41 / 87

ピロトーク:揺れる想い⑤

 こんな風に泣くヤツじゃないのに、それだけ辛い想いをしているんだろう。 「いつもタイミングの悪い、手遅れな恋ばかりして……」  ――手遅れな恋――  俺にも太郎にも、そんな恋をしてしまった周防。何か声をかけてやりたいのに、またしても上手く言葉が出てこない。 「手遅れなんかじゃない! まだ、はじまってもいないじゃないか!!」 「……涼一くん?」  涼一が珍しく声を荒げて、周防に言い放った。 「太郎くんのことが、好きなんでしょ? こんな簡単に、諦めていいの?」 「だってアイツの本名も何もかも、知らないことだらけんだ。それに――」  俺は周防を助けたい、大事な親友だから。 「らしくないぞ周防。お前もっと、ガッツがあるヤツだったのによ」 「しょうがないでしょ。恋は誰だって、臆病になるものだよ」  苦笑いして言うヤツの背中を、思いっきり叩いてやる。  (☆_@;)☆ \(`-´メ)俺からの気合注入だ! 「いたっ!」 「何のための、親友なんだよ俺は! お前が病気の俺を助けてくれたように、俺だってお前を助けたいんだ!」 「桃瀬……」  俺たちのやり取りを、涼一は柔らかく微笑みながら、見守ってくれた。  そして―― 「あのね太郎くんのこと、分かる範囲でいいから、教えてほしいです。確か僕が通っていた学校の、高等部に在籍しているんですよね?」  もしかして、涼一のヤツ…… 「うん、同じ制服着ていたから。ネクタイは青色だった」 「じゃあ学年は三年生だ。他に何かありませんか?」  ポケットからスマホを取り出して、サクサクとメモを取る。 「もしかして、捜してくれようとしてる? だけど本当に、アイツの情報がないんだ」 「この若さで死にそうな病気って、すごく手がかりになりそうな気がするんだけど、教えてもらっちゃダメですか?」 「知ったところで 個人情報になるからね。病院が簡単に、教えるワケないと思うよ」 「とある人に頼んで、調べてもらったらきっと、全部調べつくして、教えてくれると思うんです」  とある人――涼一は笑いながら俺の袖を引っ張って、とある人をアピールした。ソイツの笑った顔が頭に浮かび、途端にイヤぁな気分になる。 「あー、アイツに頼むのか。それは間違いなく、捜し当てるだろうな」  正直、頼みたくないが周防のためなら、ガマンするしかない。  ちっ (ーー;) 「僕らの知り合いに捜すのが、上手な人がいるんです。だから教えてください」 「でも……」   「郁也さんも僕も周防さんの恋を、手遅れなんかにしたくないって思ってるんです」  涼一の言葉に首を縦に振って、同意してやる。だって幸せになってほしいから。 「それじゃあ臆病な周防に、追いかける理由を、俺からつけてやるよ」  親友として、俺が出来ること。 「何それ?」 「一応太郎は、お前の患者だったんだ。その後、病気がどうなったか医者として、知りたくないか?」 「まぁ、気になるけど」  恋に臆病になってるお前の背中を、親友である俺が、全力で押してやるよ。 「なら、それを確認するのに、追いかけたことにすればいいだろ。あとはお互い想い合っていれば、なるようになるんだよな?」  涼一に向かって結果論を言うと、体当たりしてくれて嬉しそうに、そうだねと肯定してくれた。 「そういうことだ。太郎の居場所が分かったら、ちゃんとどうなってるか、確認しに行けよな」 「僕らも太郎くんのこと心配ですから、病気のこと教えてください」  俺たちの気持ちが伝わったのか、涙を拭いながら、今まであったことと病気のことについて、詳しく話をする周防。 「軽井沢に別荘を持っている、絵が上手な高校三年生で、自然気胸と甲状腺癌を患っているんだね」  周防が話してる最中、ちゃっかり似顔絵を頑張って描いてやった。これが少しでも、手がかりになればいいのだが。 「ついでに、この似顔絵も添付してやってくれ。役に立つから」 「郁也さん、似顔絵が描けるなんてすごいね。どれどれ――」  自信満々に、涼一にメモ帳を手渡した。 「身長は185センチくらい、髪はボサボサで、顔は適度に整っていたぞ」  目をつぶって、思い出しながら言ってやる。 「整っていないよ。むしろ、サル顔だったって」 「そうか? でも内に秘めたワイルドさを演出すべくそんな感じを、この絵で表現してみたぞ」  盛り上がる俺らに反比例して、涼一が何故かメモ帳を片手に、カチーンと固まっていた。  |||(-_-;)||||||どよ~ん 「どうした涼一、早くヤツに送ってやれよ」 「えっ!? あ、うん……」  (>_<。)えいっ!  恐々といった顔して送信した涼一を、周防は微妙な表情を浮かべ、じっと眺めている。  ――何か俺、やらかしたんだろうか?

ともだちにシェアしよう!