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変わらぬ想い 4話

近付くにつれて心地良いメロディーが歌声だと分かり、さらに足早になる。  人集りを見つけた。  きっと、この人集りの向こうに気になる歌声があるんだと拓也は人混みをかき分け前へ出た。  白人男性と東洋系の男性?  白人男性は二十歳以上だと分かるけど、東洋系の男性は自分と近い年齢かな?なんて思えるくらいに幼くて、しかも可愛い。  ううん、可愛いというより綺麗。そんな感じ。  そして、気になるのが歌声。  凄く心地良い。  綺麗な音楽ってこんな?なんて考える。  曲は知ってる洋楽。  何でかな?  ずっと聴いていたい。  曲が変わり、バラード曲。  ああ、この曲知ってる。ちょっと前に流行った曲。  確か歌詞は、 『 そんなに落ち込まないで、大丈夫。  きっと明日は素晴らしい日になる。  風はいつも変わらないし、空の青さも君が元気な時と同じなんだよ。  止まない雨はないって言うだろ? 大丈夫、きっと上手くいく。 自分を信じてみて… 』 歌詞を直訳したらそんな感じだった。  前にあの人が運転する車の中で聴いた曲。  まだ、何も知らなくて心が元気だった。  だからかなあ?  あの時よりも心の中に染み込んでくる。  凄く上手いなあ、あの男の子。  羨ましいくらいに。 惹かれる。 曲が終わると拍手が響く。  歌い終わった彼が何故か自分の方へ来る。  ちょっとビックリしていたら、目の前にハンカチを出された。  「何で泣いてるか知らないけど、リクエストあったらどうぞ」 そう言われた。  しかも日本語だよね?  発音上手いし、アメリカ人と一緒に居るから彼も外国人かと思っていて、拓也はどう対応して良いか戸惑う。  しかも…泣いてるって今言ったよね?  それでようやく、泣いてる自分に気づき、 「あ、大丈夫、花粉症だから」と照れ隠しで分けのわからない事を言ってしまった。  「花粉症?お大事に」 目の前の男の子は可愛く笑う。  その可愛さに拓也はちょっと照れてしまった。  『yoshi、もう帰るよ』 白人男性が男の子に声をかける。  yoshi? 拓也は似たような名前にピクリと反応した。 まさかとは思う。  これだけ沢山人が居て、誰1人知っている者に会わなかったのに、ここで会えるはずがないんだ。 「じゃあね」 拓也に手を振り彼は去ろうとする。  「待って!」 思わず声をかける。 「何?」 大きな瞳が拓也を捕らえる。 ドキッとしてしまう。  「あ、リクエストを」 つい、違う事を言ってしまう。  「いいよ。一曲だけで良い?もう帰るから」 心良く引きうけてくれた彼はまた可愛く微笑む。 「うん。…曲は任せるから」 「分かった」 そう言って戻って行く彼。  そして彼が歌い出した曲は初めて聴く曲で、  でも、どこか懐かしい優しい曲。  本当に上手い。  曲が終わり、yoshiが拓也をチラリと見て帰り支度を始めた。  ああ、帰っちゃう!  そう思ったら焦ってしまって足が勝手に彼の方へと向いてしまい、  「あの、」 と話しかけてしまった。 「何?」 ニコッと笑うyoshiに、 「今の曲は?」 と聞いた。  「スマイルって曲」 「誰の曲?」 「……さあ?よく知らないんだよね。小さい時にアメリカで聴いてた曲で、凄く好きだった曲なんだ。落ち込んだ時とかに聴いてて、これ聴くと元気になれた」 そう言うyoshiはきっと自分を励ます為に歌ったのかな?と感じた。  「曲名で捜せるかな?凄い良い歌だなあって思って」 「きっと古い曲だからどうかな?俺も歌ってる人分からないし……ちょっと年配の人に聴くと良いかもね」 yoshiは手際よく片付けを終えると帰ろうとする。 「あ、あの、」 つい、また引き留める。 「名前何って言うの?俺は拓也」 自分でした質問に心臓が早く脈打つ。  「拓也?よろしくね。俺は嘉樹」 笑って答える彼に、 ああっ、やっぱりって思った。  「またね」 yoshiは拓也に手を振り他の人達と歩いて行く。 肝心な質問をしたいのに、心臓が思った以上にドキドキと早くなり、言葉を失わさせる。  何でだろう? 怖くなった。  嘉樹が、あの嘉樹である事は間違いないのに、そこから先に行きたくないのだ。  確信したくない。

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