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距離 4話
「あの、嘉樹は豊川さんが居ないとダメみたいです。ずっと僕が守る役目だと思っていたけど、嘉樹にとって一番必要なのは豊川さんです。……嘉樹をよろしく御願いします」
ナオは丁寧に頭を下げた。
「でも、見捨てるわけじゃありません。ちゃんと支えます。僕と嘉樹は家族だから。……それと、少しずつ嘉樹も色々と思い出してくると思うので、光一さんも含め嘉樹を支えないと」
「ああっ、そうだな。ちゃんと支える」
「あの、………お願いします!」
ナオは嘉樹の記憶が少し戻っているヶ所を言おうとしたが止めた。
yoshiの記憶の矛盾点。
ナオの気持ちに気付いていたと言ったこと。
yoshiもナオが好きだったと言った事。
yoshiの身体を初めて触ったのは事故の前。
その記憶を持っているのなら、矛盾が生じてくる。
義父を実の父親だと思い込んでいるのなら、ナオとも血縁関係がある事になる。
そこの矛盾点。
自分を諦めようと思ったのはyoshiの記憶の思い込みで血縁関係にあると勘違いしたのか、それとも……深層心理までは良く分からない。
でも、これから思い出してくる可能性は大いにあるのだ。
「ナオ、拓海なんだが…」
豊川の言葉で我に返る。
「拓海、どうしたんですか?今、どこに?」
「私の知り合いが様子見てる……拓海、事務所の社長とその知り合い男性の2人から、乱暴を受けそうになり逃げ出して来たのを保護した」
「えっ?」
ナオは動揺してしまう。
拓海が?
「駐車場に運転手付きの車が停まっている。その車に乗れば連れて行ってくれるから、早く」
「わ、分かりました」
ナオは用意を手早く済ませて慌てて駐車場へと向かった。
◆◆◆◆
ナオが乗り込むと車が走り出す。
拓海は無事だろうか?
豊川に拓海の事を聞いた時、凄く動揺した。
いつも自分を愛してくれる拓海。
そんな愛しい存在を忘れて、yoshiを抱こうとした。
最低だ。
あのまま抱いていたら拓海もyoshiも傷つけていただろう。
手が震えて、それを止めようとすると、身体全体に震えが広がる。
こんなにも動揺するくらい、拓海を思っていたくせに、本当に自分は馬鹿だ。
もっと早く拓海が居る場所に着かないかと気ばかりが焦る。
********
部屋のチャイムが鳴り、拓海はビクンッと身体を震わせた。
「大丈夫、お前の恋人だ」
拓海の頭を撫でると薫は対応に出ようとする。
「や、待って!」
薫の服の裾を掴む拓海。
「どうした?」
「やっぱり怖い」
涙目で薫を見つめる。
「必ず通らなきゃいけない道だろ?逃げてどうする?怖いのはお前が相手を信用してないだけだ。離れていくと思うのは相手に失礼じゃないか?」
拓海を見つめ返す薫。
「薫さん……怖いモノ無いんですか?」
「ないね。俺は人に弱みは見せないから怖いモノなんてない」
「……凄いですね」
「凄いだろ?お前も強くなれ」
薫は拓海の頭を軽く数回叩くとドアに向かった。
ドアが開き、現れたのは高いスーツを着た長身の男性。
いくつだろう?
豊川さんの知り合いだから、同じくらいかな?
そんな風に考えながらナオは薫に軽く会釈すると、
「こんばんは、あの、」
「ナオだろ?入れよ」
ナオの挨拶を遮り、薫は中へ入るように促す。
「詳しくは拓海に聞け。俺は帰るから、部屋は好きに使っていい。」
ナオの手に部屋の鍵を乗せると薫はそう言った。
「でも、ここ、スウィートですよね?高いんじゃ?」
「俺の持ち物だよ。ちゃんと話を聞いてやれよ。かなり怯えてるから…それから、アイツが望んだ事じゃないのは確かだ」
それだけ言うと薫は出て行った。
奥の部屋へと進む。
「拓海?」
寝室に入るとベッドの上でシーツをかぶり、丸くなっている拓海が居た。
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