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其処は-13-

 浮遊感を覚え目を開くと見慣れた顔があった。  細くはあるものの力強い腕に背と膝の裏を支えられている。  イグルに抱きかかえられている。  何故そんな事になっているのだろうかと考えるが頭は霧がかかったように思考が上手く行えない。  答えを求めるように妍麗《けんれい》な顔を見ていると不意に視線が合った。 「気が付きましたか」  優しく穏やかな微笑みを向けられ、酷く落ち着かない気持ちになる。  ――何だ?  違和感の理由を探るように視線を彷徨わせ辺りを伺う。  見覚えのある天井、壁、装飾品に一気に意識が覚醒する。 「アーク様?」  反射的に手を振り回し、自分を抱えている手から逃れる。身を翻し床に着地と同時に立ち上がった。戦いに備えて。  だが、その時。  陰部から液体が零れ、太股を伝う感触に血の気が引いた。 「おや。まだ中に残っていましたか」  何があったかなど思い出すまでもなかった。  魔王の魔力核により性欲に浮かされイグルに・・・。イグルの振りをした魔物に縋りつき、交わったのだ。  通常の状態なら目の前の者がイグルでない事など直ぐに気付けた。  あいつは無闇に微笑を浮かべはしない。  必要が無い限り表情を作りはしない。  何より俺を様付けで呼ぶ事はしない。  だと言うのに、俺は・・・俺は・・・俺は・・・!  大切な友と一線を越えなかった事に安堵すると共に強い憤りが首を擡げる。 「そのふざけた姿変えの術を解け」  込み上げる怒りを抑えながら吐き捨てると、凛々しく冷たい印象を与える切れ長の目をした銀髪の青年は一瞬にして女性的で柔和な顔をした黒髪の青年へと姿を変えた。  浮かべている笑みは同じもののはずだが、顔が変化した事で受ける印象が変わり、怒りが爆発した。  術式を展開させ甲殻鎧《こうかくがい》の剣を出現させ斬りかかる。正確無比な斬撃であったが眼帯の 魔物は難無くそれを避けた。 「ご挨拶ですね」  嫣然と微笑む魔物を打ち崩すべく二撃目。三撃目と繰り出すが、掠《かす》る事無くかわされる。  大きく剣を振り抜いたところで背後に回り込まれ背中を突かれた。  崩された体勢を立て直し剣を構えようとしたが、それよりも早く頭を床に叩き付けられた。  衝撃によりほんの一瞬目を閉じた間に甲殻鎧《こうかくがい》で作られたU字状の枷を首へと嵌められる。  床に縫い付けられながらも術式を展開させようと口を開くが、そこへ甲殻鎧《こうかくがい》の短剣が捻じ込まれた。 「体術も剣術も私には勝てない。半年の間に思い知りましたよね?」  ――煩い! 「魔王の魔力核を当てにしているのなら考えを改めた方がいいですよ。それなら私も持っていますから」  ――それがどうした! 「貴方が使える術式は私も全て使えます。貴方と同等かそれ以上の威力を持ってね」  眼帯の魔物は馬乗りの状態で悪戯っ子を嗜めるように見下ろす。 「口の剣を退けますが、一つ忠告します。術式を紡ぐなとはいいません。紡ぎたければ好きなだけどうぞ。但し、魔力切れとなった場合は・・・どうなるか分かりますね?」  魔物の言わんとする事が分かり、目を伏せる。  枯渇していた魔力が僅かだが回復している。  それは身体を繋げた時に直接注ぎ込んだからに違いない。  帰る為には転移の術式を発動させるのが一番確実だ。  帰りたいのなら無駄に消耗してはいけない。  もし、使い切った場合はもう一度身体を繋げ、魔力を分けて貰わなくなる。  そんな事は冗談ではないと、苦々しく思いながら目を閉じた。  それを返事と受け取った魔物はそっと口から短剣を外し、自身もアークの上から退いた。 「さて。それでは身体を清めましょうか」 「何・・・?」 「本当は貴方が気を失っている間に浴槽へ運んで行うつもりだったのですがね。このままここでしてしまいましょう」 「ふざけるな!!」  身を起こそうにも首に嵌められた枷によって床に押し留められ出来ない。 「枷を外せ!」 「命令で人を動かすには権力か力が要ります。今の貴方にはどちらもありません」  武器破壊の術式を発動させようと口を開くが、思い止まる。 「何も持たない者が人を動かすには願う以外ありませんよ」 「誰が貴様などに請うか!」 「ですよね」  眼帯の魔物は嬉しそうに微笑むとアークの右脚を外に拓き甲殻鎧《こうかくがい》の枷で床に固定し、左足も同じように固定させた。

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