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変わらぬ想い 3話
「嘉樹くん、どうしたの?」
アキは立ち止まったままで携帯を見つめるyoshiを心配そうに声を掛けた。
「アキ、ご飯食べに行こう」
「えっ?買い物は?」
買い物カートを押しているアキは困惑した顔でyoshiを見る。
「いいから行こう」
アキの背中を押し、出口へと向かう。
*****
拓也は硝子張りの見渡しが良いロビーでぼんやりと座っていた。
もう、何時間ここに居るだろうか?
マコトが自分の横に何も言わず居てくれる事が嬉しかった。
病室に戻れば話したくない母親が居る。
家に帰ろうかな?なんて考えていたら光一からの着信。
ああ、病院だったのに電源切るのを忘れていた。
画面を見つめ、出ようか悩む。
「出ないの?」
マコトに心配されて電話に出る。
「今から戻るよ、智也は?」と光一の声。
「目覚ましてて、明日にはもう退院出来るって」
さっきマコトが聞いて来てくれた智也の情報を話す。
「そうか、良かった」
ホッとしたような声に
「うん。良かった……、じゃあ、病院のロビーだから切るね」と拓也。
「あっ、」
何か言いたげな光一を無視して電話を切る。
「コウちゃん何て?」
「病院に来るって」
拓也はそう言うと立ち上がる。
「病室に?」
「帰る」
「えっ?」
拓也は出口に向かい歩いて行く。
「待って、コウちゃんを待たないの?」
マコトも慌てて追いかける。
「今は…会いたくない」
どんな顔をして、そう言っているのだろうか?
後ろ姿では分からない。
でも、きっと泣きそうな顔をしている。
マコトは心配でずっと後を追う。
「マコちゃん……もう、いいよ」
振り向かずにそう言う。
「でも」
「本当にいいから」
歩く速度を速める。
******
yoshiと向かい合わせに座るアキは少しニヤニヤしていた。
目の前には自分に可愛く微笑んでくれるyoshiが居る。
別に同性愛者ってわけではないけれど、彼と居ると自然にそんな顔になるのだ。
たわいもない会話。
その中から少しでも彼の情報が欲しい。
『yoshi』
英語的な発音が聞こえ、アキは思わず顔を上げた。
『アレックス久しぶり』
yoshiに話しかけて来た相手は見たまんまアメリカ人。
凄くyoshiと親しそうな雰囲気。
『yoshi、最近ちっとも来ないからさ』
『ごめん、新しく仕事始めてさ』
金色の髪の男性は同じ年かな?なんてアキは気になる。
それに会話が早くて理解出来ない。
『友達?』
アメリカンな彼がアキを見て、
えっ?えっ?何か言われている~とアキは焦る。
『同じ職場、アキって言うんだ』
『へえ~、よろしくアキ、俺はアレックス』
アレックスと名乗る彼はアキに握手を求める。
「あっ、はい!よろしく」
めちゃくちゃ緊張しながらアキは彼の手を握った。
『yoshi、久しぶりに行かない?』
『どこ?』
アレックスはにっこり笑うとyoshiの手を掴んで歩き出す。
「えっ?ちょっと待って」
アレックスに引っ張られながら歩くyoshiの後をアキは慌てて付いて行く。
*******
都会の雑踏の中はある意味孤独だ。
こんなに人が沢山居るのに知り合いに1人も出会わない。
1人トボトボとあてもなく歩く。
沢山人が居ても孤独ならいっそ1人ぼっちで居る方が気が楽かも知れない。
拓也は家とは違う方向へと歩いていた。
ふと、足が止まった。
ざわつく雑音の中、綺麗な音を聞いたような気がしたから。
気のせいかな?
なんて思いながら歩くと、また聞こえてきたメロディー。
かすかに聞こえる方へ耳を集中させ、良く聞こえる方へと自然に足が動き出す。
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