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第6話

恐らくは"鳴神 螢としての自分"と"汐 龍生が好きな自分"に挟まれ苦しんでいたのだろう若君は、堰を切ったように言葉と涙を溢れさせ、やがて泣き疲れたようにふっと眠ってしまった。 「……若様」 とんとん、と背中を擦ってやりそのまま身体を抱き上げる。 ベッドへと運んで横に寝かせ、流石に苦しいだろうとシャツのボタンとベルトを少し緩める。 「……ん……」 楽になったのか、小さく声を洩らしすぅすぅと若君は寝息を立て始めた。 「…………」 いくら四十を超え、ソウイウ欲が少なくなったとはいえ、俺も男。 ましてや、自分が若い時に恋していた(ひと)の面影を持つ青年に告白されれば、否が応でも欲が出る。 「……おやすみなさ……ッ!?」 ぐっと堪えて、離れようとするもいつの間にか服の裾を掴まれ、くんっと後ろへ引かれた。 「え……は、若様?」 起きているのかと声をかけてみるも、反応は返ってこない。 「(ということは無意識か……)」 すとん、とベッドに腰かけて柔らかな髪をそっと撫でる。 「(どーすっかな……一緒に寝るわけには)」 彼の本心を知らないならまだしも、気持ちを知ってしまった以上、それはまずい。 というか俺の身が持たない。 持ったとしても、明日朝イチで来るであろう、リオや家令に見られたらどんな事になるか。 それならまだ、と若君を起こさないようにベッドの端へ移動し、際にある紐へ手を伸ばす。 数分後、扉が開いて見慣れた顔が現れる。 「お待たせ致しました若……様?」 「よおリオ。悪ィな、寝てるとこ」 「いえ、構いませんが……」 状況が飲み込めない彼は珍しく、ぽかんとした表情を浮かべ、やがて納得したように頷く。 「なるほど。龍生さん、遂に司様への想いが堪えきれず……」 「なっ……違ッ!!」 「しーっ。大きな声を出したら、若様が起きてしまいます」 あと家令殿と司様も、と付け足すリオに軽く舌打ちしながら、改めて「違ェよ」と告げる。 「すみません、冗談です」 「お前な、冗談言う時くらい表情変えろよ」 真面目な顔で言うな、と睨めばクスクスと普段通りの笑い声。 「それで、えーと……何故私を?」 「ああ、そのな……若様が俺の服離してくれねえんだわ」 ちょいちょいと掴まれている部分を示しながら告げる。 「んで、無理矢理剥がすわけにはいかないからよぉ……このまま朝まで残るから、明日はリオが朝イチで来てくれるか?」 誰にもバレないように、と頼むと承知しましたとにこやかに笑った。 「あ……でも手を出したら報告しますからね。司様に」 「するかバカ!」 「だから声が大きいですって」 それでは、と部屋を出ていくリオ。 また二人きりになった室内。 覚悟を決めて、ベッドに潜り込む。 「頼むから……これ以上煽らないで下さいね、若様」 ポツリと呟いた言葉に、当然若君からの返事はなく。 意外と疲れていたらしい俺もまた、不埒な事を考える間もなく、夢の中へと吸い込まれていった。

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