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距離 5話

「拓海」 優しく名前を呼びながら拓海の身体をシーツの上から触れる。 ビクンッと震えるのがナオの手にも伝わり、怯えているのが痛い程に伝わってきた。 「拓海、シーツから出ておいで」 声を掛けてみるが、拓海は無反応。 やっぱり怖い。 拓海はシーツの中で震えていた。 今日のは未遂で終わったけれど、真鍋と身体の関係を続けていたのは事実。 それを知られるのが怖い。 薫にナオが来るまでずっと話を聞いて貰っていた。 その時言われたのが『最悪の事態を引き起こすのはいつも自分自身なのだから、それを避けて通れよ、誰かが事態を引き起こすわけじゃないんだ。お前の弱さが引き起こすだけ 』この言葉だった。 今、まさに最悪の事態。 引き起こしたのは自分。 身体の関係なんて自分から切る事が出来たのに! 「拓海」 拓海が無反応なのでナオはシーツの上から拓海を抱き締めた。 「ごめんね拓海、怖かったね」 ナオの優しい言葉に喉の奧が熱くなり、涙がこぼれそうになる。 でも、優しくされる資格は自分には無い。 「なおっ、ごめんなさい」 ただ、謝るしかないのだ。 「どうして謝るの?拓海は悪くないのに」 「…………、俺は、なおに黙ってた事がある。俺、ナオが好きなのに、ナオに愛して貰いたいのに………社長とずっと、だから、こうなったのも自分のせいなんだ…」 シーツの下で拓海は震えている。 「拓海、顔見せて」 ナオは震える拓海に優しく語り掛け、そっとシーツを取った。 俯く拓海。 「おいで拓海、怖かったね」 ナオはぎゅっと拓海を抱き締める。 「ごめんなさいナオ、ずっとナオを裏切ってた」 涙声。震える身体。 後悔を沢山して、自分のしていた行為が許せない。そんな感情が拓海から伝わってくる。 「拓海、気付いてやれなくてごめんね。恋人なのに。拓海が辛い時に側に居なかった………ごめんね拓海」 震えて泣く拓海を抱き締めて、気付いた。 ああ、そうだ。 自分が守る相手はyoshiではなく、拓海だったと。 「これからはちゃんと拓海を守っていくよ、だから許して欲しい」 どうして、今までちゃんと拓海を見ていなかったんだろうか? こんなにも愛しい存在なのに。 「なお……俺、ずっと裏切ってたんだよ?」 ようやくナオを見た拓海は涙でくしゃくしゃな顔。 不安そうで、怯えたような瞳はまだ涙が溢れている。 「僕もだよ……君を抱きながら、違う人を想っていた。もう、ふられたけど」 ニコッと笑う。 驚いたような表情を見せた拓海は「yoshiに言ったの?」とyoshiの名前を口にした。  ナオは驚くように目を見開く。 「知って……」 拓海は頷く。 「初めて会った時から……でも、それでも良かった。ナオと付き合えるならって……いつかは俺を好きになってくれるかな?って」 ナオは初めて知った。  何もかもを承知で側に居てくれた拓海の気持ちを。  ごめん……、そして、ありがとう。 心からそう思う。 「yoshiにはふられたよ。ちゃんと気持ちは整理出来てる………こんな僕で良ければもう一度、チャンスをくれないか?」 振られたからじゃない。 拓海を好きだと思い知らされた。  拓海はぎゅっとナオに抱きつき「なお………好き。大好き」と胸に顔をうずめた。 「僕も君を愛してる」 愛してる……。 この言葉はこんなにも幸せになる言葉だった? 拓海はナオと向き合って、  「俺も愛してる」 と言葉にした。 やっと、距離が縮まった気がして、幸せな気分になる。 ナオにキスされて、そのままベッドに2人で倒れ込む。 「抱いていい?拓海が欲しい」 ナオは優しく拓海の頭を撫でる。 「うん。ナオが欲しい」 拓海は微笑む。 

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