162 / 275
許容範囲 10話
*******
「次の仕事までに時間あるだろ?何か食べようかな?」
駐車場まで歩き、光一は車に乗り込む。
「あ、光一さんどこかへ食べ行くなら俺は駐車場で待ってます。弁当あるんで」
運転席に乗り込んだアキはチラリと後部座席を見た。
アキの荷物にはyoshi手作りの弁当がある。
「何、自分ばっかり買って来てんだよ」
助手席に乗り込んだ光一は舌打ちする。
「違いますよ。手作りです」
ニヤニヤするアキ。
「自分で作ったのか?」
光一は身を乗り出して後部座席の荷物を取ると袋の中を覗く。
「多くないか?こんなに食べるのかお前」
光一は勝手に弁当を取り出す。
「ちょ、止めて下さいよ」
アキは慌てて弁当を取ろうとするがフタを開けられた。
中身は凄く美味しそうで、肉じゃがやら、玉子焼きやら………
玉子焼きの量がハンパなく多くて光一は、
「これ、お前が作ったんじゃないよな?」
と聞いた。
「えへへ、バレました?実は嘉樹くんが作ったんですよ」
ニコッと笑うアキ。
やっぱり!
肉じゃがは前に食べたいと言ってたから。
そう言えば朝、yoshiは他に何か言おうとしてた。
「アキ、これは俺のだ」
光一の言葉に、
「は?俺が貰ったんです!」
と奪い返そうとする。
「お前のはこっちだ」
もう一つの弁当を渡した。
その弁当には肉じゃがは入っておらず、玉子焼きの量も少なかった。
くそ…………… やっぱ、俺のバカ!
あんな素っ気ない態度取っていなければ、yoshiから直接貰えたはず。
残したらもう作らない!とか、そう言われながら。
もう、本当に俺のバカ!
*******
弁当を食べた光一は、アキに、
「事務所に戻るぞ」
と言った。
「は?仕事は?」
困惑したようなアキ。
「いいから出せ!」
強く言われ、
「社長に怒られても知りませんからね」
とアキはそう言って車のエンジンをかけた。
事務所の駐車場に着き、光一が車から降りた時に前方から豊川が運転する車がこちらへ向かって来る。
助手席にyoshiの姿。
光一は車の前に飛び出す。
間一髪で豊川がブレーキを踏んだ。
反動でガクンと身体が前のめりになるyoshiを豊川の腕が支えた。
「なに?」
急ブレーキに驚くyoshiと、舌打ちする豊川。
窓をあけ、
「光一、お前仕事は!」
と豊川は怒鳴った。
怒鳴る豊川を無視して、光一は助手席側の窓をノックする。
「なに?危ないじゃん」
窓を開けるyoshi。
「弁当美味かった」
「はい?」
必死そうに言う光一にyoshiは一瞬キョトンとなるが、すぐに自分が作った弁当の事だと分かった。
「アキにあげたんだけど?」
ぶっきらぼうに答えるyoshi。
「肉じゃがとか、玉子焼きとか、すげえ美味かった!ありがとう」
光一はそう言うと嬉しそうな顔をした。
どう対応して良いか分からないyoshiは目線を豊川に向ける。
「お前、それを言う為だけに戻って来たのか?」
豊川の言葉に光一は頷く。
「だって、すげえ美味かったし、嬉しかったから」
子供みたいにすげえ、すげえを繰り返す光一に豊川は笑ってしまう。
「そりゃ美味いだろ?わざわざ早起きして作ったんだからな」
豊川の言葉にyoshiは余計な事を!と言う目で見ている。
「マジで?すげえ嬉しい」
ニコッと微笑み光一に、
「すげえ、すげえって子供かよ!っていうか、仕事だろ?遅刻するぞ」
yoshiはそう言うと窓を閉めた。
照れくさそうに俯くyoshiが凄く可愛い。
「ちゃんと仕事いけよ」
豊川はそう言って車を走らせた。
ミラーに映る光一はまだ車を見ていて、
「あいつ、子供みたいだね」
そう言って笑うyoshi。
「そうだな」
豊川も笑って、yoshiの頭を撫でた。
******
光一は車を見送りながらしばらく立っていた。
なんでヤキモチとか妬いてたのだろう?
yoshiは俺にも優しいのに。
きっと嫌な思い出しかなくて、寂しい思いしかさせていない。
それなのに、yoshiは優しい。
もう………年のせいかな?
涙腺が弱い。
ともだちにシェアしよう!