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画集のお祝い

 もう夜も更けてきたし、寝ようかなぁと、パソコンの電源を切る前に、メールチェックをした。一件の新着メールをハケ-ン!!(o・ω『+』  何かなぁとクリックしたところに、背後から忍び寄る郁也さんの手が、にゅっと伸びてきたのを目の端で捉える。   「んもぅ、ちょっとだけ待っててよ。すぐに終わらせるから」    パジャマの裾から忍び込んできた右手を、ぎゅっと掴んで引きとめ、画面に視線を移した。  これは――  メールの内容を読んで、はーっとため息をつくしかない。これを言ってしまうと間違いなく喜んで、今から着手しちゃうだろうな。 「郁也さん宛てに、メールで絵の依頼が来たよ。どうするの?」 「ん~なになに?  桃瀬さんに是非、太郎くんを描いてほしいなと思います♪  あ、周防さんとツーショットの絵も、良いかなぁ\(//∇//)\」  読みながらニヤニヤする横顔を、複雑な心境で眺めた。 「太郎くんの似顔絵は以前、描いたモノのがあるから、描かなくていいと思うんだけど、周防さんとのツーショットは、画集の花になりそうだね」  画集の花と言って表現してみたけれど、頭の中には前に郁也さんが描いた、太郎くんの似顔絵と周防さんの似顔絵がぼんやりと浮かび上がり、ふたつを組み合わせてみて、ひょえーってなっていたりする……  僕が言った言葉に喜ぶかと思ったら、なぜだか神妙な顔をし、顎に手を当てて考え始めた郁也さん。 「あれ、どうしたの? 浮かない顔して」 「いや、そのな。今までは単体でしか描いてないだろ。ふたつのものを描くのって、初めてだと思って。余白のバランスとかふたりの立ち位置とか、結構高等技術が必要だぞ」  郁也さんが困るのも、無理はない! だってこの人の絵は目から描くから、そのあとの輪郭とかバランスを取るのが、すっごく難しくなっちゃう。  ――だって、ふたり分なんだもの。 「無理なら断ろうか? それとも別なものを」 「いいや、俺はやる。やってやるさ、見ていてくれ涼一」  僕をぎゅっと抱きしめてから、いつも絵を描くソファに座り、さらさらと描きはじめた。  前回は、オカメインコとワカメを掛けたけど、今度は何を描くんだろうな。  郁也さんの下書きは早いので(1分クオリティ)ひょいと後ろから覗いてみる。  書いてある文字に、ぷっと吹き出しそうになった。難しい依頼に、やっぱりテンパっていたんだろう(汗) 「郁也さん、間違ってるよ。ここ……」 「うわっ、何やってんだ。サンキューな」 『恋』という漢字を『変』て書いちゃうなんて、周防さんたちに対して、悪いったらありゃしない。  その後、ペン入れをしてさらさらと色を塗り、無事に描き終えたのだけれど。毎回困るんだ、どういう感想を言えば、郁也さんが喜ぶだろうって。   手渡されたスケッチブックを手に、しばし考え込んでしまう。 「今回も太郎くんは、ワイルド仕様なんだね。しかも前回より目がキラキラしているのは、周防さんと一緒だから?」  何気に瞳孔が開いていて、見つめられるだけで、恐怖心が二割増だ(((;゚д゚))) 「よく気がついたな。周防の表情もいいだろ。ちょっと怒ってるけどテレてる感じが、まんまだと思ってさ」 「う、うん。可愛いね……」  太郎くんの親指が、周防さんの泣きボクロを取ろうとしてるように見えるのも、気のせいだと思いたい! 「この絵のタイトルは、恋はスイーツ。ふたりの関係がもっと甘くなりますようにと、俺なりにつけてみた」  漢字を間違って書いたクセに、よく言うよ――  そんなことを思いつつも、友人想いの郁也さんを後ろから、ぎゅっと抱きしめてあげた。 「郁也さんお疲れ様。早く寝ようよ」  涼一にせがまれて、郁也は嬉しそうな表情を浮かべ、ふたり仲良く寝室へと消えて行きました。  めでたし めでたし

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