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距離 3話
「今は助けてやったが今後は自分で守れよ。何も怖れないのが上手く生きるコツだよ。他人に脅されても突っぱねろ、相手にネタを与えるな。もし、誉める事しか言わない奴が近付いてきたら警戒しろよ、良い人を演じる奴は相手の弱みを捜し出す天才だ」
薫は拓海の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「迎えに来る恋人には隠しておくか?」
拓海は首を振る。
「ちゃんと話します」
「そうか、偉いぞ」
そう薫が返事した時に部屋のインターフォンが鳴った。
一瞬、身体を強ばらせる拓海に「俺が頼んだ着替えだ」と笑い、対応に出た。
「自分で着れます」
着替えを手伝おうとする薫を拒否してみるが、意外とダメージが大きかったみたいで拓海の手はまだ震えていた。
「うるせえ、黙ってろ」
薫は手際良く服を着せていく。
「やっぱり……怖いです。本当の事言うのは」
「恋人にか?そりゃ怖いだろうな。人は嘘をつくより、真実を口にするのを怖がるからな」
「そうですね。嘘なら次から次に言葉に出来ます」
「それで恋人が別れを告げるなら身体目当てって事だな。」
「なおは………ちがう」
拓海はギュッと拳を握ると言葉にした。
「なら不安になるな。最後までそう思っていろ」
「はい」
拓海は頷く。
「しかし、勿体無い事したな。折角、拓海を抱けたのにな」
ニヤリと笑う薫。
「あの、えっと、薫さんですよね?名前」
「可愛いだろ?」
「はい。豊川さんが羨ましい。薫さんみたいな友達が居て」
「元彼だ」
「は?」
拓海は目を丸くする。
「昔の話だけどな。今は向こうは可愛い子猫ちゃんを飼ってるし、俺も毎晩抱くペットが居るしな」
「ああ、そうなんですか?」
「拓海なら二番目の愛人にしてやるぜ?」
「なおに振られたら………なんて、振られませんけどね」
そう言って拓海はようやく笑った。
*******
腕の中で震えて泣くyoshiを力強く抱きしめながら、落ち着くようにと頭を撫でる。
ナオの好きにしていい。
その言葉の意味を今更理解した。
憎まれてると思っている事。
豊川に出会うまでは少なくとも自分を好きで居てくれた事。
yoshiは自分を犠牲にしようとしたんだ。他人が傷つくより、自分が傷つく事を選んだ。
「yoshi………ごめんな。酷い事言ったり、身体…傷つけたり」
一番痛いのは心。
yoshiは首を振り「なおは悪くない」と繰り返す。
悪いのは自分だと。
「僕は嘉樹を憎んだりしないよ。兄さんの事も誰も悪くない」
頭を撫でて同じ言葉を繰り返す。
ずっと守って来たと思っていたのに。
もしかしたら、自分の存在がyoshiの負担になっていたかも知れない。
カチャと微かに鍵が開く音が聞こえて来た。
慌てたような足音。
「嘉樹」
勢い良く豊川が寝室に飛び込んで来ると、 ピクリと反応するyoshi。
「嘉樹大丈夫か?」
豊川の大きな手が頭に乗せられた瞬間、yoshiはナオの腕を離れ、豊川の腕の中へと飛び込んだ。
ギュッとキツく抱きつくyoshiを豊川も強く抱き締める。
震えて泣いているyoshiは小さい子供みたいで、
それを愛おしく抱き締める豊川。
ああ、もう入り込む隙なんて無いじゃないか。
ずっとyoshiを守るのは自分だと思っていたけれど、それは間違いだ。
これから先は豊川が側に居る。
だったら大人しく、 本当の家族になろう。
兄のように、
父親のように、
彼を見守ればいいだけ。
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