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許容範囲 7話

「そっか、うん、やっぱりそうじゃないかと思ってたよ。どんな可愛い子かな?」 そう返すのが精一杯。 電話の向こうのyoshiが少し戸惑ったような感じが伝わってきて、自分の本当の心を読まれたんじゃないかって、つい勘ぐってしまう。 「どうした?」 激しく心臓が脈打つから手まで震える。  「あのね………相手、年上なの」 自分の様子を伺うようなyoshiの声。  年上?  「それから、ナオは分かってくれると思うんだけど…………付き合っている人。男性なんだ」 一瞬頭が真っ白になる。 今、何て?  男性?  「男性なのか?」 呼吸を整えて、ゆっくりと言葉にした。 「うん……凄く優しい人だよ。ナオも知ってる人」 「えっ?」 自分が知ってる相手………そして、年上。  もう、1人しかいない。  「豊川さん?」 言った後で手が震えた。 「うん。そうだよ………付き合ってる」 そんな……。  いつから?  出会ってからそんなに間がないのに。 「あの、ちゃんと真剣に付き合ってるよ。心配しないでね。それでナオに紹介したくて」 自分が黙っているから焦ったようなyoshiの声。  「分かった。ちょっとビックリしただけ。うん、挨拶しなきゃね」 明るい声で答える。  「良かった。ナオは俺の大事な家族だから」 家族…………、 そう、自分はその領域から出る事はない。  「そうだね。僕も豊川さんに挨拶したいな。yoshiをよろしくお願いしますって」 「本当?良かった。じゃあ、ナオいつ会ってくれる?明日とか?」 嬉しそうなyoshiの声に胸がチクチクと痛くなる。 「うん、明日……僕がそっちに行くから」 「わ、分かった!タケルに伝える」 タケル。  豊川の下の名前。  自然に名前を呼ぶ声。  ああっ、そうか………もう、yoshiは自分だけのモノじゃない。 「じゃあ、明日」 そう言って電話を切った。 鼓動が早すぎて胸を押さえてナオは座り込んだ。  yoshiを誰かにいつかは取られる覚悟はあったけど、それは女性だと思っていた。  yoshiがノンケだから思いも封じ込めて、汚さないように我慢したのに。 今更………。 じゃあ、あのキスマークは豊川さん? yoshiを抱いてたんだ。 じゃあ今も?そうだよ、今、一緒に居るじゃないか。 ドクンッとまた心臓が大きく脈打つ。 いやだ………。  yoshiを抱かないでくれ! ずっとずっと我慢して来た。 触れたいのに心を殺して。 キスしたい。 抱きたい。 自分のモノにしたい。 yoshiを抱くのは僕。  愛しているのも僕。  分かってあげられるのも僕。  僕なのに!  「ナオ、大丈夫?」 拓海の声にハッと我に返った。 「拓海」 拓海が心配そうに覗き込んできた。 「あっ、大丈夫だよ。最近よくあるんだ……めまいみたいな感じ」 「えっ?大丈夫?ベッドで休もう」 拓海はナオを支えながら立たせた。 ヨロヨロと歩いてベッドへと着いた。 「水とか」 拓海はナオを寝かせると離れようとする。がっ、腕をつかまれて、引き寄せられた。 「なおっ」 ナオの上に倒れる拓海。 拓海をぎゅっと抱きしめて「拓海が欲しい」と言葉にした。 そうだ。僕には拓海が居るのに。  こんなにも健気に愛してくれる拓海が居るのに! 拓海を下に組み敷いて、激しくキスをする。 忘れなきゃ…………。  yoshiはもう僕のモノじゃない。  抱きたくても、あの人のモノ。 「なおっ」 自分の下で乱れる拓海。 こんな風にyoshiも今頃抱かれている。 脚を広げ、豊川のモノを受け入れ、激しく揺さぶられて、喘ぎ声を出しているのだろうか?  yoshiは男性にいつから興味を? 父親と同じ年の男に身体を自由にさせるなんて。 こんな事なら、あの時抱いていれば良かった。 抱いていたらきっと今は自分のモノ。 裸にして抱いている拓海がふと、あの時のyoshiと重なった。 あの夜…… 兄も義姉も居なくて、つい好奇心でビールを飲んで酔っ払ったyoshiが暑いからとナオの前で全裸になった。 そして、何時ものように甘えて抱き着いてくるから…… たまらずに押し倒して、yoshiの身体にイタズラした。  その忌まわしい記憶。

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