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其処は-7-*
剣を交えていると不意に元勇者の剣から力が失われ、刃を押し返すと防御壁の上を転がるようにして倒れた。
今度は何だと少年魔王は黙ったまま見ていると、元勇者は立ち上がった。
それまでの生気のない動きとは違い威圧的な気を放ちながら。
少年魔王は笑みを零した。
「やっと意識を取り戻したんだね。魔族に仲間入りした君はどれくらい戦えるのかな?」
アークは答えの代わりに術式を展開させた。
爆裂系第八位。発光弾。
眩い光で視野を奪うとすぐさま氷結系第七位。氷柱の杭を放つ。
魔王が魔剣を一振りし、全てを薙ぎ払うと更に氷柱を放った。
それらも全て薙ぎ払い、次に打ち込まれる元勇者の一撃に備えるとすぐさま甲殻鎧《こうかくがい》の剣が振り下ろされた。
目を閉じたまま魔剣でそれを受け止めると嬉しそうに笑った。
「低位の術式でも考えて使えばちゃんとした攻撃になるね」
両者一歩も引かず、刃を合わせていると不意に少年魔王はバランスを崩しその場に倒れた。
視界を奪われ気付けなかったが、先程薙ぎ払った氷柱が防御壁の床に落ち、溶けて少年魔王の足元に集まると氷結し足を固定したのだ。
一体何のまねだと即座に立ち上がろうとするが、それよりも早く次なる術式が展開される。
防御系第一位。絶対防壁。
包むようにし出現した壁はそのまま少年魔王を閉じ込めた。
一枚では直ぐに打ち破られる為、何十にも張り巡らせ自由を奪った隙にアークは次なる術式を組み上げていく。
一つ組み終わると次へ。それが組み終わると更に次へと。
四つ目が組み終わる直前に少年魔王は絶対防壁を全て打ち破り外へと出てきた。
「ビックリだよ。発光弾も氷柱も僕を閉じ込める為の布石だったんだね? で、僕を閉じ込めてまで展開させたかった術式って何? 何を見せてくれるのかな?」
自己修復で元に戻った目で見つめると元勇者の頭上高く複数の円状の波紋が現れ、その中心から多種多様な剣が出現した。
「魔弾の剣? 閉じ込めてまで組み上げる様な物じゃないよね?」
期待外れの術式に口を尖らせむくれていると剣の雨は容赦なく降り注いだ。
少年魔王はそれを嬉々として弾き返していく。
第一弾が終わると第二段が間髪いれず降り注ぐ。
何百という剣を全て弾き返し、第三段目を受けている途中で少年魔王は自身の異変に気付いた。
『手足が・・・身体が動かない』
迫る剣に対し防御壁を張ろうにも舌が麻痺し術式が唱えられない。
仕方なく呪文を省略出来る低位の防御系術式を展開させるが、剣の雨に対し強度も速度も間に合いはしなかった。
幾つかの剣が少年魔王の手足を貫いた。
身体を貫く剣に支えられる形で何とか膝立ち状態を保ち、顔を向けると元勇者は口の端を歪め薄く笑っていた。
その残忍な笑みに答えるように微笑もうとするが麻痺した表情筋は引き攣るだけだった。
暗雲立ち込める空に新たに複数の剣の出現を確認し、宴の終焉を感じた。
『今回は僕の負けだね。・・・そう言えば、名前聞くの忘れてたな』
次の瞬間、少年魔王へと剣の雨が降り注いだ。
少年魔王が無数の剣に串刺された姿を見て、安堵と共に一抹の不満を感じた。
戦い足りない。
もっと血肉沸き踊る戦いをしたい。
肉を斬り、骨を砕き、内臓を引きずり出したい。
血を肉を命を感じたい。
殺したい・・・殺したい・・・殺したい・・・殺したい。
殺す・・・ころす・・・コロス・・・コロ・・・コ・・・。
何を馬鹿な!
戦闘を求める自分を一蹴するが、戦意と殺意が溢れ出る。
戦いたい! 殺したい! 壊したい!
噛み砕き、引き千切り、握り潰し、擂《す》り潰したい!!
一片の肉も残さず! 一滴の血も残さずに全てを滅する!!
悪意と殺意に支配された身体は無意識に少年魔王へ近付いて行く。
無数の剣に貫かれ、大量の出血をしながらも自己修復される姿を見てアークはほくそ笑んだ。
不老不死。
何をしても何度しても決して死なない存在。
血肉沸き踊る戦いが幾らでも行える。
命が失われる虚無感を味わう事は出来ないが、痛め付け嬲り断末魔を上げさせる興奮と感動を味わえる。
永遠に・・・・・・。
ドクドクと煩いくらいに高鳴る鼓動を感じながら防御壁に転がったままの剣を拾い上げた。
今修復されたばかりの箇所に突き刺すために。
永遠に味わえる快楽に酔いながら剣を振り上げ、下ろそうとした時だった。
何かが頭を掠めた。
永遠に・・・・・・。
えいえんに・・・・・・。
エイ・・・エ・・・ン・・・に・・・・・・。
違う!
違う!!
永・・・遠・・・に・・・。
違う!
俺は魔王城《ここ》に居たくない!
居てはいけない!!
帰らないと・・・・・・。
レイナを連れ帰らないと・・・・・・。
剣を防御壁へ叩き付け、必死にレイナの事を思い浮かべる。
屈託のない笑顔。強く優しい存在を思い考え、汚い欲望に負けてしまわないようにと何度も何度も。
レイナ・・・レイナ・・・レイナ!!
魔王へ執着する気持ちを引き剥がすようにふらふらと後退り距離を取ると、魔王城に張り巡らされた防御壁から降りるべく端へ向かった。
三十メートル以上の高さがある為、低位の防御壁を五十センチ間隔で張り、階段のようにして下りて行くと、城の半分程の高さまで防御壁の階段を張った所で魔力が尽きかけているのを感じ、改めて作戦が成功した事に胸を撫で下ろした。
発光弾も氷柱も防御壁内に留める布石だった。
一枚目は足止めと目隠しの為に。
そして二枚目を張る際に毒物系術式で神経毒を組み上げ、三枚目四枚目も同様に毒を忍ばせた。
本来なら一吸気で意識を失うほどの猛毒だが、不老不死である魔王に効くのか。効くとしてどれ程の効果があるのかは分からなかった。
だが、神経を麻痺させなければ幾ら切り刻もうと治癒術式で直ぐに元に戻ってしまい勝つ事はおろか足止めする事すら出来ない。
一か八かの賭けだった。
思いのほか毒は効き、術式を封じる事が出来た。後は自己修復能力のみ。術式と違い時間がかかる。
もし、麻痺が直ぐに回復したとしても顔面を剣で貫かれている状態では術式は使えないだろう。
それでも与えられた時間は多くない。
シスという魔王がこちらを侮り、自身の不老不死の能力に胡坐を掻いていたからこそ成功した作戦だ。二度は使えない。
あんなモノと永遠に戦うなどありえない。
一分一秒でも早く魔王城《ここ》を出るんだ。
早くレイナの元に行かねば・・・・・・。
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