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影 7話
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結局、麻衣子と連絡取れないまま朝を迎えた。
光一と拓也が何度電話しても電源を切っているとメッセージが流れるだけ。
智也が入院したとメールを送ってもみたが、未だに何もない。
寝ている拓也と智也を交互に見る。
傷付いている子供はyoshiだけじゃなかった。
両親が揃っていても幸せじゃない子供。
「おはよう。」
拓也が目を覚ました。
「おはよう。腹減ってないか?コンビニで何か買ってくるけど?」
「いや、いいよ。ね、もしかして寝てない?」
拓也は寝た様子がない光一を心配そうに聞く。
「徹夜は慣れてるよ。それより、もうちょっとしたら仕事に行かなくちゃいけないんだけど、拓也1人じゃ不安だよな?麻衣子には連絡取れないし」
光一は時計を気にする。
仕事と言って逃げる…そんなつもりはないけれど、こんな時くらい一緒に…………。
「智也は俺が見てるから仕事いきなよ」
拓也は毛布をたたみながらに言う。
昨日から感じていた拓也の大人びたような態度。
いつの間にか成長をしているんだなあって、感じる。
「拓也に嫌われる理由を本当はずっと気付いてた……ごめんな。俺、良い父親じゃない。」
改めて実感する自分の不甲斐なさ。
「ねえ?なんか勘違いしてない?」
「えっ?」
「俺は嫌ってないよ。仕事をしてくれているおかげで俺らは生活出来る。あの人が贅沢出来るのも仕事してくれているおかげなのにさ…」
拓也はちょっと笑って、
「俺は…前の奥さんとの子供が羨ましい…それが本音」
そう言った。
「なんで嘉樹が羨ましいんだ?」
「嘉樹って言うんだ…」
拓也は名前を呟き少し寂しそうに見える。
「拓也?」
何が言いたいのか分からない光一は困惑する。
「あ、時間大丈夫?」
拓也が時間を気にしてくれる。
「仕事終わったら病院に寄るから」
そう約束して光一は病院を後にした。
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社長室、佐久間と豊川は真剣に話を始めた。
そうなるとyoshiは遠巻きに見ているしかない。
パソコンをいじって自分なりに仕事をするが、豊川が気になる。仕事をしている時の豊川がカッコいいからだ。
自分に向ける優しい顔も好きだけど、真剣な顔の豊川も好き。
「嘉樹、コーヒーをお願い出来るか?」
豊川が座ったままに声を掛ける。
「うん」
yoshiが立ち上がると、
「いいよ嘉樹くん大丈夫だから」
佐久間がストップをかける。
「…いえ、大丈夫です」
yoshiは豊川の言う事を優先する。
社長室を出るのを確認すると豊川は薫の話を始めた。
別にyoshiに聞かせても良い話なのだけど、なんとなく気まずい。
薫にキスをされた事がやましいのかも知れない。
「yoshiくんおはよう!」
社長室を出るとマコトに会った。
「おはよう!まこちゃん、今日はこっちなの?」
「今日は休みなんだけどさ、家に居ても暇だし」
マコトはそう言って笑う。
「yoshiくん、タケちゃん居ないの?」
いつもyoshiの隣には豊川が居るのに、朝から1人でいるyoshiを見かけたから、つい、居ないのかな?なんて思ってしまった。
「居るよ、佐久間さんと話してる。」
yoshiはコーヒーメーカーのスイッチを押す。
「何の…」
話?と聞こうとした時に携帯が鳴る。
着信は光一から。
「おはようコウちゃん早いね」
yoshiはマコトの電話の相手が光一だと分かると少し気になった。
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光一は車内からマコトに電話を入れる。
今日は休みだと言っていたのを思い出したのだ。拓也は大丈夫だと言ってはいたけれど、まだ子供。
大人が1人でも居た方がいい。
「おはよう!コウちゃん早いね」
「マコト…今日休みだろ?お願いがあるんだけど」
「なに?」
「智也が入院して、拓也が一緒なんだけどさ、麻衣子には連絡つかないんだよ。俺は仕事だし…無責任かもしれないけどマコトに付き添いを頼みたくて」
電話に出たマコトに智也の入院を告げた。
「えっ?智也君入院したの?!分かった病院どこ?」
マコトは2つ返事でOKしてくれた。
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「智也、入院するくらい酷かったの?」
電話の内容で智也の入院に驚いたyoshiはマコトが電話を切ると心配そうに聞いた。
「すぐに退院出来るらしいけど、お兄ちゃんの拓也くんが付き添っているんだって、コウちゃん仕事だし」
「えっ?奥さんは?」
マコトは躊躇したが、 「連絡取れないんだって…」と答えた。
「何で?」
「詳しくは知らないけど、とにかく僕行ってくるから」
マコトは慌てて出て行った。
光一が前に言っていた事を思い出した。
料理を作ってくれない…。
まさか子供の面倒も見てないってコト?
yoshiは心配になる。
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「お兄ちゃん」
目を覚ました智也が窓際にいる拓也に呼び掛ける。
「智也」
拓也は自分を見ている智也の側に行き頭を撫でる。
「ここどこ?」
キョロキョロして智也は不安そうだ。
「病院だよ」
「お母さんとお父さんは?」
「お父さんは…さっきまで居たんだけど仕事に行っちゃった」
拓也は優しく智也の頭を撫でる。
「あ、…夢じゃなかったんだ」
「何が?」
「抱っこしてくれたよね?お父さん」
「うん」
「やっぱりそうなんだ。えへへ、嬉しい」
智也は嬉しそうに笑う。
「智也、お父さん好き?」
「うん」
迷いのない返事。
「お兄ちゃんも好きでしょ?」
「……そうだな」
笑って返事を返す。
「拓也くん!」
ドアが勢いよく開いてマコトが入って来た。
「マコちゃん」
智也は嬉しそうにマコトの名前を呼ぶ。
「マコちゃんなんで?」
拓也は何故マコトが居るのか不思議そうな顔をする。
「コウちゃんに聞いてさ」
「ああ、そっか」
拓也はちょっと安心したような顔になりマコトに微笑む。
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