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首都リーム-3-

 レイナは何故こんな事になったのだろうと考えていた。  王子さまたちが村を出て直ぐに兵士がやって来た。  今まで何度となく魔物に襲われたが一度として助けに来た事がないのに。  不思議に思いながらも兵士の「何があったのか」と言う問いに自分を含め村の人間は素直に答えた。 「通りすがりの旅人に助けてもらった」のだと。  どんな風体だったか。人数は何人かなどの質問には村長が代表して答えていた。 「へぇ。……普通の何処にでもいる旅装束の三人でしたなぁ」  村長の惚けた言葉に、あの三人の何処が普通だったのかと否を唱えたかったが、三人について詳しく語ってはいけない。そんな空気を感じていたレイナは口を噤んでいた。  質問に答えるものの詳しい事を何も語らない村人に痺れを切らした兵士は「今からする質問に全員自分では無いと答えろ」と命じた。  訳が分からないまま質問を待つと「この中で一番旅人と深く関わったのは誰か?」と問われ、全員が言われた通りに「自分ではない」と答える。  すると質問を行っていた兵士がレイナの前にやって来た。 「お前か」  確信を持って断言する兵士に困惑しているとレイナは担ぎ上げられ、両親や村人の制止の声も空しく連れ去られた。  馬車の荷台に荷物のように積み込まれ「降ろして」「家に帰して」と何度となく訴えたが、兵士は誰一人として耳を傾けるものはいなかった。  自分がどうなるのか。何処へ連れて行かれるのか分からず、恐怖から振るえ泣きじゃくり荷台で一夜を過ごし、翌朝目にしたのは大きな石造りの門と城壁だった。  初めて見る物に驚いていると兵士に引き摺られるように荷台から降ろされ、石造りの門の前へと連れて行かれた。  自分は何か悪い事をしたのだろうか?  だからこんな目に遭っているのだろうか?  何度考えても何も思い当たる節はなく、「嫌だ」「止めて」と何度も訴えたが「煩い」と頬を張られ髪を鷲掴まれ引き摺られた。  声を発すればまた叩かれるのだろうと悟ったレイナは理不尽な扱いをただ歯を食い縛り耐えるしかなかった。  十字の板に貼り付けられ、通行人の好奇の目に晒されながらも、みっともなく取り乱したりせず頑張れたのは一縷《いちる》の望みがあったから。  王子様たちが助けに来てくれると信じていたから。  だが、日が傾くにつれ飲まず食わずの状態で貼り付けられていたレイナは精神的にも肉体的にも追い詰められていた。  王子様たちはもう遠くへ行ってしまったのかもしれない。  誰も助けには来ないのかもしれない。  このまま死んじゃうのかな。    諦め、目を閉じた時だった。  突然の暴風に襲われ、十字の板ごと身体が傾いた。  地面に叩きつけられる覚悟をしたが幾ら待っても衝撃はなく、その代りに固定されていた手足が自由になると同時に箱のようなものに押し込まれた。  何が起こっているのか訳が分からず、恐る恐る目を開けてみるが、箱の中は暗く何も見えなかった。  身を固め、恐怖にただひたすら耐えた。  身体に伝わる振動から自分が何処かに運ばれている事は分かった。  一体何処へ連れて行かれるのだろう。  膝を抱え顔を埋めていると、不意に箱の中に夕日が差し込んだ。 「遅くなってすまない」  聞き覚えのある優しく誠実な声に顔を上げる。  目元以外は布で覆われているが、印象的な蒼氷色《アイスブルー》の瞳で声の主が誰だか分かった。 「お…うじ……さま」  助けに来てくれたのだと感動から涙が溢れてきた。

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