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キタキツネ

 いつもの場所で絵を描いている郁也さん。珍しくパソコンを傍に置いて、それを見ながら何かをデッサンしていた。 「何を描いてるの?」  後ろからひょいと覗き込むと、それはキタキツネだった。  郁也さんの絵からは正直分からなかったので(犬かと思った)パソコンのモニターに映っている、それを見たんだけど。 「実はさ、俺って動物描くのが苦手なんだ。車もなんだけど。苦手意識を克服しようと思って、頑張ってキタキツネにチャレンジしてるトコ」 「え、偉いね。すごいや郁也さん……」  いろんな意味を込めて告げると、ちょっと照れた顔して、僕を見上げてくれる。  ――どうしよう、もう下書きが終わって、色塗りも8割がた終わってるから、今更言っても遅いんだけど…… 「郁也さん、どうしてキタキツネを描こうと思ったの?」  まずは当たり障りないトコから指摘してみよう。そう思い立ち、訊ねてみた。 「この看板が目に入ってさ。ここら辺じゃ見ない珍しいモノだろ。それがたまたまキツネだったんだ」 「へぇ……その看板の文字……何だか違う気がするのは僕だけ?」  苦笑いしながら指を差すと、w( ̄△ ̄;)wおおっ! なぁんて今頃気がつく始末。 「キタキツネ描くのに必死になりすぎて、注意が中注になってる。何を考えてこんな文字を……」  それは僕が聞きたい。看板の文字同様にキケンだ。 「だっ、だけどよ、キタキツネは思っているよりも、カッコよく描けたと思うんだ、うん」  最後まで色塗りをし、スケッチブックを掲げて眺めつつ、悦に入った郁也さん。  意味はないんだけど―― 『キタキツネは好きですか?』  という文字が浮かんだのはココだけの話。正直にカッコイイって言ってあげることが出来なかったのは、きっと看板のせいだと思う。  おしまい(・∀・)

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