143 / 275

変わらぬ想い

「そんな事ない!拓也くんは何も変わらないし、離れなきゃいけないなんて思ってるのは拓也くんでしょ?コウちゃんはそんな事思わないよ!」 何を言っても慰めにはならない事くらいマコトは知っている。 でも、何か言わないと拓也が壊れそうで怖かった。 「裏切った証の俺を側に置きたいと思わない!」 拓也はきっと、光一の側に居たいんだと…自分を責めて気持ちを落ち着かせようとしているのが伝わってきて、マコトは彼を抱きしめるしか出来ないでいた。 ****** 豊川は佐久間に店の話をする。 佐久間が新店舗先を捜しているのを知っている豊川はいつになく真剣に話を勧めていた。 弱みを握られているから…。っていうよりも、良い話だと判断したから。  薫は誤解されやすい男で、自分の弱みは絶対に人には見せない。圧力をかけたり、やり方はどうしようもなく非道だけれど、話に乗ってみるとマトモなのだ。  こちら側が詐欺に遭った事は無かった。 やり方がね。…豊川は苦笑いをしたい気分だ。  「場所も良いし条件も良いですね」 佐久間もまんざらでもない顔をしている。  「具体的に話し合いたいなら、連絡入れるぞ?」 「ぜひ!」 佐久間は即答した。  薫にすぐ電話を入れると、  「夕方来い。場所はこの前のバーだ。子猫ちゃんも連れて来るといい」 最後の子猫ちゃんと言った言葉は強調され、笑いを含んでいた。  「ぜっったい連れて行かない!」 「まあ、その内会えるだろうけどな。イメージモデルなんだろ?」 絶対に電話の向こうの薫はニヤニヤしているだろう。  くそう!  時間を約束し、豊川はすぐさま電話を切る。  ***** 夕方近く、佐久間と出掛ける支度をする豊川をyoshiはちょっと不満げに見ていた。  今から出掛ける場所には自分は行けない。  おかしくね?俺、タケルの秘書なのに!  目がそう訴えていた。  「悪い…先に帰って待っててくれ」 そう耳打ちされ、  「夕ご飯は?」 ご機嫌ななめなのに一応心配をするyoshiに豊川は連れて行きたい衝動にかられる。 でも、連れて行けば薫に何されるか… 自分と薫の好みは似ていて過去、恋人を寝取られた事がある。  その時の薫の言葉が、  「俺に抱かれてたお前が抱く男に興味があったから」 だった。  今、薫にもお気に入りが居るらしいが… yoshiは絶対に好みのはず!  連れて行けない。  「なるべく早く帰るけど、遅くなるのは覚悟していてくれ」 豊川はそう言うと頭を撫でた。  「………わかった」 分かってないのに無理やり返事しました。ってあからさまに不機嫌なyoshi。  「ちゃんと………帰ってきてよね」 小さく呟き俯くyoshi。 「もちろん!約束する」 俯くyoshiの顔に手を伸ばし、顎を指先で上げるとキスをする。 甘いキス。  yoshiとするキスは甘く感じるから不思議だ。  キスが深くなり、yoshiは豊川の背中に手を回す。 コンコンッというノックの音に2人は慌てて離れた。  互いに会社というのを忘れていたみたいだ。  目を合わせて笑いあう。  「連れて行けなくてごめんな」 豊川は頭を撫でそう言う。  「いいよ。仕事だもん」 キスで機嫌が直ったyoshiは可愛く笑った。 ***** 「あれ?嘉樹くん1人?社長は?」 1人退社するyoshiをめざとくアキが見つける。 「佐久間さんとブランドの服の新店舗のどうのって話し合いしに」 「え~、じゃあ嘉樹くん1人かあ」 アキはちょっと嬉しくなる。  いつもyoshiの側には豊川が居て近寄れない。 もっと仲良くなりたい! 「うん。今から夕飯の材料買って帰る」 「材料?えっ?嘉樹くんが作るの?じゃあ、買い物付き合ってあげる!」 元気に立候補したものの、yoshiがシーンと静まり自分を見ているのに気づき、 「あはは、なんちゃって」と笑ってごまかした。  「いや、付き合ってくれるの嬉しい。俺、この辺りのスーパー知らないし」 yoshiにニコッと微笑まれ、アキは有頂天になりそうだった。  「や、安いスーパーあるよ」 アキは嬉しそうにyoshiと一緒にビルを出た。

ともだちにシェアしよう!