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中編

 北斗と陸は、大学からの付き合いだ。屈強な見た目に反し、大の読書家で出版社でバイトをしていた北斗が、小説を投稿してきた陸に声をかけ、現在に到る。  ……二十年以上経つのに、陸と付き合いのあるのは北斗だけで。  その前となると蒼の両親、あと蒼が引き取られる前に亡くなった陸の祖父くらいしか、彼の交友関係は思いつかない――だからこそ、家出をした陸の行き先もこうしてすぐに特定出来たのだが。 (あんまり外出しないし、着物着てるから遠巻きにはされやすいけど)  それでも特に偏屈、あるいは対人恐怖症と言う訳ではないのだ――それなのに、これだけ限られた人間としか付き合っていないとなると。 (……今まで、改めて聞けなかったけど)  育てて貰った恩、ではなく。  惚れた弱み、あるいはそんな陸と暮らせている独占欲の為、あえて踏み込んでこなかったが――おそらく、家を出た時の「駄目」発言と関係あるのだろう。  乗ってきたタクシーを、北斗のアパートの前で停まっていて貰い、二階へと昇っていく。  そして、少し考えた後――一応、人様の家に乗り込むのでチャイムを鳴らし。 「……陸さん?」  声をかけながら、借りてきた鍵を使って中に入ると北斗から連絡があったのだろう。出て行った時同様、浴衣と羽織姿の陸が正座で蒼を出迎えた。 「…………」 「帰りましょう、タクシー待たせてますから」  咄嗟に思ったのは、謝って帰ってきて貰うべきかと言うことで。  ……けれど昔、求婚したのも、ずっと陸のことを好きなのも。  そんな自分に女性を紹介されて怒ったのも、むしろ陸が謝るべきだと思うので、何とか堪えてそれだけ言った。 「……全く、お前は」 「陸、さん?」  しばしジッと蒼を見つめて、ふ、と陸が笑う。  それだけで、安心して泣きたくなるのを必死に堪えながら、蒼は陸へと呼びかけた。 「悪かったな、不安にさせた……帰って、ちゃんと話そう」 「本当ですか?」 「これ以上、長居したら北斗に悪いしな。お前に、嘘はつかないよ」 (隠しごとは、しますけどね)  ついそう思ってしまう自分は、子供なんだろうが――確かに、陸は嘘はつかない。今は、それだけで十分だ。  ……あの家は、陸の家だから。長年住んでいるとは言え、一人だとどうしてもいたたまれなくなるのである。  そんな蒼を宥めるように、立ち上がりポン、と肩を叩いてくると――家を出て行った時同様、合切袋を手に取って、今度は二人で北斗のアパートを後にした。 ※ 「俺の両親は、俺が子供の時に病気や過労で亡くなっている」  タクシーを降り、一緒に家に帰ってきた陸が約束した通り口を開く。 「幸い、俺は祖父に引き取られたが、親がいないことには変わりがない。そんな中、お前の母親に会ったんだ」  蒼の母親にも親は無く、施設で育ったと聞いている。  実は昔、陸は母親のことが好きだから蒼を引き取ったのでは、と思ったことがあったが――当人には「あいつは、妹みたいなものだ」と一笑された。  今も不安が顔に出たのか、ふ、と陸が目を細める。 「まあ、学校なんかでは変に勘ぐられもしたけどな……あいつには、お前の父親がいた。高校で知り合って、卒業と同時に結婚したんだ」  父親には、母と違って両親がいた――けれど、父親は俗に言う不良だったらしい。陸に言わせれば「どっちかと言えば一匹狼?」らしいが、家族とは疎遠だったと言う。  そんな父だったが母を、そしてやがて生まれた蒼を養う為に就職し、真面目に働いていたそうだ。 「お前達一家は、俺の憧れだったよ。不器用だけど優しい父親に、明るい母親。そんな二人に愛されてる、お前……もっとも、出産祝いだけ送って会いには行けなかったけどな」 「どうしてですか?」 「その頃、祖父さんが亡くなって……まあ、寿命だったんだがな。喪中だったのもあったが、何かこう……」  そこで一旦、言葉を切って。  陸はため息と共に、思いがけない言葉を吐き出した。 「……俺が関わると、死んじまう気がして。だから、会えなかった」 「っ!?」  そんなことはない、と言おうとして――けれど、現に蒼の両親は亡くなっていて。  勿論、陸とは無関係ではあるけれど、タイミング的にそう思ったことは想像出来るので、蒼は言葉に詰まった。  そんな蒼に、ふ、と笑いかけて陸が話の先を続ける。 「本当は、お前を大切に思うなら引き取るべきじゃなかったんだろうな」

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