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其処は-12-※
「濡らして貰えますか?」
口元に指が差し出された。
何のためにかは聞かずとも分かった。
躊躇いを覚えながらも、欲望を満たすために必要な行為だとそっと口付け、たどたどしい舌遣いで指の付け根から先へと舐め上げて行く。
何度かそれを繰り返していると口腔へ指を割り入れられ、咥えるようにして舐め続けた。
「もういいですよ」
そっと口から指し抜かれた指を見れば唾液に塗れ、いやらしく艶めいていた。
今からこれが自分の中に納められるのだと期待し、熱っぽい吐息を漏らす。
濡れた指先が陰部に押し当てられ、緊張から力が込められたのを感じ取った銀髪の男は喉の奥で笑った。
「力を抜いて下さい」
熱に浮かされどうすれば力を抜く事が出来るのか分からず深い呼吸を繰り返し、力を抜くように心がける。すると呼吸に合わせゆっくりと指先が陰部へと潜り込んで来た。
ざわざわとした疼きに身体が振るえ、息を呑む。
抵抗無く二本の指を受け入れると指は内壁を擦りながら最奥へと進んで行く。
何かを探るように内壁を撫でられ甘ったるい喘ぎが鼻を抜けた。
ある一点に指があたり、声と腰が卑猥に跳ね上がると銀髪の男は微笑を深めた。
「ここですね」
「ちっ違っ・・・」
「そうですか?」
アークの言葉を確かめるように執拗にそこを攻める。
「やっ・・・止めっ・・・!」
肩を押し返し、指を止めるように訴える。
「イグル・・・駄目・・・そこ・・・駄目だ!」
だが、動きが緩まる事は無く。
「失礼。こちらもでしたね」
そう断ると形の良い唇を蜜の滴る性器へと這わせ、一気に口腔へと納めた。
「あ、あああっ・・・!!」
脳を貫く刺激に身悶える。
前後を同時に攻められ瞬く間に愉悦が込み上げ、絶頂に震えが走る。
だが、それを見計らったかのように性器から口を外し、陰部からはずるりと指を指し抜かれた。
突如熱と刺激を失い欲望を捌《は》かす事が出来ず、狂おしいもどかしさから顔を歪める。
――イきたい。
舌と唇で性器を攻めて欲しい。
硬いモノを突き立て、中を擦って欲しい。
その事しか考えられず、苦しみから解き放ってくれと縋るように目をやると、銀髪の男は優しく微笑んだ。
「直ぐに差し上げますよ」
言われ、導かれるまま床へ背を預けると両脚を抱え上げられた。
これから行われる事を見せ付ける様に高く掲げられた腰の奥へと熱があてがわれる。
銀髪の男の逞しい先端が陰部を抉じ開けようとしているのを見て、不安が過《よ》ぎる。
欲望のまま肉体関係を結んだ場合、これまでのようにいられるのだろうか?
友として、仲間としていられなくなるのではないのか?
――嫌だ!!
最後の一線を越えてはならないと身を引こうとするが、しっかりと腰を固定され動けなかった。
「何故逃げるのですか? これは貴方が望んだ事ですよ」
「駄目だ。お前を失いたくない!」
アークの訴えを聞き、銀髪の男は愛おしむように深く微笑んだ。
「この期に及んでまだそのような事が言えるのですね」
熱い楔がゆっくりと穿たれるのを視覚と粘膜へ与えられる淫らな刺激によって突きつけられる。
「やっ・・・だめっ・・・!!」
ずぶずぶと力強く押し入ってくるものの感触に脳が痺れる。
「やあっ・・・あ・・・ぁ・・・」
根元深くまで沈められたのを感じ、取り返しの付かない事をしてしまったのだと心が冷え身体は震えた。
この世の終わりのような悲壮な表情を張り付かせているのを見て銀髪の男は抱きしめるように覆い被さった。
「ふふっ。あまり煽らないで下さい。我慢が利かなくなる」
「イ・・・グル?」
耳元へ囁く。
「介抱と影を押さえるための行為でしたのに。・・・私自身を刻みたくなります」
その言葉を証明するかのようにゆっくりと先端を残したまま引き抜かれ、すぐさま最奥まで一気に貫かれた。
脳髄まで突き刺さる甘い衝撃に身も世もなく喘ぎ、自分を支配している男の背に爪を立てる。
内壁を突き崩すように意地悪く突き上げられ、苦しい程の愉悦に意識を刈り取られそうになりながらも必死に静止の言葉を紡ぐ。
「イグル・・・やめっ・・・止めてくれ!」
魔王の魔力核の影響で心も身体も欲に侵食され、肉欲に塗れた淫乱と化していてもおかしくないというのに、ギリギリのところで自分を手放さないようにと必死に抗っている姿に欲情を覚え、銀髪の男は抽挿《ちゅうそう》を早める。
追い詰めるつもりも必死に守っているものを瓦解させるつもりもなく、ただ目の前の愛おしい存在を強く激しく貪った。
意識を刈り取らんばかりの責めに卑猥な濡れ音と共に甘い喘ぎを上げながらも訴える。
「はぁ、ん・・・だめ・・・だ・・・イグル・・・」
健気でいじらしい姿に男は楔を膨張させた。
圧倒的な存在感を放つ楔に熱く熟れた内部を執拗に擦り上げられアークは目を瞠った。
「ひっ、やぁ・・・!」
脳天を貫く程の快楽に腰をうねらせ全身を震わせる。
急激に押し寄せた絶頂に長く尾を引く嬌声を上げながら男の背に爪を立て掻き毟った。
アークが達したのを感じ、銀髪の男は最奥へ雄芯を捻じ込む。
淫らに痙攣しているそこへ熱い奔流を感じ、失意から涙を零す。
「すま・・・ない・・・イグル・・・」
焦点の合わない瞳を彷徨わせながら何度も何度も謝罪の言葉を繰り返す。
「すまない・・・すまない・・・」
魔王の力に負け、欲に溺れた事を。
意に沿わぬ事をさせた事を。
友という立場を守りきれなかった事を。
「すまない・・・イグル・・・」
小さく震える姿に甘い疼きを感じ、涙をすくうように頬を撫で上げる。
「私はイグルではありませんよ」
銀髪の男は優しい微笑を浮かべながら独り言のように呟き、そっとアークの瞼に唇を落とした。
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