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ピロトーク:恋をするふたりの姿

 郁也さんと店の前で並んで待っていると、通りの向こうから、周防さんと太郎くんが、やって来るのが目に入った。  わっ、手を繋いでいるよ! 「こんばんは!」 「ちーっす。相変わらず仲がいいんだな」  郁也さんも手を繋いでやって来た周防さんたちを見て、意味深に笑う。 「仲がいいワケじゃないよ。病み上がりのコイツが、医者の俺がいるのに道端で倒れたりしたら、それこそ洒落にならないでしょ」  振り解きながら言ってくれたけど、頬が赤くなってるのを、しっかりと確認させてもらったからね。( ̄ー ̄)ニヤリ 「へえぇ、なるほど」 「周防さん、本当に面倒見がいいですね」  この言葉を郁也さんは、真面目に受け取ったのかな? でもきっといつもと違う、周防さんの顔色で分っちゃうよね。  あまり笑っちゃ悪いと思い口元を隠して、向かい側にいるふたりを見ていたら、太郎くんと目が合う。 「はじめまして。郁也さんと一緒に暮らしてます、小田桐と言います」  そうだよ。僕だけが彼と初顔合わせなんだった。  慌てて頭を下げて挨拶をしたら、間髪入れずに周防さんが太郎くんの頭を、思いっきり殴る。  うひぃ、かなり痛そうな音していたけど…… 「一番年下のお前が、先に挨拶しないで、どうするよ?」 「怒らないであげて下さい。僕がいきなり挨拶したんですから」  出会い頭に、きちんと挨拶しなかった、僕が悪いのに。 「でも……」  そんなやり取りを、太郎くんは真顔でやり過ごして、きちんと頭を下げてくれる。 「挨拶が遅れてすみませーん。タケシ先生のカレシです」  その挨拶に顔をピキッと引きつらせた周防さんが、またもや頭を殴る。 「何言ってんだ! きちんと自分の名前を言って挨拶しろ」 「タケシ先生のカレシの太郎でーす、はじめましてでーす」 「お前――」  ふざけているようで太郎くんは僕に、周防さんと仲がとてもいいところを、きっと見せたいんだって伝わってきた。 「ふふふ、本当に面白い人だね、太郎くんって」 「面白いというか、頭おかしいんだ、コイツは! どうして、本名で挨拶しないんだよ」 「本名よりも、タケシ先生に付けられたこの名前のほうが、気に入ってるから。可愛がられてるって感じするし」 「可愛がってなんていないんだからな。お前みたいな、バカ犬は知らん!」  ああ、もう――  こっちが見ていられないくらい、熱々なんですが。 「周防がこんなに簡単に翻弄されてる姿、すっげぇ貴重だろ」  肩を竦めて呆れながら言う、郁也さんの視線に思わず吹きだした。 「確かに。最初から、こんな感じだったの?」 「ああ、もう驚くしかねぇだろ」 「本当だね、これはすごいや」  僕らへの態度とは明らかに違う、周防さんの様子。これなら鈍い郁也さんでも、気がつくハズだ。 「そこのふたり、一体何の感想語り合ってるんだい? そろそろ店に入るよ!」  翻弄されて疲弊している周防さんの後ろに続いて、店の中に入った。  店内は適度に混んでいて、何とか四人で座れる席が、ひとつだけ空いている状態。予約しておいて良かったと、胸を撫で下ろす。  早速メニュー表を開いた郁也さんと周防さんが、定員さんにテキパキと注文をしてくれた。テキパキと注文をしてくれたのは、いいんだけど――  一応、太郎くんの退院祝いを兼ねているのに、好きな物を聞かなくて良かったのかな?  疑問に思ってるトコで頼んでいた飲み物が、先に運ばれてきた。周防さんは生ビールで、僕らは揃ってソフトドリンク。太郎くんは未成年だし僕たちはお酒に、めちゃ弱いからね(汗) 「とりあえず乾杯しちゃおうか。太郎、みんなに挨拶しな」  周防さんは隣にいる太郎くんを肘で、つんつんと突く。 「え~っ、何言えばいいか、わかんねぇ」  コーラの入ったジョッキを片手に、困った顔して周防さんを見た。太郎くんのその言葉に、頭を抱える周防さん。 「ももちん悪い、代わりに挨拶してくれない?」 「おー、いいぞ。太郎退院おめでとう! あと周防と恋人になれて良かったな。末永く付き合ってやってくれ、乾杯!!」 「かんぱーい!!」  四人でカチンとジョッキを鳴らして、派手に乾杯した。みんなそれぞれ飲み物を口にして、ニッコリと微笑み合う。  ここまでのやり取りで太郎くんを観察していたけど、どこにでもいそうな普通の高校生なのに。(もしかして、周防さんに甘えるための作戦なのか?)  時折見せる周防さんを見つめる視線とか、ストレートな物言いが、とても大人っぽいなって感じられたんだ。  これは是非とも郁也さんに、そういうトコを学んでほしいかもしれないな。 「あのっ小田桐さんって、コイツのどこが良くて、付き合ってるんですか?」  突然投げられた質問に、思わず郁也さんを指差してしまった。コイツ呼ばわりされるって、郁也さんと何かあったのかな? 「コイツ――何気に酷い」  横目で郁也さんを見ると、苦笑いをして太郎くんに文句を言った。 「太郎お前、ホント口の訊き方なっていないよね」  呆れた周防さんの言葉に、首を横に振る太郎くん。 「だってさコイツ、顔はいいけど、すっげぇ鈍感じゃん。一緒にいて、イライラしないのかなって思ったんだ」  確かに――なかなかいいトコ、突いてきたな。 「そうだね。結構鈍感だけど、そこもひっくるめて全部が好きなんだ」  僕が微笑みながら答えてあげると、隣で飲み物を飲みながら、ブッと吹き出す音がした。 「大丈夫? 郁也さん」  慌てておしぼりを渡そうとしたら、手持ちのもので対処していて、顔がすっごく真っ赤になっている状態。 「……涼一、盛大に告白しすぎだ、バカ////」 「ももちん、超テレちゃって可愛いねぇ」 「全部が好きって下手っくそな、絵を描くトコも含めて?」  僕の言葉にそれぞれ意見を言ってくれて、盛り上がったのはいいのだけれど、あまりやってしまうと、郁也さんの血管が切れてしまうかもしれない。上手く、話題転換してあげないと。 「そうだね。お互い出来ない所を、補い合えばいいかなと思うんだ。そういう太郎くんは、周防さんのどこがいいのかなぁ?」 「その質問に答えるよりも、タケシ先生に俺のどこが好きか、聞いてみたほうがいいんじゃないですかね。みんな、知りたいんじゃないの?」  何故か僕の質問が変換されて、周防さんに投げられる。固唾を飲んで周防さんを、みんなで見つめていると―― 「そんなこと知ったって涼一くんみたく、面白くも何ともないよ」  何故か不機嫌になって、グビグビとビールを一気呑みした。 「まぁまぁ。周防またビールでいいよな? すみませーん、生一つお願いします!」  そんな周防さんを宥めつつ、店員さんにビールを注文した郁也さん。こっそりと僕に耳打ちする。 「周防のヤツ、酒には強いんだがピッチが早いと、いい感じで呑まれるんだ。そのときにさっきの質問したら、いいのが聞けるかもな」  いっしっしと含み笑いをし、僕に体当たりとしたとき、注文した食べ物がタイミングよく運ばれてきた。  む――?  野菜盛りが異常に、多いような気がするのだけど?(注文したお肉の倍の量だよ)  その野菜の山を見て、何故か太郎くんが顔を引きつらせた。  固まる僕らを尻目に郁也さんと周防さんが、せっせとお肉と野菜を焼いてくれる。  というか、競うように焼いてる気がするのは、僕の気のせいだろうか? 「太郎シイタケが焼けたら、ちゃんと食べなよ。シイタケの中には、レンチナンとβ-Dグルカンがあってね、レンチナンは癌細胞の増殖を抑える効果があるし、β-Dグルカンは、免疫力を高めるんだよ」 「こっちのピーマンも食っておけ。色物野菜はビタミンが、豊富に含まれてるんだからな」 「ピーマンのビタミンよりもカボチャの方が、効果的だから。一緒にβ-カロチンやポリフェノールが、摂取出来るんだよ。免疫力をアップして、再発防止に備えなきゃならないんだからね」  目の前で繰り広げられる、管理栄養士しか言えない言葉と息子を心配するお母さん的な発言に、口が開きっぱなしになる。  チラリと太郎くんの方を見ると、相変わらず顔を引きつらせ、お皿の上にどんどん山盛りになっていく野菜に箸をつけることなく、ぴきんと固まっていた。 「あの太郎くん、早く食べたほうが美味しいと思うよ」  ふたりが丹精込めて焼いてくれたのだ、温かいうちに食べたほうがいいと思って、声をかけたのに―― 「俺、野菜キライ。食べられない。Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・」  その一言で状況が一変、管理栄養士とお母さんが固まった。  ∑( ̄Д ̄)ガーン(=Д=;)マジ 「お前一緒に暮らしてたとき、食べていただろう?」 「や……その、コッソリ残してた」  太郎くんの言葉に、肩をガックリ落とす周防さん。 「焼肉のタレは万能なんだ、絶対に食える! というか、食わせるんだ周防!!」  お母さん――じゃなかった郁也さんが、タレの入った容器を、周防さんに手渡した。 「太郎、お前は目をつぶって口を開けていろ。大好きな周防が、食わせてくれるから」 「え……でも」 「口に入れられる物は全部肉だと思えばいい。しかも周防がわざわざ食べさせてくれるんだぞ。超レアものだ。普通なら、絶対にあり得ないんだからな」  うわぁ無茶苦茶なこと言って、レア感を必死にアピールしているよ。  郁也さんが説得してる間に、周防さんは焼けている野菜に、しっかりとタレを滲みこませるべく、お皿の中で用意して、やる気満々だ。 「太郎くん、みんな君を思ってしていることだからね。いい機会だから、好き嫌いなくしてみたら?」  かくて三人の大人に丸め込まれ、泣く泣く野菜のみを食べることになった、可哀想な太郎くん。  食べさせつつも、しっかりビールを呑ませて、周防さんのキモチを吐露させたのは郁也さんで。    太郎くんの病気のことで、周防さんが無理矢理好きになったのかもと、心配しての質問だったのだけれど。  結果的には、ふたりが好き合っているのが分かって、一安心したのだった。

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