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寝顔
実はずっと描きたいものがあった。恋人の涼一の姿――デッサンしようとすると、さっと気配を感じ取り、脱兎のごとく逃げてしまうので、今まで描けたのは両腕だけである(黒猫の絵を参照www)
――描きたい理由のひとつ。
それは親友の周防が恋人から、絵を贈られているのをみてるから。
アイツの家に行って、一緒に飲むたびにわざわざ、診察室からプレゼントされた絵を持ってきて、ほらほらと自慢してくれるのだ。
「太郎がさー、俺のためにわざわざアレンジして、それを描いてくれたんだよ。バックにある紅葉と、黄色い車の色のバランス見てみ。実際はもっと、赤の主張が多かったんだけど、それを控えめにして、車の窓ガラスに空の青を入れて、黄色をアピールしてくれてさー。どーしてだと思う? 俺が車の黄色い色が、キレイだって言ったからなんだよ、すごいでしょ! ももちんは絶対に、こんなの描くのは無理だよね」
長々と説明をして、胸を張りまくり俺を見下す周防の顔が、憎たらしいったらありゃしねぇ。
だから負けじと描きたくなった、涼一にプレゼントをするために。
周防が風景画なら、俺は人物画でアピールしてやると決め、涼一の姿を描こうとして狙っていたある日。
10月1日は俺の誕生日。美味しくカレーを食べ、いつもよりビールも呑んだ。
酔いつぶれる前にと、早々とシャワーを浴びた涼一。その間に俺は食器の後片付けをし、明日の仕事の準備をしてから、シャワーを浴びた。
濡れた頭をタオルで拭いながらリビングに戻ると、ソファの上で寝ている涼一の姿があり、これはチャンスだと、音を立てないように、さっさとスケッチをして彩色する。
「可愛い寝顔が見放題な上に、可愛く描いてしまう俺って、もう幸せ。有り難う誕生日、(∩´∀`)∩バンザ──イ」
なぁんてぶつぶつ言いながら描き終えて涼一を起こし、ベッドまで運んでやった。
その後のふたりは、ムフフたいむなので多くは語れない。
――次の日――
「涼一、おはよう! お前にプレゼントだ!!」
いつもの時間に目覚め、朝ご飯をつくり涼一を起こす。ねぼけ眼がハッキリと目覚めるよう、スケッチブックを目の前に突き出してやった。
「……誰、このアホ面してる人は?」
じと目で俺を見ながら言い放つ。
「えっと、それは涼一、なんだが」
「いつの間に描いたんだよ。人が寝てるときに、勝手に描いたの?」
寝癖がたってる髪をかきあげながら、ぎろりと睨むその顔が怖いこと。
「その、勝手に描きました……記念にプレゼントしようと思って」
「あ~、誕生日記念に描いたんだ。だからサイン入りなんだね」
「そ、そうなんだ。ももせのサインのところにあるハートらしきものは、実は桃だったりするんだぞ」
「へー……」
「ももせのせは、実は俺の顔だったりする。すげーだろ」
「僕って鼻ちょうちん出しながら、こんなだらしない顔して寝ていたんだね。すっごくショックなんだけど」
眉間にシワを寄せて、不快感をアピールしてから、布団に潜り込んでしまった涼一。
「いっ、いやいや。俺としては可愛らしさをだな、これでもかと表現してみただけなんだ」
「これのどこが可愛いんだよ! 郁也さん最低! 盗撮と同じだよ、やってること」
(|||_|||)ガビーン
かくて涼一はそれから3日間、口をきいてくれず、俺は途方にくれたのでした。
自分の過ちがどこにあるのか、未だにわかりません。BY桃瀬
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