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ピロトーク:えぐられたキズアト②

「何やってんだ、テメェ……」  聞いたことのない唸るような声が、僕の耳に聞こえる。  身をよじらせて、床を這いつくばると傍で郁也さんが、鳴海さんの胸倉を掴んで睨んでいた。  怒りで釣りあがった瞳は、白目が充血している上に、顔も真っ赤になっている。こんなに怒った郁也さん、見たことがない。  その様子に、呆然とふたりを見るしか出来なかったけれど。その後容赦なく、何度も拳を振り下ろす郁也さんに、何とか体当たりをした。 「もう止めて! 僕は大丈夫だから、それ以上そんな人に、郁也さんが手を下すことなんてない!」 「涼一……?」  情けない格好で床に転がる僕を見て、慌てて駆け寄ってきた。 「大丈夫か?」  そして拘束されてた、両腕を自由にしてくれる。 「ありがと……ごめんね。油断して変な薬、飲まされちゃった」 「変な薬?」  安心感を与えるように、ぎゅっと抱きしめてから、視線を鳴海さんに向ける。  郁也さんに殴られた鳴海さんは顔中、痣だらけになっていた。 「Hになる薬ですよ。大体、一時間くらい効く物です」 「お前、よくも涼一に――」 「ダメ! この人の目的は、郁也さんなんだよ。苦しむ顔が見たいって、言ってたんだ」  薬のせいで身体が変な感じだけど、頭が妙にスッキリしていた。しかも郁也さんに支えられてるお陰で、正気を保つことが出来ている。 「鳴海さんもう、僕らの前に現れないでください。アナタの計画は頓挫したんです。郁也さんの苦しむ顔は、絶対に見られませんからね」 「確かに……完璧だった計画は、破綻してしまった」  ガックリと肩を落として、ヨロヨロと立ち上がる。 「何が完璧だ。お前が職場に忘れ物をしていたから、スマホにコールしたのに出なかったからな。涼一に電話しても出ないもんだから、おかしいと思って、慌てて駆けつけたんだぞ」  震える身体を、これでもかと抱きしめると、力ない腕でやっと抱きしめ返してくれた涼一。 「……はじめて、見たときから――」 「え?」 「いえ。すみませんでした、失礼します」  俺たちに頭を下げて、逃げるように出て行った鳴海。 (はじめて見たときから――?)  その言葉の意味に首を傾げて、涼一を見ると、眉根を寄せて難しい顔をしていた。 「鳴海さん、きっと……」 「どうした?」 「ううん、何でもない。それよりも僕、身体がかなりマズい状態なんだ」  困惑した表情をありありと浮かべ、苦笑いして言う涼一に、ますますワケが分らず、首を傾げるしかない。  まさかここから、修羅場に転じるなんて思いもよらなかった。

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