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繭の中-19-*※

 ソディンガルが待つ部屋に通され、好色の目に見詰められアークは身体を硬くした。  性に疎いアークにはこれから何が行われるか、正確には分からない。  だが、非道で残虐な行為である事は部屋を取り巻く空気で感じ取れた。  最後の望みである術式はヴェロニカへの伝書を送るものだ。  作戦が全て失敗に終わる事を考慮し、時限式にしてセットしてきた。  後衛で援護として残してきた魔術師達に何かあったとしても、時間が来ればヴェロニカの下へ助けを求める手紙が届く。  但し、それが発動するのは作戦開始から一時間後。  オルソン邸に入ってからまだ三十分程しか経っていない。  アークは伝書の術式が発動し、ヴェロニカが到着するまでの時間を自分ひとりで稼ぐ事を心に決める。  魔術師であるジェリドよりも剣術師である自分の方が痛みに慣れている。  精神を鍛える為だと拷問の訓練も何度か受けた。  肉体を傷付けられる恐怖は無い。  誇りを失わず、心を確りと持っていれば問題は無い。  そう決心しソディンガルの注意を引こうと口を開くが、アークが言葉を発するよりも早くジェリドの口から侮蔑の言葉が放たれた。 「豚が人の言葉をしゃべるな。胸糞悪い!」  平手打ちされてもなお反抗的な態度のジェリドの頬に二発目が叩き込まれるのを見て、ソディンガルを止めようとするが、それをジェリドは視線で制止した。  余計なマネはするな――と。  自分が責めを一人で受ける覚悟をしたようにジェリドもまた同じ覚悟をしていたのだ。  ――それは駄目だと……。  せめて半分は自分が引き受けると、思わず一歩踏み出したところで屈強な剣術師の腕に止められた。  傷の男は背後からアークの口を手で塞ぎ、耳元に顔を寄せる。 「ガキのくせに漢《おとこ》だな、あいつ」  態と悪態を付く事で注意を引き、怒りと嗜虐心を煽り、責めを一身に受ける事でアークを守ろうとしている。  そんな事は止めてくれと叫びたいのに口を塞がれ、出来ない。  今直ぐ駆け寄り、ジェリドを背に隠したいのに傷の男の腕が身体を拘束し出来ない。  後ろの処理だとジェリドの尻に術具が押し当てられるのを怒りに震えながら見ている事しか出来ない弱く不甲斐無い自分に歯噛みしていると、ジェリドを鎖に吊るし終わったソディンガルが振り向いた。 「次はお前の番だな」  ソディンガルに言われ傷の男はアークを掴んでいた手を放した。  自由となったアークはこれ以上ジェリドへの非道なまねを回避すべく、時間稼ぎにと背後に佇んでいる傷の男の顎を下から掌底《しょうてい》で突き上げた。  死角からの強襲に傷の男は一瞬よろめくが直ぐに立て直し、アークへ襲い掛かる。  鋭い拳が左頬を掠めた次の瞬間に死角から右側頭部目掛け拳が迫る。  身を屈めそれを遣り過ごす。  見えない拳を避ける事が出来たのは日々の訓練の賜物か、ただの勘か。  間合いを取る為跳躍するが、直ぐにそれを詰められる。  両手の自由を奪う鎖を掴まれ勢いよく投げ飛ばされるが、天井から垂れ下がる鎖を咄嗟に掴み空中で弧を描くと着地した。  拘束具のあるなしに拘らず倒す事は不可能な相手だ。  攻撃を避け続け、何とかして時間を稼がねばならない。  有り難い事に傷の男はアークの悪足掻きを楽しんでいる。  何処まで自分の攻撃を避け続けられるかを試している。  その証拠に拳も蹴りも軽い。  次から次へと流れるように繰り出される攻撃を寸でのところでかわしていると、二人の遣り取りに痺れをきたしたソディンガルが鞭をしならせた。  鋭い衝撃音が響き、咄嗟に音の方へ意識を向けるとジェリドの胸に赤い筋が増やされていた。 「剣術師。いい加減にしろ!」  遊びを邪魔された傷の男は雇い主を疎ましそうに睨む。 「それは私の玩具《もの》だ。お前なんかが遊ぶな!」  傷の男は舌打ちすると握っていた拳を緩めるとアークへ肩を竦めて見せた。 「金髪。お前も大人しくしろ。出来ぬと言うならお前の変わりにこいつを打ち据えてやる」  自分の傷よりも他人の傷の方に痛みを感じるアークにとってそれは喉元に剣を突きつけられるよりも効果のある脅しだった。  ソディンガルは先程ジェリドの顔の側へ落とした術具を拾い上げるとアークへ近付いた。  禍々しい術具を突きつけ言う。 「穴《けつ》を出せ。獣のように手足を地に着け、嫌らしい穴が見えるように尻を高く上げろ」  屈辱的な要求に立ち尽くしていると、ソディンガルは好色な笑みを浮かべた。 「出来ぬならお前の分をあいつに刺してやるぞ。さすがに二本も刺されたら裂けるかもしれんが、血が潤滑油代わりになって調度良いかもしれんな。クククッ」  ――外道め!!  怒りの言葉を必死に飲み込む。  自分の言動一つでジェリドが鞭打たれるかもしれないと思うと何も言えなかった。 「ん? どうした。出来ぬのか?」  怒りと屈辱で震えながら身を折り、手足を地に着けると尻を高く掲げた。  下男が近寄り軟膏を塗りつけるとソディンガルは手にしていた術具をアークの後孔に押し当てた。  硬く閉じたソコを嬲るように先端部分を入れては戻すを繰り返す。  徐々に深く進入する異物の不快感を歯を食い縛り耐えていると、何時の間にか最初の括れまで入るようになっていた。  ジェリドの時と同様に一気に捻じ込まれる事を覚悟し痛みと衝撃に備えるが、一向にそれはやってこない。  一括れ目……二括れ目まで入れては一括れ目に戻す。  緩やかな進入による気持ち悪さに必死に耐えていると、ねっとりと熱を帯びた言葉が浴びせられた。 「剣術師も身体を直接繋げる訓練をしているのか? 初めてとは思えぬほど美味そうに術具を銜え込んでおるわ」  小さく窄んでいる無垢な蕾が術具によって押し広げられ、また閉じる。僅かな抵抗を残しながらも術具を飲み込む姿をソディンガルが堪能している間、アークはただ只管耐えた。  暫くして術具本来の用途を思い出したのか、最後まで埋め込むと専用の帯を腰に装着させ金具で留めた。  少年二人を隣り合わせに吊るさせると、ソディンガルは棚へ戻り何かを手に戻ってきた。 「これが何か分かるか?」  突きつけられるように見せられたそれは液体の入った小瓶であった。 「聖女であっても腰を振って善《よ》がる。毎日犯され、穴という穴に精液を注がれないと正気を保てない淫乱へと変えてくれる。第一位の魔術師でも解毒不可能な媚薬だ」  おぞましい効能に少年二人は顔を顰める。 「銀髪に使おうと特別に取り寄せた物だからな。残念な事に一つしかない」  ソディンガルは意味ありげに二人の少年を見る。 「どちらが使うか相談して決めるか? 直腸洗浄終了まで時間があるからな」  第一位の魔術師で解毒が不可能ならば、一度体内に取り込んでしまうと一生そのままという事になる。第一位の魔術師よりも格上の魔法使いなら或いは解毒が可能かもしれないが、人の理から外れた存在である魔法使いを国王であっても動かす事は出来ない。  取り除く事の出来ない毒に恐れと不安からアークは押し黙るとそれを感じ取ったジェリドが笑う。 「そんな媚薬《もの》使わねぇーとイかせられないってどんだけ下手糞なんだよ。つーか、豚のナニじゃ小さ過ぎて届かないのか?」  嘲り笑うジェリドの胸に三度鞭が振るわれる。 「いい加減自分の立場を理解しろよ小僧」 「何が立場だ。高位術師に側に付いてて貰わなきゃガキを殴る事もできない小心者が!」  ビシッ!  皮膚を引き裂き鮮血が滴り落ちる。  苛立たしげに顔を卑屈かせるソディンガルを嘲笑する。 「テメーは自分で自分がクズだって分かっているんだ。だから自分より弱い少年《にんげん》を甚振る事で自分が上等な人間だと思い込もうとしてんだろ?」 「黙れ!」  ビシッ! 「安心しろよ。俺が泣こうが叫ぼうが、テメーがクズである事実は揺るがねーからよ!」  ビシッ! バシッ!  力任せに鞭打たれた胸は幾重にも細く引き裂かれ、血を滴らせている。  痛みなど感じていないかのように嘲笑い続ける顔へ馬鞭を叩き込むと、衝撃から顔を歪めるジェリドを見て今度はソディンガルが笑った。 「お前のような奴は薬が入って調度良いくらいなのだろうな」  巨漢の男に指示しジェリドを吊るしている鎖から外し床へ仰向けに寝かせると下男達に言い、腰を高く持ち上げさせ脚を割り開いた状態で頭部へと持って行き固定させた。  これ以上は駄目だと、終《つい》に名を呼んだ。 「ソディンガル・マス・オルソン。話がある!」 「ん? 話?」 「止めろ金髪! 余計な事言うんじゃねぇー!」 「私の名を明かしたい」 「名前……だと?」  態々名を明かすと宣言する意味を察したソディンガルは笑った。 「その必要は無い」 「何を! 私は……」 「お前が何処の誰であろうと関係ない。例えお前が王太子だったとしてもだ」 「関係ない……?」 「この屋敷内では私が神だ。お前達を探しに誰が来たとしても証拠も無く敷地内に入る事は出来ない。爵位が高ければ高いほどにな。もしもめんどうな事になりそうならお前達二人を跡形もなく消してしまえば問題ない」  本気で言っているのだろうかと伺い見るが、ソディンガルの目に迷いは無い。  心からそう信じているのだ。  余りの考えの無さに眩暈がした。 「豚に人の言葉は通じねーよ。無駄だ」  アークへの諭しの言葉にソディンガルは嵌め込まれたままの洗浄用術具を一気に引き抜きジェリドを黙らせた。 「う……グッ!」 「上の口同様、下の口も開きっぱなしだわ」  術具の形のまま開き、閉じない後孔に媚薬の瓶が宛がわれる。 「止めろソディンガル・マス・オルソン! 貴様には貴族としての誇りは……人としての羞恥心はないのか!」 「何を言う。これは選ばれし者に与えられた楽しみではないか。私は十貴族であり、選ばれた人間なのだ。下賎な者をどう扱おうと私の自由だ」  自分を特別な存在と信じて疑わない姿に愕然とする。  これまで自分の側にいた大人達と明らかに異質な存在。  信じるものも見ている方向も違う。言葉の通じない相手。 『権力はあるに越した事は無いが、所詮それを認めるものにしか通用しない。話し合いなど何も解決しない。最後にものを言うのは力だけだ』  ヴェロニカの言葉が頭に響く。 『人にはそれぞれ独自のルールがあり、信じる正義がある。貴様の信じる正義と相反する正義を振りかざす者が現れた時、貴様はそれを力で捻じ伏せるしかない。そうだろ?』  受け入れ難かった言葉が事実として突きつけられる。  だが、自分の正義を貫くだけの力が無い。  十貴族の人間である事も無意味。  頼るものが無く、身一つしか持たないアークは喉を引き攣らせ、振るえる声で言う。 「薬は私が頂く…から、その者には何も……し、ないでくれ」  どうなるか、何をされるか想像も付かないが、自分が災厄を引き受ける事でジェリドを守れればと、ただそれだけだった。  少年の乞う様な言葉にソディンガルは媚薬入りの瓶をジェリドから放しアークへと向ける。 「これが欲しいのか?」  忌々しい薬など欲しくはないが、否とは言えず頷いて見せる。 「テメー金髪! ふざけんな!」 「お前は少し黙っていろ」  閉じきらない後孔に親指を乱暴に刺し込み、穴を開かせる。  衝撃と痛みからジェリドが黙るとソディンガルはアークへと再び視線を向けた。 「これが欲しいならくれてやる。新しい物をな」  突き付けられていた瓶は再びジェリドへと戻される。 「だが、これはこいつのだ」 「何を!」 「見ろ。こいつの嫌らしい穴を」  腰を高く掲げ脚を割り開いた状態の為、秘部が露となっている。  術具が嵌め込まれていた為に弛んだソコを指で広げ中の粘膜を見せ付けるようにするが、アークは目を逸らし、ソコを見ないようにする。 「こんなにも物欲しそうにひくつかせているんだ。くれてやるのが慈悲と言うものだろう」 「「ふざけるな!」」  瓶の口が秘部に押し付けられ、ジェリドは押さえ付けられている身体を必死に動かしなけなしの抵抗を試みる。 「暴れるな。いいか、零すなよ。零したら金髪に舐め取らせるぞ」 「クズが!」  毒吐きながらも抵抗を止めるジェリドの後孔に瓶の口が沈められる。 「止めろ!」  アークは鎖で繋がれた身体を揺らし必死に叫ぶが、言葉は無視され瓶は捻じ込まれた。  ほぼ逆さとなった瓶から液体が一気に流し込まれ、排泄器官を異物と液体に犯される不快感に歯を食いしばり堪える姿にソディンガルのほくそ笑むような声が響く。 「ほう。上手く飲み込むじゃないか。性の器《うつわ》としての才能があるようだな」  最後の一滴まで残さず飲めと言うように瓶を左右に揺すり、次に円を描くようにして粘膜を弄ぶ。  必死に声を噛み殺し耐えているものの、僅かに零れる呻き声に気を良くしたソディンガルは瓶を一気に捻じ込んだ。 「ひっ…、あぁぁぁぁ!」  屈強な剣術師に押さえ付けられながらも激しく身体を仰け反らせ、痙攣させる。 「大して吸収していないというのに、もう感じているのか? とんだ淫乱だな」  瓶を引き抜かれる感触に身体を大きく揺らす。 「そんなに動いたら媚薬が零れてしまうぞ。いいのか? それとも金髪の友達に尻の穴を舐めて欲しくて態と動いているのか?」  拳を握り、下唇を噛み締め賢明に薬を零さないようにと注意する。永遠にも感じられる数秒で瓶は取り除かれた。  だが、直ぐに別の物が後孔に宛がわれた。 「媚薬が吸収されるまで蓋をしておいてやろう」  要るかそんなモノ!――そう叫ぶより早くソレはジェリドの秘部へと捻じ込まれた。

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