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首都リーム-1-
一夜明け。山を降り平野を半日ほど進むと小さな街に着いた。
先にあるコーネロ国首都リームにて旅客用の飛空艇に乗り自国を目指す予定の三人は街の大衆浴場で湯浴みをし、衣服を購入すると身嗜みを整えた。
例えはぎれや泥まみれの服を纏っていたとしても人目を惹く容姿を持つ三人が身奇麗にしたのだ。注目を集めない訳がない。
三人の姿を視界の端にでも捉えた者は一人残らず足を止め凝視した。
歩く先々で老若男女問わず無遠慮に見つめられ、目立ちたくない三人は仕方なく路地裏に入ると長い布を顔に巻き付け、外套に付いたフードを被った。
顔を隠したぐらいでは完全に人目を阻む事は出来ないが、騒ぎを起こさない程度には存在を誤魔化し首都リームを目指し進んだ。
街を抜け、首都リームから流れてくる人々と擦れ違い時に妙な噂話が耳に付いた。
首都の入り口に少女が貼り付けられている――と。
『可哀相に』『酷い事をする』等と口々に囁き合っていた。
噂が気になったアークは誰にともなく独り言のように零す。
「罪人が見せしめに貼り付けられているのだろうか?」
声に同情的な色を感じ、イグルはすぐさま嗜めた。
「駄目ですよ。幾ら哀れでもここは他国です。勝手な手出しは無用です」
「言われなくても分かっている」
国にはその国の法があり、処罰がある。可哀想だからと個人の感情でそれらを犯す事は出来ない。騎士であるアークもそれは理解している。
重い溜息を吐くと、ただひたすらに歩みを進めた。
首都リームへの入り口。高さ十メートルある石造りの門が視認できる所まで来た時だった。
先頭を歩いていたログが足を止めた。
魔術によって視力を鷹と同等まで引き上げ、周囲を警戒していた騎士の目に何か引っかかったのかとアークとイグルは伺い見た。
顔を布で覆っている為表情は分からないが、明らかに瞳に怒りが見て取れ、イグルはログ同様視力を上げ、視線の先を追った。
ログの怒りの理由に気付き、イグルはアークを見た。
イグルに治癒の術式をかけられたままの状態のアークは魔術が使えず、視認する事は出来ないが、二人の様子から自分に関係する何かかあるのだと理解した。
「何がある? 報告しろ」
強い口調で命じると、白銀の魔術師は硬く冷えた声音で報告した。
「レイナが貼り付けられています」
「レイ…ナ?」
村で知り合い、自分を元気付けようと食事を作り、魔物から逃がそうと奮起してくれた少女が何故?
そんな疑問は瞬時に消えた。
考えるまでもない。
「我々を誘き出す為の罠ですね」
小物とはいえ何十体もの魔物を剣術のみで倒した自分たちを危険と判断しての事だろう。
街道を馬かあるいは別の乗り物を使い夜通し走り、先回りしたのだ。
捕らえ所在を確かにしたいのか、問答無用で処分したいのかは分からないが、自国の民……しかも何の罪もない少女を囮に使うような愚行を無視し素通りするような恥知らずなまねは出来ない。
意を決し、イグルを見る。
「レイナは罪人じゃない。止めるなよ」
冷静な口調であったが、アークから怒りと強い意志を感じ、軽い溜息を吐いた。
「止めませんよ。貴方がそう言うと分かっていましたから、作戦を立てました」
アークは力強く頷く。
「よし。では作戦を聞こう」
三人は木陰に隠れると、大きな身体を寄せ合い作戦会議を始めた。
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