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影 8話
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「マコちゃんありがとう」
待合室側の自販機でジュースを買うマコトにお礼を言う拓也。
智也が朝の診察をしている為に邪魔にならないように2人、病室を出たのだ。
「いいよ、1人じゃ不安だったでしょ?コウちゃんもかなり心配してたし」
マコトは缶ジュースを拓也に渡す。
「うん。すぐ来てくれたからビックリした」
「コウちゃんチャラいけど頼ったらちゃんと助けてくれるんだよ。」
「……うん、知ってる」
拓也はそう言って近くの長椅子に座る。
「そう?良かった」
その言葉に安心したマコトは微笑む。
「ねえ、マコちゃん…嘉樹ってどんな子?」
「えっ?」
想定外の話の内容。
何故、知ってる?
そう思ったけれど週刊誌にも載ってた事を思い出した。
「あの人に似てる?」
前妻との間に出来た息子を気にしながらも、あの人と呼ぶ拓也の心理は読めない。
「…輪郭とか、後ろ姿は20代の頃のコウちゃんに似てるかな?あ、あと歌上手いし、ピアノなんかも聴いただけで弾ける子だよ」
「へえ…」
拓也は何か考えたように少し間をあけて、
「あの人は会ってたりするの?」
そう聞いた。
「会ってるっていうか、うーん複雑なんだよね。コウちゃん大人になるまで嘉樹くんと会ってなかったからさ、自分の息子と気付かなくてスカウトしちゃったんだよね。」
マコトはどう説明して良いか悩んだ。
「えっ?」
驚くように聞き返す拓也にマコトは苦笑いする。
「コウちゃん自分でもそれはへこんでたなあ。」
「そうなんだ…何でスカウトしたの?」
「嘉樹くん駅前とかで良く歌っていたんだって、それでコウちゃんも偶然に通りかかって、声に惚れ込んだらしいよ。なんか声に色がついてるって言ってた」
「…才能」
拓也は呟くように言う。
「えっ?」
小さい声なのでマコトは思わず聞き返した。
「いいなあ。才能を受け継いてて」
そう言った拓也は淋しそうな顔をした。
「何言ってんの?拓也くんにだって」
「ないよ」
拓也は即答する。
「あの人の才能も何も受け継いてない…」
淋しそうな顔から泣きそう顔をする拓也をマコトは不安そうに見つめる。
「だって俺、あの人の子供じゃないから」
拓也はそう言ってマコトを見つめた。
言葉を無くすマコト。
冗談?こんな時に?
でも、拓也は嘘や冗談でそんな家庭の問題を言ったりしない。
冗談でしょ?って言いたいのに違う言葉を捜してマコトは視線を泳がす。
「そうだよね、お母さん?」
拓也の視線はマコトの後ろにあり、思わずマコトは後ろを振り向いた。
振り向いた先に立ちすくむ麻衣子。
顔は引きつっているようにみえる。
「拓也、面白い冗談ね?なあに?智也が大変な時に連絡取れなかったから怒ってるの?ごめんなさい、友達と話が盛り上がって」
「友達じゃないじゃん不倫相手だろ?」
麻衣子の言い訳にかぶせるように拓也は言い放つ。
「拓也、いい加減にしなさい!」
麻衣子はマコトが側に居る事もあり、黙らせようと拓也に怒鳴りつける。
「いい加減にするのはそっちだよ!俺が何も知らないと思ってた?自分の本当の父親が誰かくらい知ってるよ」
麻衣子より迫力がある拓也。
元々、拓也は怒鳴ったりしない子供だった。
感情を剥き出しに怒鳴る拓也に麻衣子はたじろぐ。
「拓也くん落ち着いて」
感情を剥き出しの拓也。マコトはどう対処して良いか分からないが、とりあえずは落ち着かせようと麻衣子から遠くに引き離し座らせる。
マコトが仲裁した事で拓也は大人しくなる。
「いつから?」
もう隠しても無駄だと麻衣子は悟り、そう聞いた。
「半年前に俺の本当の父親だという男に話し掛けられた…仁田水って人」
麻衣子はその名前にピクリと反応した。
「冗談だと思ったよ。騙されてるんじゃないかって、でも…お母さんと仁田水さんは愛人関係だったんでしょ?そして、お母さんの生活費全部を面倒みてた。俺はその人との子供なのに平気であの人の子供だと言ってさ、本当…アンタ最低だよね」
拓也の目は麻衣子を睨みつけている。
「仁田水さんの子供じゃないと言い張っても無理だよ。DNA鑑定の結果が出たから」
「拓也くん…DNA鑑定って?」
マコトは驚くように目を見開く。
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