161 / 275
許容範囲 9話
*******
「おはようコウちゃん、早いね」
事務所でぼんやりしている光一にマコトが声を掛ける。
「まーな」
そう言ってまた焦点を合わさずに何か考えているように座りなおす。
「元気ないね」
「まーな」
上の空のような返事。
「何かあった?」
「ん?別に」
上の空のような返事をまた返した時に、yoshiと豊川が入って来た。
「嘉くん、大丈夫なの?」
マコトは心配そうに声を掛ける。
「あっ、もう大丈夫」
ニコッと笑うyoshi。
豊川が軽くyoshiの頭をポンと叩き、合図を送る。
それに反応するようにyoshiはまた、昨日見た嬉しそうな顔を豊川に向けた。
ため息が出る。
あんな風に自分を見てくれたら……なんて、思う。
顔を伏せて見ないようにした。軽いヤキモチ。
顔を伏せてしばらくして、肩を揺すられた。
顔を上げるとyoshi。
「なあ?眠いのなら奥で寝たら?」
とぶっきらぼうに言われる。
「あっ、大丈夫だから」
フイッと視線をそらす。
仕方ないけど、俺にも笑って欲しい。
「あっそ。で、……」と彼が何か続けようとしていたのだが「飯食ってくる」と光一は立ち上がると事務所を出た。
自販機で缶コーヒーを買って座り込む。
あ~、もう!俺、大人じゃねえ!
ヤキモチ妬いてyoshiにあんな態度!
くそっ、バカバカ!
*****
「おはようアキ、この前は迷惑かけたみたいでごめんね」
アキを見るなりyoshiは頭を下げた。
「や、やだなあ~いいよ!」
ちょっと照れてしまうアキ。
「で、これお詫び」
yoshiは紙袋を渡す。
「なに?」
「弁当。ほら、アキっていつもパンとかばっかりだからさ」
渡された袋の中にはお弁当箱。
嘘、マジで?
「あ、ありがとう」
アキは嬉しくて飛び跳ねたいくらいだった。
嬉しくて、中をもう一度見る。
あれ?
「2人分?」
お弁当は2つある。
「食べきれないなら残しても良いから」
yoshiはニコッと笑うと社長室に入って行った。
もう1つの弁当は光一の分だった。それをアキは知らない。
嬉しそうにお弁当を自分の机に置く。
****
「わざわざ早起きしてアキなんかに弁当作ってやる事ないのに」
戻って来たyoshiに豊川は話掛ける。
「だって迷惑かけたみたいだし」
「優しいなyoshiは。で、そのついで何だろ?光一の分も」
素直じゃないyoshiにからかい半分で聞いてみる。
「光一?飯食ってくるって」
yoshiはパソコンの前に座る。
「要らないって?」
「さあ?弁当はアキにあげたし、別に余ったから作っただけだからいいし」
yoshiは強気な言葉を言ってはいるが、元気がないように見える。
「そっか、」
豊川はyoshiの頭を軽く撫でた。
「ん?飯食いに行くって言ったのか?あいつ仕事サボる気か?」
豊川はyoshiが言った言葉を思い出し、社長室から出た。
ニヤニヤしながら弁当が入った袋を見るアキが目に入る。
「アキ、ちょっと」
豊川に名前を呼ばれて手招きされたアキはちょっとビビっているように見える。
アキも名前を呼ばれた瞬間に、yoshiをホテルに連れ込もうとしたのがバレたのかと心臓が止まりそうなくらいに驚いた。
「な、何すか?社長」
ビクビクしながら豊川の側に行く。
「アキ、光一を捜して仕事に連れて行ってくれ。アイツのせいで昨日マネージャーが辞めてるんだよ、だからアキがしばらく変わりしてくれないか?」
「ええっ!やですよ!光一さんワガママばっかりだから」
露骨に嫌そうな顔をするアキ。
「光一手当てつけてやるから」
「やります!」
コロッと態度を変えたアキに豊川は苦笑いをする。
********
「ち、何でアキなんかと」
光一はふてくされたような態度。
「それは光一さんが悪いんですよ、マネージャーイジメるから」
「けっ、ちょっと注意しただけだろうが!あんなんで辞めるヤツが悪い」
「もう、少しは反省して下さいよね!」
アキに注意されても知らんぷりをする光一にアキはため息を吐きたいが、yoshi手作りの弁当がありニヤニヤしてしまう。
「アキ、なんか気持ち悪いぞ」
露骨に嫌がられてもアキのニヤニヤは止まらない。
ともだちにシェアしよう!