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繭の中-20-*※
「・・・ふぁっ・・・あっ!」
大人の男の親指より太い物が二つほど連なったソレを内部にすっぽりと納められる。
「これでもう零れないな」
巨漢の剣術師に命じ起こすと、再び天井から垂れ下がる鎖に吊るした。
すると粘膜による直接吸収の為、媚薬の効果は直ぐに現れた。
熱の篭った身体に浅い呼吸。
甘い響きを含んだ呻き声。
何かを堪えるように身を捩り出した。
媚薬に侵食され、淫欲に堕ちて行く姿にソディンガルはほくそ笑む。
「随分と苦しそうだな。楽にしてやろうか?」
言うと手にしていたリモコンのスイッチを入れた。
「ひっ・・あぁぁっ!」
埋め込まれたそれは小さく振るえ、内壁を刺激した。
ジェリドは強制的に与えられた快感を逃がそうと身体を撓らせ暴れる。
軋む鎖の音と悲鳴にも似た呻き声が響く中、ソディンガルは一人満足そうに微笑むと、スイッチを切った。
「慈悲を乞え。犯してくださいと。私の嫌らしい尻穴を肉棒でグチャグチャに掻き回して下さいと泣いて頼むなら今直ぐに楽にしてやるぞ」
肩で大きく呼吸し、まだ快楽の余韻が残る身体を震わせながら引き攣った笑みを返す。
「お・・・俺に、獣姦の趣味は・・・ねぇよ」
「そうか。なら今度は二倍にしてやろう」
再びスイッチが入れられる。
「ひっ・・・!」
先程より激しく振動するそれに内壁を容赦なく責め立てられ、身体を跳ね上がらせる。
苦痛とも快楽ともつかない狂おしい感覚から逃げようと・・・抗おうと、必死に力の限り暴れる。
「随分と楽しそうだな」
馬鞭でジェリドの性器を突っつく。
「女用の性術具《おもちゃ》を尻に銜え込んで、立たせるなんて随分な好き者だな」
熱《いき》り立ち淫靡な汁を流し続けるソコを馬鞭で下から上へと舐めるように走らせると身体と共に大きく揺らいだ。
「そのままでは辛いだろう?」
好色な笑みを深め、性術具の強度を強めた。
媚薬に溶かされ全身性感帯へと作り変えられた身体へ脳天を貫く程の刺激が与えられ、ジェリドは悲鳴を上げた。
涙を流し、口から涎を滴らせ、狂ったように身体を揺さぶり身悶える。
言葉にならない甘い呻き声を漏らす姿にソディンガルはさらに性術具の強度を上げた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
大きく身体を戦慄かせると白濁とした淫液を吐き出した。
絶頂を迎えてもなお内壁を責め続けられ、身体を痙攣させる。
「ふははっ。穴《けつ》だけでイキおったわ」
高らかに笑いながらリモコンのスイッチを切る。
術具の振動は治まっても淫らな熱に支配された身体はガクガクと振るえる。
「こんな大勢の前で。友達の目の前でイクとはとんでもない淫乱だな」
自分を苛《さいな》む感覚に絶える事に必死なジェリドは衆人環視の中で射精した事実も恥ずかしさも認識できない。
「だが、まだ足りないだろう? もっと深いところを太くて硬い物で掻き回して欲しいだろう? 素直に認めたら楽にしてやるぞ」
明確な思考を奪われたジェリドにソディンガルの言葉は理解出来ず、ただ大きな呼吸を繰り返すだけだった。
虚ろな目をした少年に意識を取り戻させるべくリモコンのスイッチを入れる。
「・・・ひっ・・やっ!」
微弱な振動であったがドロドロに溶けた身体にはきつく、身体を激しく撓らせ狂ったように藻掻く。
「・・・も・・・や・・やぁ・・・」
途切れ途切れ何かを呟くが、言葉にならない。
「何だ? よく聞こえんな」
意地悪く言うと振動の強度を上げる。
「んあっ・・・あぁぁぁぁ」
「ほら、もっとちゃんとしゃべれ。出来ぬなら強度を上げてやるぞ」
「やっ・・・やら・・・やめ・・・れ・・・」
「嫌だ? イイの間違いじゃないのか? 出したばかりだというのにこんなに硬くしおって」
再び熱《いき》り立ち淫汁を流すソコを馬鞭で嬲られ悲鳴を上げる。
「辛そうだな。もう一度イクか? なんなら今入れているやつを二つ三つ増やしてやろうか?」
恐怖に引き攣る顔を必死に左右に振り拒否を訴える。
「何だ? 首を振るだけでは分からんぞ」
眼前にリモコンを突きつけられ、意味するところを察したジェリドは慌てて言葉を紡ぐ。
「やっ・・・いう・・いうか・・ら・・・きって・・・い・・れ・ないで・・・」
生意気だった少年の従順な態度に、気を良くしたソディンガルはリモコンのスイッチを切った。
自力では立てず、力なく鎖に吊るされながら身体を痙攣させている少年の顔を舐めるように見詰める。
涙と鼻水。涎でグシャグシャになった顔は強烈な快楽への恐怖で引き攣り、最早理性も矜持も見る影が無い。
最後に残った人としての心を砕くべく囁く。
「何か私に言いたい事があるんじゃなかったか? 尻を責められないと思い出せぬか?」
虚ろな目を揺らし、枯れた声を必死に絞り出そうと喉を振るわせる。
「・・・するぅ・・しま・す・・・いぅ・・・き・・・く・・・」
「何だ? 良く聞こえんぞ」
掠れ声で途切れ途切れに発せられる言葉を聞き取ろうと少年の口に耳を傾けた。
次の瞬間。
情けない悲痛な叫び声と共に赤い斑点が床に散らばった。
ソディンガルは血を流す右側面を両手で押さえながら無様に床を転がる。
その姿を見下ろし、ジェリドは血で染まった口から噛み千切った右耳を吐き出した。
「騙されてんじゃねーよ。バーカ」
「痛い痛い痛い!」
「豚のくせに不味いな」
口に残る生臭い血を吐き捨て、笑う。
床に這い蹲る雇い主へ近付き魔術師は治癒術式を施した。
噛み千切られた耳は接合されるものの痛みの残るそこを右手で押さえ、怒りから顔を歪める。
「貴様ぁぁぁ!」
ソディンガルは力任せに鞭を振るった。
皮膚は裂け鮮血が飛び散る。
「あははっ。バーカ・・・バーカ・・・はははっ・・・」
狂ったように笑い続ける少年の全身を鞭で殴り続けるが、笑いは止まらない。
媚薬で正常な感覚を失った身体に痛みは無意味だと判断したソディンガルは巨漢の男へ命じる。
「おい、剣術師。今直ぐその小僧の両手足を切り落とし、歯を全部抜け!」
次に側に控えている魔術師を振り返ると止血を命じ、ソディンガルは馬鞭でジェリドの顎を持ち上げた。
「喜べ小僧。直ぐに貴様を糞袋へと変えてやる。その後は屋敷の者全員で犯してやるからな」
「ははっ。ぶた・・・まずい・・・し・・しね・・・ふふふっ」
まともな心を失ってもなお毒吐きながらジェリドは笑い続けた。
瓶の口が秘部に押し付けられるのを見て鎖を壊しジェリドに駆け寄ろうとするが、鎖は術師対応の物なのか術式を紡ぐ事が出来ない。
力のみで鎖を千切ろうとするがビクともしない。
「止めろ!」
祈るように叫ぶが、アークの制止の声は素気無《すげな》く無視されジェリドの中に媚薬入りの瓶は納められた。
取り返しのつかない事態に陥り、ショックから視界がグラグラと揺らいだ。
身体から力が抜けるが鎖に吊るされている為、立っている状態と変わらない。
その所為で見たくも無い現実が突きつけられる。
ソディンガルがジェリドを嬲る度、アークの心は深い傷を負う。
声にならない悲鳴と心から流れる血でアークは身体を軋ませる。
私が弱いせいで・・・。
私の考えが甘かったせいで・・・。
甚振られ、嬲られている。
ジェリドが屈辱と苦痛に顔を歪める度に激情に駆られ、煮えたぎる様な怒りを力に変え鎖を引き千切ろうと試みる。
鎖は硬質な軋みを上げるだけで外れはしない。
自身の腕を引き千切らんばかりに暴れていると剣術師の腕がそれを阻む様に絡みついた。
「放せ!」
「あんま、暴れてブタの注意を引くなよ。あいつの頑張りが無駄になるじゃねーか」
傷の男はアークの耳元に顔を寄せそっと耳打ちする。
「もう少しすれば助けが来るんだろ?」
動揺を悟られないようにするが、僅かな筋緊張から答えを得た男は微かに笑った。
「お前達の行動見てたら分かるって。ブタは気付いていないようだがな。安心しろ雇われている以上助けてはやれねぇけど、聞かれもしない事をベラベラしゃべったりはしないからよ。まぁ、俺としては強い奴と戦えればそれでいいからな」
だからこのまま大人しくし、助けを待てと。
目の前の光景に目を瞑り、遣り過ごせと。
男は言う。
――目の前で虐げられているのに。
――私を守ろうと身を犠牲にしているのに。
――見殺しにする事など出来ない!
ジェリドの悲痛な叫び声を終わらせるべく、鎖から逃れようと藻掻く。
「止めろ。鎖《そいつ》は低位の術師に壊せるもんじゃない」
――煩い!
「例え壊せても、俺ら相手にあいつを守る事は出来ない」
――関係ない!
「諦めろって」
――誰が諦めるか!
鎖を壊すべく術式を紡ぐが途中で破綻し壊れる。
無駄だと理解していても紡がずにはいられなかった。
紡いでは壊れ、壊れては紡ぐ。
責め立てられ切羽詰ったジェリドの声に焦りを感じながら必死に紡ぎ続ける。
「無駄だって。それは対術師用に作られたもんだ。第三位くらいの術式を無効化する効果が付けられているんだって」
微かな希望を砕く言葉を聞いてもなお術式を紡ぐ事を止められなかった。
止めればジェリドを見捨てるような気がして。
「・・・するぅ・・しま・す・・・いぅ・・・き・・・く・・・」
虚ろな目をし、枯れた声で不明瞭な言葉を紡ぐ友人の姿に悔しさから涙が零れる。
――もう、止めてくれ・・・。
鎖を壊す為に紡いでいた術式は何時の間にか祈りの言葉となっていた。
――これ以上彼に酷い事をしないでくれ・・・。
涙で歪む視界を細め、閉じた。
次の瞬間。
情けない悲鳴が上がり、目を開けるとソディンガルは血を流しながら床に転げ回っていた。
口を真っ赤に染めた姿にジェリドがソディンガルに噛み付いたのだと分かった。
「騙されてんじゃねーよ。バーカ」
ソディンガルは盛大に痛みを訴えながら魔術師に治癒を求めた。
耳の接合と止血を受けたソディンガルは鬼の形相で立ち上がると力任せに鞭を振るった。
ジェリドの皮膚が裂け、鮮血が飛び散る。
「あははっ。バーカ・・・バーカ・・・はははっ・・・」
瞬きを忘れたかのように目を見開き、涙を流し続け笑う。
狂気を孕んだ笑い声にアークは恐怖を感じた。
――壊れてしまう。
いや、もう壊れているのかもしれない。
それを認めたくなくて必死に祈る。
彼を壊さないでくれ・・・と。
鞭打たれ血を流しながら狂ったように笑い続ける友人へ手を伸ばしたいのに、鎖によって阻まれ出来ない。
「おい、剣術師。今直ぐその小僧の両手足を切り落とし、歯を全部抜け!」
非道な行為から守る為、慈悲を乞おうにも傷の男に口を塞がれそれも出来ない。
「喜べ小僧。直ぐに貴様を糞袋へと変えてやる。その後は屋敷の者全員で犯してやるからな」
「ははっ。ぶた・・・まずい・・・し・・しね・・・ふふふっ」
巨漢の男が拘束具から片手だけを外し、下男に持たせる。
切り落としやすいように肩と同じ高さに持ち上げられた。
これまで剣術師の訓練で手足が切り落とされる光景は何度も見た。
アーク自身も切り落とされた事がある。
それは戦いの果ての結果で、それ以上もそれ以下もない。
残虐非道だと感じた事はない。
だが、これは違う。
一方的な暴力。
貶める為の行為。
人から尊厳を奪い、人以外のものに作り変える行為だ。
認められないと。
許してはならないと。
魂が叫ぶのに、ただ涙を流し祈り願う事しか出来ない無力な自分に怒りを覚え、絶望を感じ心が引き裂かれる。
巨漢の剣術師の剣が高らかに掲げられる。
止めろと。
彼を壊さないでくれと。
自分を捕らえて放さない忌々しい腕の中で必死に藻掻く。
剣先が揺れ、剣が振り下ろされると身を硬くしたが、剣は静止したまま動かなかった。
部屋に居る術師全員が何かを探るようにしていると、突如屋敷が揺れた。
揺れが治まるより早く傷と髭の剣術師二人。そして魔術師が部屋を飛び出していった。
「何だ! 何が起きた!」
慌てふためくソディンガルを余所にアークは一人安堵の溜息を漏らした。
やっと先生が助けに来てくれたのだと・・・。
だが、それは間違いである事に直ぐに気付く。
近付く気配は一人ではない。
威嚇するように放たれる気配は第一位の剣術師と同等かそれ以上。
もしや父が事態を知り駆けつけたのではないかと、身を捩り扉へと目を向ける。
荒々しく開け放たれた扉から入って来た二人の男を見てアークは眉根を寄せた。
見覚えの無い顔に困惑していると、突然の闖入者にソディンガルが怒鳴り散らす。
「何だ貴様ら! 此処を何処だか分かっているのか! 私は十貴族だぞ!」
何処の者だ。名を名乗れと喚き散らしていると、新たに三人の男が部屋に入って来た。
「おいおい。俺は何時から名前を名乗らないといけないほど落ちぶれたんだ?」
中央に立ち、風格と威厳を纏った男は髪は白く戦歴と生きた年月を深く刻んだ顔に剣呑な光を帯びた瞳をした、年齢に不釣合いな屈強な身体を持った老人であった。
男の顔を見るなりソディンガルはわなわなと震えた。
「ち・・チェブランカ! 何故貴様が此処に・・・」
ソディンガルの口にした名前に覚えのあったアークは眉根を寄せた。
チェブランカ――。
ヴェグル国の闇社会を一手に仕切っている人物の名だ。
そんな人間が何故今この場に現れたのか・・・・・・。
「ディオンガルの洟垂れは口の利き方も教えなかったのか?」
父ディオンガルを洟垂れと呼び、明らかに自分を格下扱いする男へ一瞬不満げな表情を浮かべるが、慌てて繕い笑顔で張り付かせた。
「失礼しました。チェブランカ。何故貴方が此処に?」
「なに。俺は自分ところの商品を回収しに来ただけだ」
「商品?」
「鎖で吊るされているそこのガキ二人だ」
「へ?・・・あっ・・・商品?」
ソディンガル同様アークもチェブランカの言葉に動揺する。
何故、チェブランカが自分達を商品と呼ぶのか。
もしや、後方支援に残した誰かが姿変えをしているのかと一瞬考えるが、眼前の人物が放つ威厳がその考えを瞬時に否定した。
引き連れた手下は皆第一位の実力を持った人間達だ。
間違いなく本物だろう。
そして最初の疑問に戻る。
何故・・・・・・。
狼狽えるソディンガルを静かに見詰めたまま男は指先のみで指示を下す。
左右に控えていた男達は一人はジェリドの下へ行くと狂ったように笑い続ける少年へ手を伸ばし、顔を覆うと術式で強制的に眠りへ就かせ鎖から解き放ち、外套で包むとそのまま抱きかかえた。
そしてもう一人はアークへと寄った。
事態が掴めず警戒を露にするアークへ男は掛けていたサングラスをずらして見せる。
髪型も服装も何時ものそれと違うが長年ノエル家に使えてくれている騎士を見間違える訳も無く、警戒を解くと男はアークが壊す事の出来なかった拘束具をいとも容易く壊した。
へたり込むようにして床に崩れたアークへ外套をかける。
「大丈夫か?」
「はい」
「後ろの術具は自分で取れるな」
頷き答えると、人目に晒さないよう外套の中で体内に嵌め込まれたままの術具を取り出した。
後孔に違和感を覚えながらなんとか立ち上がると男に抱きかかえられた。
「それじゃ行くか。赤毛《・・》の旦那が待っている」
その言葉で闇世界のドンが現れた訳も、その手下の中にノエル家の騎士が紛れ込んでいるのかも分かった。
アークを抱え、男が部屋から出ようとするのをソディンガルが慌てて止める。
「待て。それは私のだ」
「私の・・・だと?」
「いや、その・・・そうだ買い取る。二人とも買い取るから置いてってくれ」
「ふざけているのか?」
「ふざけてなどいない。金を払うと言っているのだから問題なかろう」
「おい。小便垂れ」
「しょ・・・!」
「あのガキ共はまっさらな状態で得意先に卸す予定だったんだ。それをお前がふざけたマネをしたせいで出来なくなった。それがどういう事か分かるか?」
「だから金は払うと・・・」
「金の問題じゃねーんだよ。俺は得意先からの信用を失ったんだ。分かるか? お前は俺の顔に泥を塗ったんだ」
「それならその分も上乗せして・・・」
「バカと話をするのは疲れるな」
「バカ・・・!」
チェブランカが指で指示を出すと先行して部屋に入って来た二人の男がソディンガルの左右の脇に腕を通し固めた。
「はっ放せ! 無礼だろう!」
老人は剣呑な目をソディンガルの側に控えていた巨漢の剣術師へ向けた。
「お前は何処の者だ?」
「俺は<竜の鱗>に所属している」
「ギルドには俺から話を通しておく。もう帰っていい」
懐から幾らかを手渡すと、追い払うように手を振った。巨漢の男は頷くとそのまま出て行った。
次にチェブランカは少年を抱えた男達に目を向ける。
「赤毛には後で挨拶に行くと伝えといてくれ」
男達が返事をするとやはり追い払うように手を振った。
「さて。それじゃあゆっくりじっくり話し合いと行こうか?」
「まっ待て、助けてくれ!」
男達に連れ出され禍々しい部屋から一歩ずつ遠ざかり室内の遣り取りも遠くなる。
言葉は不明瞭になり何を話しているかは分からない。途中で悲痛な叫び声が響いたがジェリドへの仕打ちを考えるとアークは同情する気にはなれなかった。
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