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許容範囲 5話
「なっ」
何言ってんだよ?と軽く交わすつもりだったのに上手く言葉にならなくて、息を飲んで硬直した。
少し間が空いて、 拓海は笑いながら、
「お前、バカ正直だな。すぐに顔に出る。あまりバカ正直だとつけ込まれたりするから気をつけろよ。カマかけただけなのに自分で言ったも同然だな」
拓海の言葉にyoshiは俯いた。
うろたえ過ぎて、自分でバラしてしまうなんて。
今更、否定は無理だろう。
「なんで?」
何でカマかけたの?そう聞きたいけど、そこで言葉に詰まった。
「この前、具合悪くなった時に呼び捨てしただろ?まあ、二人の態度見てたら分かるけどな」
態度……。
「そんなあからさまな態度取ったつもりないけど?」
「俺からしたら、あからさま。まあ、内緒だろ?皆には」
皆にはナオや光一と言う意味が含まれた。
「ナオに言う?」
「言わないよ。自分で言えよ。それにさ……………嘉樹にとってナオの存在って何?付き合っている相手さえも言えないくらい軽い存在?」
とても重い言葉。
そんなんじゃないと言い返したいのに。
「ナオは………ナオは凄く大事。大事な家族だよ。だから、余計に言えなくて…でも、いつかは紹介したいって、思って……隠しておくのはナオにも、タケルにも失礼だから」
小さく呟き俯く。
自分でそう言って、ああっ、ナオはキチンと拓海と付き合っていると言ってくれた。そう思った。
「俺、最低だ」
落ち込んでしまう。
拓海はyoshiの頭をポンと叩いて、
「ごめん。また、意地悪言ったみたいだな。」
と謝る。
「話たくなったら話してあげてよ。ナオ、寂しそうだから」
「うん………」
頷くyoshi。
ちゃんと、紹介しよう。
yoshiはそう思った。
******
「どうした?疲れたか?」
豊川にそう聞かれ、ポンと頭に手を置かれた。
雑誌社での打ち合わせが終わった帰りの車内。
yoshiがずっと黙りだから、豊川は心配していた。
「騙したみたいに連れて行って済まなかった」
「えっ?」
突然の謝罪にyoshiは驚いたように豊川を見る。
「なんかずっと上の空だろ?ご機嫌ななめなのかな?って」
「ううん、違う……拓海に恋人出来たんなら、ちゃんとナオに報告しろって言われてさ」
「恋人?……………まさか、拓海」
拓海は知ってる?
「うん。拓海にバレてたよ」
「えっ?どうして?」
豊川は驚いた。いつ?
「この前、具合悪くなった時にさ、俺がついタケルって呼んだから……その後の俺達の雰囲気で分かったって」
「そっか、」
態度に出しているつもりは無かったけど、押さえきれてない感情があるんだな。と豊川は学んだ。
「イチャイチャは2人っきりの時だけだね。」
yoshiはしょんぼりとため息をつく。
男性同士の恋愛はまだまだ偏見がある。
州によって同性でも結婚が出来るアメリカでさえ、偏見がまだ根強い。
傷つかなくて良い事で傷つく事は避けた方がいい。
「私の部屋でなら沢山甘やかしてやる」
yoshiの頭を撫でた。
「ナオに言ってもいい?」
真顔で豊川を見つめるyoshi。
「ナオは俺のたった1人の家族だから………内緒にしているのはやっぱり嫌だ。……でも、タケルが内緒にしたいって言うなら」
少し涙がにじんでいて、yoshiもずっと悩んでいたんだろう。
豊川だって、いつまでもyoshiとの事を秘密にしているつもりはない。
せめて、ナオや……光一にだけでも。
「嘉樹。私がちゃんと挨拶していれば良かったな。ナオは嘉樹の家族だもんな」
豊川がそう言って微笑むと、yoshiも凄く嬉しそうに微笑んだ。
「でも、挨拶って何か結婚するみたいで照れるね」
無邪気に笑うyoshiの手を豊川はぎゅっと握りしめ、
「嘉樹がうんって言ってくれるなら結婚も考えたい」
と言った。
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