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変わらぬ想い 5話
あんなに才能に溢れて、綺麗で、 自分に無い物を全部持っていそうな彼があの嘉樹だったら、 羨ましすぎて罪もない彼を逆恨みしそうで怖い。
後ろ姿を見送る拓也に、
「拓也くんって嘉樹くんと知り合いだったの?」
と驚いたようなマコトの声。
徹底的じゃん!
やっぱ、アイツが嘉樹なんだ。
真実を知るって、こんなに心臓が痛くて、泣きそうになるんだって初めて知った。
「今…知った」
マコトの方を向く。
「あっ、そうなの?拓也くん追いかけてたら途中見失って、そしたら嘉樹くんの歌声聞こえて、話かけようとしたら」
そう、拓也が居て驚いてしまったのだ。
しかも何か話していた。
「なんでかなあ?やっぱ、ズルいや…」
拓也は俯いて呟く。
「えっ?」
「めっちゃ、あの人の才能受け継いでんじゃん」
「拓也くん……」
「そりゃスカウトするよ。あれだけ上手くて綺麗なら」
あれだけ才能に溢れていたら、素人の自分にだって分かる。
「あの人と嘉樹って仲良いの?恨んでるんじゃない俺とかあの女を」
「…それはないよ、だって嘉樹くんコウちゃんが自分のお父さんだって知らない…ううん、記憶ないから」
「えっ?どういう意味?」
大きく見開いた瞳はマコトを見た。
*****
アキはチラチラとyoshiを見る。
さっき話していた少年はどう見ても拓也だった。
知り合い?
アキは少し離れた場所から歌うyoshi達を見ていて、歌い終えた彼がどこかへ行き、気になって見ていたら拓也が居たのだ。
「ねえ、あの子と知り合い?」
恐る恐る聞く。
「ううん、あの子が泣いてたからビックリして」
「えっ?泣いてたの?」
アキもビックリした。
「花粉症とか言ってたけど、違うよねえ…なんか悩んでる感じだった。」
拓也くん、何かあったのかなあ?少し心配になる。
『この後も付き合えよ、アキも』
アレックスは2人の間に入ると、2人を促しバーへと向かって行く。
じゃあ偶然に会ったって事かあ。
yoshiに光一の記憶がないと佐久間に聞いていたから2人が知り合いなのかと混乱したのだ。
でも、いつかは出会う2人。その時の状況は変わっているだろうか?
******
拓也はマコトに家まで送ってもらいながらyoshiの事情を聞いた。
事故の所為で記憶が曖昧で、育ての親を実の父親だと思っていて、それを光一も知っている。
「つくづく、ツいてないね。あの人」
寂しそうな顔をして拓也は呟く。
「コウちゃんも辛いけど、嘉樹くんも辛いよ。…忘れるって余程酷い事故だったんだよきっと、嘉樹くんコウちゃん大好きだったもん」
小さい頃のyoshiは本当に光一が大好きで、いつも目で光一を捜していた。
「あの人は嘉樹を可愛がってた?」
「正直言うとね、嘉樹くんが小さい時よりも今、拓也くんと智也くんと一緒に居るコウちゃんの方が父親してるんだ…」
「どう言う意味?」
「あの頃はね、コウちゃんちょっと荒れてたの。結婚で一気に人気落ちちゃって、取り戻す為に家庭をおそろかにしてて…随分と嘉樹くんに寂しい思いさせてたなあ。」
しみじみと懐かしさが込み上げてくる。
「幼稚園に行きだして更に会えない時間が増えてさ、行事なんて行った事ないからねコウちゃん!僕が行ってたよ。コウちゃんは口約束だけ、見に行くから…期待させて裏切って、ちょうど離婚する少し前に、また口約束だけしたコウちゃんに流石に嘉樹くんも怒ってね。お父さんはもう要らない、嘘ばっかり!って泣いてトイレに閉じこもって、その日のお遊戯会出なかったんだ。…コウちゃんもその時ばかりは反省してたな。だからかな?拓也くんや智也くんの時はなるべく行くようにしてたんだよ」
「ふーん、実の息子は可愛がらないで血の繋がらない子供には愛情注いだわけか……本当に馬鹿だな。」
拓也は笑って見せるが目は寂しそうだった。
「だったら忘れちゃうよね。父親らしい事してないからさ。義父の方がきっと愛情注いでいたんだ……記憶塗り替えちゃう程に」
拓也の言葉にそうかも知れないとマコトは思った。
光一が少しでも愛情をそそいでいたら、きっと…………こんな風にはならなかった。
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