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繭の中-47-
『全て思い出したか?』
ヴェロニカと出会い、命とも言える魔力核を貰った事、全てを思い出したと頷く。
『なら決断しろ。生きるか死ぬか』
容赦ない二者択一に答えられず俯いたままいると、声は突きつける。
『出たくないは駄目だ』
出れば家族を仲間を国の人間を落胆させてしまうと、アークは抱え込んだ膝を更にきつく抱き込む。
『貴様が淫乱になったからと言って誰が困る? 誰も困らんだろう。貴様が繭《ここ》に閉じ篭っている方が困るんじゃないのか?』
淫乱の二文字に羞恥から肩が震える。
『お前を迎えに来た銀色と黒いのはどうなる。連れ帰ると言う役目を全うできなかったと国中の者に責められるぞ』
イグルとログが自分の所為で叱責される。それを思うと身が縮んだ。
『貴様が連れてきた小娘はどうする気だ? 誰かが何とかしてくれると放り出すのか?』
――レイナ……。
自分を助けようとしてくれた少女の存在に顔が僅かに上がる。
『貴様が無事に帰ってくる事を願って身代金を出した王と国民はどうなる? 王族貴族連中はいいとして、生活を削って金を出してくれた平民に申し訳なく思わないのか?』
――国の人達……。
『チェブランカへの借りはどうした? 反故《ほご》にする気か?』
――借り……。
『それら全部どうでもいいと思うなら、願え。そうすれば直ぐにでも私以外の私が殺しに来る』
――殺しに……。
『貴様は魔王城に囚われた半年間。怒りと殺意に侵され、己の未熟さを呪い、絶望しながら、それでも一度として願わなかったな。何故だ?』
――何故……。
『生きて会いたい人間が居たんじゃないのか?』
――会いたい……人……。
家族や友人の姿が浮かび顔を上げ、ヴェロニカを見詰める。
『貴様が死ねばテールスは確実に寝込むぞ。主を失った銀色は後追い自殺するかもしれん。黒いのを始めノエル騎士団の連中は使い物にならなくなり団が取り潰しになるかもしれんな。それでもいいのか?』
――それは……。
『貴様に恋した娘は? ヒーローとして憧れている子供は? 国の誇りだと自慢に思っている国民は? どうでもいいのか?』
――どうでもいい訳では……。
『なら、繭《ここ》から出ろ。出て世話になった人間。思っている人間全てに礼を言って回れ』
――全員に……。
『全員に礼を言い終わって、それでもまだ自分を恥じて引き篭もりたいようなら言え。直ぐに殺しに行ってやるから』
不敵な笑みでヴェロニカはアークの頬を両手で挟むようにして額を合わせた。
『そろそろ出ろ。私も戻る』
――先生。
『魔王の魔力核と分離する過程で貴様と私の魔力核も引き離され、それで出て来ただけだ』
――先生!
『銀色の奴は随分と人間らしくなったな。良く頑張った』
――先生!!
霧散するヴェロニカを掴もうと手を伸ばすと、その先には光りが零れていた。
「アーク」
「アーク様」
耳に馴染んだ呼びかけに更に手を伸ばすと、力強い手に掴まれた。
眩い光りに包まれ、目を閉じると水中から引き上げられるように引き摺り出された。
素肌に外気を感じ目を開ければ大人へと成長したイグルとログが心配そうに覗き込んでいた。
二人に対し礼を言うべきか謝罪するべきか判断出来ぬまま、アークはそっと意識を手放した。
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