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ピロトーク:揺れる想い⑦
***
いい加減、機嫌直ってくれないかな。電話から既に30分以上は、経過してるのに……周防さんの家から歩いて帰る道すがら、不機嫌上等と書いた顔の郁也さんを、ちらりと横目で見やる。
「手がかりは少ないけど太郎くん、早く見つかるといいね」
「ああ……」
(。-`ω´-)ンー
何を言っても、不機嫌なままか。悶々と何かを抱えているなら、吐き出させるのみ!
「あのさ郁也さん、何に対して一番、腹が立ってるの?」
「全部」
――あ、あの。それじゃあ僕の質問に、答えていないのでは。
「そのすべての中から、一番って決められないの?」
恐るおそる訊ねてみると、顎に手を当てて、一応考えてくれた。
「アイツの存在、そのものがイヤだからな。言われたこと全部が、ムカつくんだよ」
ε-(‐ω‐;)ため息しか出ない。
「あのね郁也さん、稜さんは冗談で言ってるんだよ。しかも今回は、周防さんのことを頼んでいるんだから、僕たちは低姿勢でいなきゃ、ダメなんだってば」
「しょうがないだろ。お前に関しての冗談なんて、受け流せるワケないって。絶対にガマン出来ねぇ」
「でも……」
「あの男が平気で3Pだの、スワッピングだの言うたび、その絵が頭の中に浮かぶんだ。想像だけでもら気が狂いそうになる」
その絵というワードに、郁也さんが描いた似顔絵が、ぼんやりと浮かんでしまった。心情を読み取ることについて、苦手にしていることといい、受信アンテナの感度が、どこか悪いのかもしれないな。
それとも、アンテナを立てる方向が、ちょっとだけ変なのかも?
だから僕はストレートになおかつ、分りやすい表現をして、郁也さんに伝えてあげる。
「そんなに想ってくれて嬉しいよ。ありがとね郁也さん」
傍にある左腕に、自分の右腕をぎゅっと絡める。
「お、おう////」
とどめに上目遣いをしながら、微笑んで見せれば完璧なハズ。絡めた腕から伝わってくる体温が、一気にはね上がったのが分かった。
「周防さん、雰囲気が変わったよね」
「だよな、丸くなったっていうか」
「そうそう、柔らかくなったみたい」
ふぅε-(゚д゚`;)
――話題転換、成功だな。
「あんな風に取り乱して泣いてるトコ、はじめて見たぞ。俺ひとりだったら、手に負えなかったかも」
「本当に驚愕したよ。前回逢ったときと印象が、まるで違っていたし。何かね、郁也さんを想っていたときの周防さんと、太郎くんを想ってる周防さん、全然違うんだ」
僕に郁也さんが好きなんだと言った、彼の姿を思い出す。
「郁也さんを想ってたときは一途とか、ひたすらって感じたんだけど一緒に、プライドみたいなものも感じたんだ。郁也さん自身に固執してる、みたいなもの」
「へぇ、そうか」
「だけどさっき見た周防さんからは、余計な感情が見えなかった。好きで堪らないっていう、想いだけだったよ」
「それは俺も感じた。太郎の話をしてるときのアイツ、本当に楽しそうな顔していたから」
同じように嬉しそうな顔をして、周防さんの話をしてくれる郁也さんの表情に、僕まで笑顔になった。
「早く、見つかるといいね」
「ああ。あんな泣き顔、もう見たくないしな」
手がかりの少ない太郎くんの情報だったけど、稜さんがご贔屓にしてる探偵さんが優秀なのか、三日後にメールが着た。
件名が、『このコかどうか確認してみて』だった。
添付されていた写真は、郁也さんが描いた似顔絵とは似ても似つかず、高校生にしては大人びた顔をしていて。
「これがあの、周防さんを落とした高校生なのか」
なぁんて、しみじみと眺めてしまった。
そして仕事中で忙しいであろう郁也さんのスマホに、確認のため写真を送ると、すぐに返事がきたんだ。
(そうだよね、すぐにでも周防さんに知らせてあげたいもん)
『こいつは太郎だ、間違いない!』
そんな文面に笑みを浮かべて、急いで稜さんに肯定の返事をした。
二十分後――太郎くんの居場所やら名前やらすべてのことが、事細かにメールで送られてきたので、そのまま郁也さんに転送してあげる。
太郎くんの苗字、これを言っちゃうと、どこの誰かすぐに分ってしまう、地元の名士だった。
「周防さんが動けるのは、病院がお休みになる、土曜の昼以降からか。待ち遠しいだろうなぁ」
まさか再会したふたりが、揉めることになろうとは、このときの僕は思いもしなかった。
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