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其処は-10-
部屋に一人残され、枷を嵌められた状態のまま再び扉が開くのを待った。
たいした時間は経っていないだろうが、待っている時は長く感じる。
ジリジリと徐々に膨らむ焦り。
眼帯の魔物は帰すと言っていたが、その言葉は信じるに値するのだろうか?
本当に食べ物を取りに行ったのだろうか?
魔王が城を空けているとも言っていたが本当だろうか?
全て嘘ではないのか?
帰す気はなく。魔王を呼びに行ったのではないのか?
半年間監禁されていた部屋に手足を拘束された状態でいる。
魔王が居ようが居まいがこのまま再び監禁されればあの屈辱の日々が始まる。
そんな事は冗談ではない!!
慌てて枷から逃れようと腕を動かす。
だが、逃れる事は出来ない。
当たり前だ。
筋肉強化をしてもビクともしなかった頑丈な枷を何の術式も使わずに壊す事など出来ない。
どうする?
どうすればいい?
窮地に陥っている焦りからか呼吸は乱れ心臓は早鐘を打つ。
必死に思考を巡らせるが、案が浮かばず焦りが増す。
自力で枷を外す事は不可能だ。
今出来るくらいなら監禁されていた時にやっていた。
外されるのを待つしかないのか?
それは捕らわれる事を意味するのではないか?
忌まわしい記憶が蘇り身体が震える。
全身の毛穴が開き嫌な汗が噴出し、身体が熱量を増す。
煩いくらいの鼓動が鳴り響く中、下半身に甘い疼きを感じ始め絶望から目の前が暗くなった。
先程口付けられた時に何かされたに違いない。
やはり俺を帰す気など無いのだ。
下肢の奥が熱を持って疼く。
悔しさと怒りでありったけの呪いの言葉をぶちまけていると、不意に扉が開かれた。
「遅くなりました」
魔王と共に戻る事を予期していたアークは身構えた。
だが、扉から姿を現したのは両手いっぱいに荷物を抱えた眼帯の魔物だけであった。
「お待たせしました。三日分の食料をと思いまして色々と詰めていたらこんな事になりましてね」
そう言いながら部屋に入り、再び影に侵食されているアークの姿を見て僅かに表情を曇らせた。
「困りましたね」
「・・・俺に何をした」
「何も」
「嘘を付くな!」
なら何故、身体が興奮状態に陥っているんだ。
言葉にせずとも身体の状態から何を言いたいかを汲み取った魔物は、抱えていた荷物を床に降ろしアークへと近寄った。
「魔王の魔力核が発動すると欲が剥き出しになります。それは何かきっかけを持って発動し、満たされるまでは治まる事はありません。最初の欲は強敵が現れた事により発動し、敵の排除。魔力を使い果たした事によって満たされ治まりました」
説明をしながら魔物は枷を外して行く。
手足が解放されると同時にアークは眼前の魔物へ飛び掛った。
首を絞め、殺す為に。
避ける事をせず、なすがまま押し倒された眼帯の魔物はアークの張り詰めたソコにそっと手を這わせた。
「ぁふ・・・!」
背を仰け反らせながら震える姿に魔物は微笑を深めた。
「早いですね。余程溜めていたのですか?」
醜態を晒した恥ずかしさと魔物の手から逃れる為に飛び退いた。
「何を・・・」
「何って、私を使って欲を満たすつもりではなかったんですか?」
「ふざけるな! 俺はお前を殺す為に・・・」
「私を殺す? それは無理でしょう。今出来るなら捉えられていた半年の間に成し遂げていたはずですよ」
言葉に詰まり、忌々しげに睨み付けていると「どうします?」と問われた。
問いの意味が分からず探る様な視線を向けると、問いの意味の説明がされた。
「性欲を満たさない限り治まりません」
満たさない限りは・・・。
軽く射精したばかりのソコは硬く猛ったままで、身体は熱を増し、甘い疼きは徐々に強くなっている。
「魔王に頼み魔力核を取り出せば欲に囚われる事はなくなります」
魔王に・・・。
「その場合のリスクは魔王《あれ》は確実に貴方を犯します。それだけで済めば良いですが、手放すのが惜しくなり再び捕らえられるかもしれません」
「そんな事・・・冗談じゃない!!」
「現状のままレイナを連れて出て行くという案もありますが、この場合のリスクはレイナあるいは道中に見かけた人間に対して欲望をぶつけてしまわないかという事ですね」
「そんな事は・・・」
理性と自尊心をもって箍《たが》を外さないと断言する事が出来ず、口篭る。
「私を使って満たすと言う案もあります。この場合のリスクは・・・」
間を置き「貴方が不快な思いをするくらいでしょうか? どうします?」
問われ、歯噛みする。
冗談ではない。
誰が魔物なんかと!!
何か他に良い案はないかと思考を巡らせる。
だが、熱に浮かされた頭はまともに思考する事は出来ず、何を考えても直ぐに淫靡で卑猥な内容へと変換してしまう。
全身が心臓になったのではないかと思えるほど身体中が脈打ち続け、苦しさともどかしさからその場に蹲り、足へ爪を立て必死に堪える。
大丈夫だ!
これくらい耐えられる!
堪えろ!!
そう自分に言い聞かせるが、捕らえられていた過去の状況と今が重なり魔王の囁きが浮かぶ。
――楽になりたいだろう?
煩い!
――初めてじゃないんだ。我慢する必要が何処にある。
煩い! 煩い!
囁きを振り払おうと額を床に打ち付ける。
大丈夫だ。これくらい何でもない。
絶えられる。乗り越えられる。
熱に侵されながらも必死に自分に言い聞かせ、律する為に自らの腕に歯を立てた。
痛みを感じてはいるものの熱が引く事も曇った思考が晴れる事もなく、生理的な涙と唾液を流しながら荒い呼吸を繰り返していると頭の上から声がかけられた。
「駄目ですよ。そんなに強く噛んでは」
全く違う声。
この場に居ない存在。
だが、話し方が纏っている空気感が似ている事で欲望に侵食された心は縋る様にその名前を零した。
「イグル・・・」
聞き取れ無い程の呟きであったが、眼前の者はそれを聞き逃さなかった。
「魔王城《ここ》に来たばかりの頃にも寝ぼけてその名で呼びましたね」
そっと優しく背を撫でる。
「先日、本人を見て納得しました。確かに私とあの者は似ていますね。姿形ではなく、本質が・・・」
微かな笑い声の後、腕から離される様に顔を持ち上げられた。
涙で歪んだ世界に銀髪の人物が覗き込んでいた。
「この姿なら貴方は苦しまずに済みますかね?」
涙を拭われ、姿が確かになる。
「イ・・・グル・・・」
心より信頼している友の姿を目にし、必死で支えていた精神が揺らぐ。
堪えていた欲望が騒ぎ出し、硬く張り詰めたソコからは蜜が溢れ出し、内壁はヒクついた。
――犯しても犯されても何も感じません。命令とあればどんな事でも出来ます。
山道での会話が脳裏に浮かび上がる。
「イ・・・グル」
駄目だと止めろと理性が訴えるが言葉を止める事は出来ず、縋るように懇願した。
「助けてくれ」
銀髪の男は優しく微笑み。
「仰せのままに。アーク様《・》」
そう言い。そっとアークへ口付けをした。
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