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影 9話
「俺が本気にしないから証明する為にって言われて……、俺は信じたくなかったから同意したんだ。」
拓也は麻衣子を睨むでもマコトを見るでもなく、俯いてそう言った。
「…ねえ、なんで仁田水は今更……」
麻衣子は困惑したように聞いた。
「奥さんとの間に子供出来なかったから俺を引き取りたいらしいよ。結果出たから話し合いに来るんじゃないの?」
拓也は麻衣子と目さえ合わせなくなった。
「結果いつ?」
「昨日」
マコトの質問に答える拓也は今、どんな気持ちで居るのだろう?
ああ、だから…あの人だと拓也は言っていたんだとマコトは理解した。
「マコちゃん、だから俺にはあの人の才能は受け継がれてないんだ。週刊誌であの人の子供の記事読んだ時、まだあの人の子供だと信じていたから、俺に似てたりするのかな?なんて考えたりしてた。…でも、似るはずがない。血は繋がってないんだから」
マコトはぎゅっと拓也を抱きしめた。
「拓也くん、もういいよ」
もう辛い事、言わなくていい。
そう言う代わりに抱きしめた。
「智也は誰の子供?今の愛人でしょ?あの人ともう離婚しなよ。可哀相じゃん、あの人も、あの人の子供も!」
拓也は泣いてはいなかったけれど、身体を震わせてマコトの腕の中、それ以上言葉を言うのを止めた。
麻衣子は何も弁解はせずに黙って立っているだけだった。
すげえ、羨ましい。
あの人の子供だという嘉樹が。
ずっと…得体の知れないモノに怯えていた気がする。
影みたいにずっと後ろをついてきてて、不安だった。
でも、思っていた事を言葉に出来て、 少しは楽になった気がした。
*****
「拓也…」
麻衣子は拓也にどう声をかければ良いか分からない。
確かに男と遊んでいて、つい、携帯の電源を落としていた。
朝、電源を入れると光一からのメールを受信していて、それで智也の入院を知って、内容の中にあった病院へと急いで来たのだ。
…まさか、こんな状況にまで行ってるなんて思わなかった。
拓也に近づき触れようとするが、
「触んな!智也んとこ行けよ、一応アンタ母親だろ?」
と冷たく拒絶された。
確かに今の拓也に何か言っても聞いて貰えない。
後ろ髪引かれる気持ちでその場を離れた。
「拓也君大丈夫?」
麻衣子が居なくなるとマコトは気にするように拓也の顔を覗き込む。
「マコちゃん……俺、どうしたら良い?」
俯いたままにそう聞く拓也に正しい答えを与える事なんて出来ない。
「俺ね、あの人にいっぱい酷い態度取って来た。スキャンダルを良く起こしてたせいもあるけど、今なら浮気するのも分かる。…良い妻じゃない女と一緒に居たくないよね?……仁田水って人が現れてからは、余計に反抗してきた。だって、あの人は俺らから離れた方が幸せになれるじゃん?」
拓也は両手で拳をぎゅっと握る。
「特に俺は一緒に居ちゃダメだから、1人暮らししたいとか、離婚すれば?とかさ…もう、どうして良いか分からない」
ぎゅっと握る拳にポタポタと涙が落ちて、マコトは自分の方へ拓也を引き寄せた。
「うん……分からないよね?どうしたら良いか僕にも分からないもん。でも拓也くん……コウちゃんは拓也くんが好きだよ。コウちゃん父親らしくなかったのは仕方ないんだよ、コウちゃんは親に虐待されて育ったから、自分も子供に手を上げるんじゃないかって……怖がってた。嘉樹くんの時も抱きしめたいけど、どうしたら良いか分からないって、でも拓也くんや智也くんが産まれた頃から、努力するようになってさ、……なんか良く分からない話になって来たけど、コウちゃん拓也くんを大好きだからさ、だから離れないであげてよ」
ぎゅっと抱きしめるマコト。
「だったら余計じゃん…離れないとあの人可哀相だよ」
拓也はそう言って泣き出した。
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