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ピロトーク:絡まる意図

 天気のいい、日曜の午前中。  郁也さんは仕事で不在、僕は洗濯物を干して、ブレイクタイムをとるべく、キッチンで冷たい麦茶をコップに注いでいた。  そのとき、テーブルに置いたスマホが、メールを知らせる。 (こんな時間だし、郁也さんからだな。どれどれ……)  軽い気持ちで、ほいほいと画面を開いたのだけれど。その内容に、驚愕するしかなかった。 「ちょっ、待ってよ。これは、非常に困る内容だよ」  それは郁也さん宛てに着た、周防さんからのメールを転送したもので。 『ももちん、俺どうすればいい? 太郎の病室に行ったら、泣いてる男のコと出くわしちゃった。きっと病室に連れ込んで、いかがわしい事しようとしたんだよ。(ノД`)シクシク』  頭を抱えちゃうなんてレベルが超えているから、僕に送って寄越したに違いない――何で、感動の再会じゃないんだ。悲劇としかいいようがないよ、どうしよう……  <( ̄口 ̄||)>!!!オーノー!!!<(|| ̄口 ̄)>  おいおい、僕がオロオロしてもしょうがないんだ。一番困ってるのは、周防さんなんだから。(二番目は郁也さん) 「とにかくその彼について、きちんと事情を聞くべし。納得するまで、話し合ったらいいんじゃないかな」  メールの文面を、ぶつぶつと口に出しながら、きちんと頭の中で吟味した後に、思い切って送信する。  何か先の見えない展開に、冷や汗が流れるよ。<(; ̄ ・ ̄)=3 フゥ... 「いつも落ち着いてる周防さんが郁也さんにメールしちゃうくらい、錯乱しちゃったのかも」    一歩間違ったら修羅場になる、絶対に――話し合いが、どうか上手くいきますように(-人-;)  何かあったら、また連絡が入るだろう。  キッチンに置きっぱなしにしていた麦茶を持ってきて、いつメールが着てもいいように待機する。気になって小説の執筆なんか、出来る状態じゃない。 「そもそも太郎くんって、浮気性なのかな」  一途な人もいれば、そうじゃない人だっている。郁也さんのことが好きだった、周防さんを落とした人だ。只者じゃないのは、確実だろう。  ――というか。  高校生で大人の男を翻弄するって、すっごくやり手だって、気付かない方が可笑しいか。  スマホを操作して、太郎くんの画像を見てみる。どんな生活を送ったら、そんなやり手になるんだろう。一度逢って、じっくりと話をしてみたいな。  そんなことを考えていると、太郎くんの写メから、メールの受信画面に切り替わった。  郁也さんから、周防さんのメールの転送―― 『話し合いの結果、新たな事実発覚! 俺はどうやら、二股をかけられていたらしい』  ガガガ━(ll゚д゚ll)━ン!!  僕でさえ、この事実に狼狽しちゃった。周防さん大丈夫なのか!?  落ち着け……落ち着くんだ自分! 今までの話を、思い出してみるんだ。  ――浮気性で、二股をかけるようなコだけど。癌という大病を患っているというのに、命を賭けて周防さんに迫ったという事実。 『周防と太郎は、医者と患者として出逢ったんだろうけど、素直じゃないアイツを引き出してくれたのが、すげぇなって思ってさ。人様のことについて鈍い俺だけど、何かをピンと感じたんだ』  そしてそこに運命の意図があるって、郁也さんは言っていた。 「手遅れの恋じゃなく、最後の恋にしてあげなきゃ」  うんうん思案してから、心を落ち着けてメールの文章を作成する。 『二股かけられてたことは、過去の出来事として捉えてください。大切なのは、太郎くんの気持ちです。彼は今、誰が好きなんでしょうか? そこにたどり着くまでのプロセスを、思い出してください』  僕の気合と一緒に、郁也さんに送信! お願いっ、どうか上手くまとまりますように!  その願いが無事に届いたのか、しばらくして郁也さんから、周防さんのメールが転送されてきた。 『ふたりのお陰で、上手く処置出来た。どうもありがとう』  難しい場面を、どうやって乗り切ったのかは分からなかったけど、上手く処置出来たという文面から考えると、何だか難易度の高い手術を無事に成功した、お医者さんみたいだなぁって思ってしまった。  そして語尾に書いてある―― 『太郎が退院したら、お祝いを兼ねて食事に行こう』  というお誘いが、とても嬉しかったんだけど。 「何でだろう。このメンツで食事に行くのことに、どこか不安を感じてしまう」  ただのWデートなのに、ひしひしと見えない不安に、苛まれてしまったのだった。

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