これから仕事が忙しくなるし、次がいつできるか分からないからな。じっくり堪能したいと思っているんだって」
僕を堪能――
「お前は動かなくていいから。ただ受け止めていろ」
「……そんな無茶苦茶な」
「涼一の中にいたいんだ。溶けてしまえればいいのにって思ってるくらい」
シーツを掴む手に、郁也さんが手を重ねた。そこから熱が伝わってきて、僕の体温を上げていく。
「そんなこと言われたら、断れるワケないじゃないか」
ドキドキが止まらない――幸せすぎて涙が出そうだ。好きな人に愛されて、こんな風に優しい言葉をかけてもらえて。
「涼一もっと感じてくれ。その姿を見られるだけで俺は――」
何かを言いかけた郁也さんの言葉を、キスで塞いでしまった。僕も見たいと思ったから。僕で感じている郁也さんの姿を。
「んっ…うぅっ……ンン、っふ…」
俺を求めるように積極的に舌を絡める、涼一のキスに感じて声が出てしまう。感じさせようとした矢先に、どうしてお前に感じさせられているんだか。
腰のストロークを緩めて、じっくりキスを堪能した。お互いの唾液が混ざり合って、下半身から鳴る水音と重なっていく。耳に与えられる卑猥な音に、扇情的な気持ちが抑えられなくなった。
一度や二度じゃ足りねぇ、もっともっと欲しくなる――
涼一の頭を撫でながら顔の角度を変えて、下唇をやわやわと食んだ。
「あぁん…っ、ん……」
キスを中断されたのが不満だったのか、強引に俺の頭を掴んで唇を合わせてくる。噛み付くようなキスに下半身で応戦すべく、感じるところを突いてやった。
「ふぁっ! ちょっ…んっ、いきなり」
「いきなりは、こっちのセリフだ。俺はお前の全部を堪能したいのに」
周防にムダなヤキモチを妬かないように、涼一の全部を愛してやる。
額にキス。瞼にキス。頬にキス――
「くすぐったいよ、郁也さん」
耳たぶにキス。首筋にキス。
「ねぇ、聴いてる?」
シーツを掴んでる手を剥がして甲にキス。腕にもキス。胸元にキス――あぁ、ここは痕を残してやるか。
「んんっ…いっ……」
こうして俺は涼一の肌にどんどんキスをしていき、いたるところに、赤い花を咲かせていった。
「あのさ、これ痕つけすぎだと思うんだけど」
「いいだろ別に。誰かに裸を見せるワケじゃないだろ」
涼一は俺のもの。本人から文句を言われたが、どうしても付けたかったんだ。
「そうだけどさ。何か、ハズカシイ」
頬を赤く染め横を向く姿に、胸がじわりと熱くなる。
「恥ずかしがることないじゃないか」
「僕も……郁也さんに付けていい?」
「どこに付けるんだ?」
上目遣いで俺の顔をじっと見て、やがて――
「ここに付けちゃおっと」
心の中にはしっかりマーキングされているというのに、嬉しそうな顔して俺の首筋に唇を押し付けて、ちゅっと強く吸い付いた。
「このワイシャツから見えなさそうでちゃっかり見える位置が、結構キモだと思うんだ」
「あの涼一くんは余裕があるみたいなんだが、俺そろそろイっていいか?」
苦笑いしながら言ってやると、ハッとした顔して首を横に振る。
「よっ、余裕なんて全然ないよ、本当に!」
まぁ腰の動きを緩めにして余裕を持たせていたけど、それは俺の事情からなんだが。涼一を感じさせると、きゅっと締めつけるせいで、すぐにでもイきそうになる。
だけど繋がっていたいから何とか微調整を繰り返し、現在に至る――
「そりゃそうだよな。お前ってば俺を、これでもかと感じさせてくれるし」
「そ、そう?」
「全然触れてないのに、溢れんばかりの――」
「いいっ、言わないで! 言われると余計っ……」
「ぱんぱんに膨らんでビクビクしてる。ここ最近、中だけでイけるもんな」
事実を言ってるのに、ふくれた顔して首を横に振った。
「可愛い顔して俺を煽るなって。ここが気持ちいいんだろ?」
腰を少しだけ上げてその部分をぐいぐい突いてやると、涼一自身からたらりたらりと蜜が溢れ出てくる。
「ふぁっ…あぁあっ、ソコばっかり弄られたら、僕は……んんっ」
「じゃあ、一緒にイく?」
わざわざ聞かなくてもいいことを、耳元で訊ねてやった。
「っ、あっ……じゃぁ、もっと…深く、っ…して、ぇ……」
了承の意味をこめて耳朶にちゅっとキスをし、リクエストに応えるべく中を深くかき回す。
「はっ……ああぁっ、もっ、いっ…イっちゃうぅ!」
俺にぎゅっとしがみついて身体を痙攣させる涼一を見て、更にストロークを上げて奥の奥を突きまくった。そんな俺自身を、ぎゅっと締めつけて、トドメを刺してきた。
「…くっ、涼一、愛してる――」
荒い息遣いでやっと想いを告げ、根こそぎといった感じで涼一の中で果ててしまう。
「……おい、涼一大丈夫か?」
実はもうひとつ俺のお楽しみがある。普段恥ずかしがって一緒に風呂に入ってくれない涼一なのだが、Hのあとは精根が尽き果てているため、拒否ることができずにされるがままなのだ。
暗がりの寝室でははっきりと確認ができないあんなトコやそんなトコが、すべて見放題。
「ほら、掴まれよ。シャワー浴びるぞ」
気だるそうにしている涼一の膝裏に腕を通して横抱きにし、浴室に向かった。
バスタブの縁に座らせ、シャワーをかけてやる。
「っ…んっ――」
くぐもった声を出して肩を竦める。シャワーのお湯で肌が上気して、色っぽく見えた。
目を細めてそれをじっと見つめてからシャワーを止め、スポンジにボディソープをつけて優しく洗っていく。
白い肌に俺のつけた痕がいたるところにあり過ぎて、つい笑いが零れた。想像していた以上に、付けまくってしまったようだ。
「何が可笑しいの?」
「あ、その、な。涼一の言うとおり、ちょっとだけ痕を付けすぎたと思って」
言葉に出来ない想いが、ときとしてこんな風に現れる。そのときは無我夢中で涼一に溺れているのだが、我に返ったら結構ビックリしたり笑ったり。
そこから新たな自分を発見したりする。今回は周防が絡んだせいで、ムダに頑張ってしまった結果なのだが。
「でしょ。もし何かの事件に運悪く巻き込まれて、死体になっちゃったら、絶対にこの状態は恥ずかしいよ」
「ぷっ、面白い発想するのな。いいじゃないか、死ぬ間際まで愛されまくってましたって印になるだろ」
スポンジとてのひらを使って、ゆっくりと涼一の肌を撫で擦った。首筋から鎖骨、腕から指先まで泡まみれにしていく。そして――
「やっ! 郁也さんの手、何かゾゾッてする。今日の手つき、やけにいやらしいよ」
身体をビクつかせて俺の手を止めるべく、がっちり握ってきた。
「きちんと綺麗にしないとダメだろ。汗とかアレとか、いろんなものが、くっついてるんだから」
「でも……」
「口答えはなしな。ちゃんと洗われなさい」
「あっ!?」
涼一が右斜め上を指差したので釣られるようにそこを見たら、手元のスポンジがあっさりと奪われる。
僕の作戦に見事引っかかってくれて、どうも有り難う郁也さん。スポンジ片手に微笑んでやった。
「返せよ、俺の楽しみを奪ってくれるな」
「もぅ充分でしょ。あとは自分で洗うから。それに郁也さんの背中洗うの、僕の楽しみなんだ」
広い背中を擦ってると、僕だけのものなんだなぁとかこの背中にいつも守られてるんだなぁとか。じわぁって気持ちがここぞとばかりに溢れてきて、とっても嬉しくなる。
「ほらほら、後ろを向いてよ。洗ってあげる」
「しょうがねぇな、分かったよ」
口ぶりは文句なれど口角が上がってるので、イヤじゃないのが手に取るように分かってしまう。
後ろを向いた郁也さんを丁寧に洗っていった。縋りつきたくなるような広い背中に、ドキドキする。
思わず自分の身体を使って、洗ってあげたくなる衝動に駆らるくらいに。
――郁也さんは僕のもの――
大好きなその背中に後ろから、ぎゅっと抱きついてしまった。
「ん? どうした?」
「何かこの泡と一緒に、郁也さんの中に溶け込んでしまいたいって思ったんだ。そしたら、いつも一緒にいられるのにね」
郁也さんが行為の最中に言ってた、溶け込んでしまいたいっていう気持ちが、すっごく分かるよ。
「寂しい思いさせて悪かったな……」
「そうじゃない、違うんだ」
仕事が忙しい郁也さん。すれ違ってしまう毎日を考えたからこそ、出たセリフなんだろうけど。
「1分でも1秒でも、傍にいることができたら僕は幸せだから。こんな風に肌を合わせることができるだけで、嬉しくて涙が出そうだよ」
「じゃあ、これは没収な」
手に持っていたスポンジを奪取して、床に放り出した。
「あの?」
「小田桐涼一ファンには悪いが、締め切りギリギリに守れるよう調整してやる」
「はぁ……?」
「だからすべてを忘れて、俺に抱かれてくれないか?」
どっちの調整なんだよ――
そんな文句が言えるワケもなく、僕はその場で郁也さんに抱かれることになったのであった。
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