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ピロトーク:恋をするふたりの姿②
***
周防たちと別れ、涼一と並んで自宅まで歩いて帰る。
「周防さんが翻弄されるの、分かった気がしたよ。あれじゃあ大変だよね」
人通りが少なくなった通り道に入ってから、左腕を抱きしめるように、自分の右腕を絡めてきた涼一。じわりと伝わってくる、ぬくもりが愛おしい。
「あんな風に、ズバリと言われちまったら、こっちとしては引かざるおえないよな」
「正直僕たちって、お邪魔虫だったかも。だけど――」
潤んだ瞳で上目遣いをし、俺を見つめる。
「太郎くんの物言いを少しだけでも、郁也さんに学んでほしいって思っちゃった」
「ああいう露骨で、ストレートな言葉を言えって言うのか!?」
うわぁ難題だぞ、それは!
そう思いながら顔を引きつらせると、涼一は心底可笑しそうに、ふふふと微笑む。
「あそこまでは求めてないよ。ただもう少しだけ、僕を求めるような言葉がほしいなって」
「言ってるつもり、なんだが」
「言ってるつもりじゃ、つもりで終わってるからね」
「ワガママだな、涼一は」
立ち止まると、そのまま顔を寄せてキスをしてやる。
外でこういうことをするのは、俺としては結構、勇気のいることなんだ。まぁ涼一が髪を伸ばしてるお陰で、女に見えるのが幸い。
唇を離すと名残惜しかったのか、俺の頬に手を添えて、吐息を奪うように唇を押しつけてきた。
「――ワガママ言えるのは、それを聞いてもらえるのが、分かってるからだよ」
ひとしきりキスを楽しんでから、やっと口を開く。
「お願いを聞くと、お前の嬉しそうな顔が見られるからさ。出来ることは、何だって聞いてしまう」
肩を抱き寄せて、ゆっくりと歩き出した。
本当は早く家に帰って涼一を抱きたい気分だけど、こうやってふたり並んで、ダラダラと歩くのも悪くない。
「何だか今日の郁也さん、いつも以上に甘い感じがする」
「そうか? 変わらないと思うぞ」
「ううん、身体からじわぁって伝わってくるよ。酔っちゃいそう」
肩まで伸びた髪を、さらさらと揺らしながら俺を見上げる。
「周防さんと太郎くんの仲の良さに見事、あてられちゃったね」
「アイツらに、負けない自信あるんだけどな」
「どうやって、それを証明してくれるの?」
試すような言葉に、ウッとなってしまった。
「そっ、それはだな、今夜……」
「うん?」
頬に熱が集まって、みるみるうちに、赤くなっていくのが分かる。
涼一が求める言葉――太郎に負けないくらい、インパクトのある言葉で、コイツを納得させなければ。
「そんなに難しく、考え込まなくていいからね」
何故か助け舟を出されてしまい、余計困惑に拍車が掛かった。ホント、聡い恋人を持つと、出来ない自分がとても不甲斐なく感じる。
「いや、なぁ。どれもありきたりすぎて、思ったように、言葉に出来ないんだが――」
「郁也さんの口から聞ける言葉なら、何だって歓迎するよ」
肩に頭を寄りかからせて、目を閉じた涼一。抱き寄せてる手に、自然と力が入った。
「帰ったらお前を俺自身で、全力で満たしてやりたいって考えてる――」
「……いつも、全力じゃないの?」
目を閉じたまま、華麗なツッコミを投げつけられ、うわぁと慌てふためくしかない。
「ぜっ、全力に、決まってるだろ! その……いつも以上に気持ちを込めて、全力でって意味なんだ」
「どんな気持ちなのかな?」
次々と投げかけられる質問に対して、頭がクラクラしてきた。涼一に翻弄されっぱなしだ。
「勿論、愛してるって気持ちだぞ。ウソ偽りのない気持ちだ」
「じゃあ僕も、それに応えなきゃね。全力で受けてたつよ」
目を開けたと思ったら、頬に音の出るキスをして、さっさとひとりで歩いて行ってしまう。
もしかして――
照れてしまったのか? だからひとりで、歩いて行ってしまったとか?
急いで追いつき顔を覗き込むと、月明かりでも分かるくらい、頬が赤くなっていた。
「何だよ、郁也さんの赤みが、うつっただけなんだからね」
口調は怒っているものの、口角が上がってるので、本気で怒ってはいない。
そんな可愛い涼一の右手を握りしめて、引っ張るように歩いてやった。
「ゆっくり帰ろうかと思ったけど、そんな顔してたら、今すぐに襲いたくなった」
「そんなに急がなくたって、僕は逃げたりしないよ」
「バカだな、時間は永遠じゃないんだ。少しでも一緒にいたいからさ」
俺の言葉に、そうだねと頷いて自然と小走りになる。
月明かりが俺たちを照らし、長い影を作ってくれた。これから重なり合う姿を映し出すように――
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