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ココロ 6話

タケル…、何してんだよ。 yoshiはチラチラと時計を見る。 2時間はとっくに過ぎていて気になって仕方ない。 やだよう。 時間…過ぎてくじゃん。 yoshiは立ち上がると社長室を出た。 「あ、嘉樹くん今そっちにコーヒーを…」 マグカップを持ったアキが声を掛けるが、yoshiはそのまま走り抜けた。 「嘉樹」 走り抜ける嘉樹の様子が何だかおかしいと光一は気づき、後を追う。 駐車場、豊川の車を捜す。  バタンッ  ドアを閉める音でyoshiは音の方角を見た。 豊川がちょうどドアを閉め、鍵をリモコンで掛けているのが見える。 「タケル!」 思わず叫んだ。 えっ?嘉樹?  豊川はyoshiが自分を呼ぶ声に驚き顔を上げた。 その瞬間、yoshiが凄い勢いで走って来ると、抱き付いてきた。 「嘉樹…どうした?」 自分にぎゅっとしがみつくように抱き付くyoshiは小刻みに震えているようで、  「よーし?どうした?んっ?1人留守番嫌だった?」 と子供をあやすように頭を撫でながら声をかける。 返事がない。 「豊川、嘉樹」 光一の声がして豊川はドキッとする。 薫に脅されたばかりの自分の秘密。 嘉樹。 抱きつかれた現場見られたなあ。なんて心配も裏腹。 「あ、こら嘉樹離れろ」 とヤキモチ妬いた時の顔の光一。 「何でいつも豊川ばっかにこんな風に抱き付くんだよ!」 拗ねた顔の光一に少しホッとする。 それよりもyoshiが心配で、  「嘉樹?どうした具合悪いか?」 と声掛ける。 『…さん、みたいに』 小さく絞り出したような言葉は英語。 『嘉樹、どうした?』 豊川も英語に変え再度質問をする。 『お父さんみたいに帰って来ないのかと思った』 その言葉にこの前の嘉樹を思い出した。 ああ、そうか…この子が1人になるのが嫌なのは怖いんだ。 大好きだった両親を子供時代に亡くしているなら尚更。 豊川も両親を亡くしていた。 もう充分大人だったけど辛くて不安だった。 そうだよな。嘉樹はまだ15歳でその辛さと不安と悲しみを味わったんだ。 『嘉樹、大丈夫だよ。私は居なくならない。ずっと嘉樹の側に居る』 yoshiにそう言って頭を撫でた。 豊川は車のドアをもう一度開けるとyoshiを座席に座らせる。 「落ち着いた?」 豊川の質問にyoshiはゆっくりと頷く。 「光一、悪いけど水買って来てくれないか?」 ポケットからお金を出そうとする前に光一は自販機がある1階まで猛ダッシュして行った。 最近、光一も変わって来ている。 yoshiの為に良く動くようになった。 豊川はyoshiの目線に合わせるようにしゃがみこんで彼の頭を撫でる。  「今夜から私のマンションでしばらく暮らすから着替えをもうちょっと休んだら取りに行こうか?」  その言葉でyoshiは目を輝かせて嬉しそうな顔になる。 ナオとはしばらく会えないけど、そっか!  タケルとは毎晩一緒だ! 「うん。今夜からいっぱいエロい事出来るね。一緒にお風呂入ったりとか」 yoshiは豊川の顔に手を伸ばすが、手前で手を掴まれた。  「嘉樹、爪噛んじゃダメだって言っただろ?」 掴まれた手の指にはジワリと血が滲んでいた。 「…だって」 だって、不安だった。 もう戻って来ないんじゃないかって不安に襲われて気付かないうちに爪を噛んでいた。 豊川は指先にキスをすると 「嘉樹、私は居なくならない。ずっと嘉樹の側にいて君を守ってあげるから…」そう言った。  「うん」 yoshiは幸せそうに微笑む。 やばい。  キスしたい!  今すぐ押し倒したい!  豊川はぐっとyoshiに対しての性欲に耐える。 ****** 「またアイツまで付いて来てるんだけど?」 助手席のyoshiは嫌そうにチラチラと後ろの車を見ている。 「荷物運びにちょうどいいだろ?」 豊川はクスクス笑う。 夕方、yoshiと一緒に荷物を取りに行こうと話していたら光一が無理やり参加して来た。 yoshiは嫌がったが、豊川は反対しなかった。  負い目もあるし、父親になろうと必死な光一を見ているのも悪くないと感じたから。

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