47 / 87

ピロトーク:恋をするふたりの姿②

***  周防たちと別れ、涼一と並んで自宅まで歩いて帰る。 「周防さんが翻弄されるの、分かった気がしたよ。あれじゃあ大変だよね」  人通りが少なくなった通り道に入ってから、左腕を抱きしめるように、自分の右腕を絡めてきた涼一。じわりと伝わってくる、ぬくもりが愛おしい。 「あんな風に、ズバリと言われちまったら、こっちとしては引かざるおえないよな」 「正直僕たちって、お邪魔虫だったかも。だけど――」  潤んだ瞳で上目遣いをし、俺を見つめる。 「太郎くんの物言いを少しだけでも、郁也さんに学んでほしいって思っちゃった」 「ああいう露骨で、ストレートな言葉を言えって言うのか!?」  うわぁ難題だぞ、それは!  そう思いながら顔を引きつらせると、涼一は心底可笑しそうに、ふふふと微笑む。 「あそこまでは求めてないよ。ただもう少しだけ、僕を求めるような言葉がほしいなって」 「言ってるつもり、なんだが」 「言ってるつもりじゃ、つもりで終わってるからね」 「ワガママだな、涼一は」  立ち止まると、そのまま顔を寄せてキスをしてやる。  外でこういうことをするのは、俺としては結構、勇気のいることなんだ。まぁ涼一が髪を伸ばしてるお陰で、女に見えるのが幸い。  唇を離すと名残惜しかったのか、俺の頬に手を添えて、吐息を奪うように唇を押しつけてきた。 「――ワガママ言えるのは、それを聞いてもらえるのが、分かってるからだよ」  ひとしきりキスを楽しんでから、やっと口を開く。 「お願いを聞くと、お前の嬉しそうな顔が見られるからさ。出来ることは、何だって聞いてしまう」  肩を抱き寄せて、ゆっくりと歩き出した。  本当は早く家に帰って涼一を抱きたい気分だけど、こうやってふたり並んで、ダラダラと歩くのも悪くない。 「何だか今日の郁也さん、いつも以上に甘い感じがする」 「そうか? 変わらないと思うぞ」 「ううん、身体からじわぁって伝わってくるよ。酔っちゃいそう」  肩まで伸びた髪を、さらさらと揺らしながら俺を見上げる。 「周防さんと太郎くんの仲の良さに見事、あてられちゃったね」 「アイツらに、負けない自信あるんだけどな」 「どうやって、それを証明してくれるの?」  試すような言葉に、ウッとなってしまった。 「そっ、それはだな、今夜……」 「うん?」  頬に熱が集まって、みるみるうちに、赤くなっていくのが分かる。  涼一が求める言葉――太郎に負けないくらい、インパクトのある言葉で、コイツを納得させなければ。 「そんなに難しく、考え込まなくていいからね」  何故か助け舟を出されてしまい、余計困惑に拍車が掛かった。ホント、聡い恋人を持つと、出来ない自分がとても不甲斐なく感じる。 「いや、なぁ。どれもありきたりすぎて、思ったように、言葉に出来ないんだが――」 「郁也さんの口から聞ける言葉なら、何だって歓迎するよ」  肩に頭を寄りかからせて、目を閉じた涼一。抱き寄せてる手に、自然と力が入った。 「帰ったらお前を俺自身で、全力で満たしてやりたいって考えてる――」 「……いつも、全力じゃないの?」  目を閉じたまま、華麗なツッコミを投げつけられ、うわぁと慌てふためくしかない。 「ぜっ、全力に、決まってるだろ! その……いつも以上に気持ちを込めて、全力でって意味なんだ」 「どんな気持ちなのかな?」  次々と投げかけられる質問に対して、頭がクラクラしてきた。涼一に翻弄されっぱなしだ。 「勿論、愛してるって気持ちだぞ。ウソ偽りのない気持ちだ」 「じゃあ僕も、それに応えなきゃね。全力で受けてたつよ」  目を開けたと思ったら、頬に音の出るキスをして、さっさとひとりで歩いて行ってしまう。  もしかして――  照れてしまったのか? だからひとりで、歩いて行ってしまったとか?  急いで追いつき顔を覗き込むと、月明かりでも分かるくらい、頬が赤くなっていた。 「何だよ、郁也さんの赤みが、うつっただけなんだからね」  口調は怒っているものの、口角が上がってるので、本気で怒ってはいない。  そんな可愛い涼一の右手を握りしめて、引っ張るように歩いてやった。 「ゆっくり帰ろうかと思ったけど、そんな顔してたら、今すぐに襲いたくなった」 「そんなに急がなくたって、僕は逃げたりしないよ」 「バカだな、時間は永遠じゃないんだ。少しでも一緒にいたいからさ」  俺の言葉に、そうだねと頷いて自然と小走りになる。  月明かりが俺たちを照らし、長い影を作ってくれた。これから重なり合う姿を映し出すように――

ともだちにシェアしよう!