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強さ 7話
「マコト、嘉樹の熱何度だよ?」
氷枕を用意して戻ろうとするマコトに声を掛ける。
「38度ちょっと」
「それくらいか?触ったらもっと熱く感じたけど?」
「あー、コウちゃん来たから上がったのかもね」
「なんだとコラッ!」
カチンときて言い返す光一にマコトは真顔になり、
「タケちゃんに聞いてない?yoshi君が熱出した理由」
と言った。
もちろん聞いたので頷く。
「yoshi君ね少しずつ昔の事思い出してきてるんだよ、さっきも絵本の事とか言ってたし」
「絵本?」
「小さい時に良く読んでた絵本らしいんだけど、猫が出てくるとか言ってた」
「猫?長靴をはいた猫?」
「違うって」
「じゃあ、吾が輩はネコである」
「それ、幼児が読むわけないよね?」
真面目に答えてと言わんばかりにマコトに睨みつけられて光一は素直に謝る。
「とにかく、コウちゃんの存在はyoshi君にとって大事なキーパソンなんだからね、ちゃんとして!」
説教をくらい2度めの謝罪。
そう……豊川にも言われた。
yoshiは少しずつ思い出しているのじゃないかと。
日本に来て実の父親に会い、幼い頃一緒に居たマコトにも会った。
閉ざされていたドアの鍵を開けはじめているのじゃないかと。
自分を思い出してくれるのは嬉しい。
でも、実際は良い父親ではなかった。
マコトみたいに遊んであげたりもしていない。
現に好きだった絵本すら知らないじゃないか!
そして、育ての義父を本当の父親だと思ってしまっている彼の本心を知るのが怖い。
忘れたいくらいに俺が嫌いだった?
それに対する答えが「はい」だったら、もう…………どうしようもない。
「仕事終わったらまた来るから嘉樹をよろしく」
マコトにそう言って豊川のマンションを出た。
車に乗り込み、エンジンをかけると、ため息が出る。
あーもうっ!俺って逃げてばっか!
昔っから!
いつも都合が悪くなると今みたいに逃げ出してた。
豊川に良く叱られてたなあ。
嘉樹も豊川みたいな父親なら忘れたいとか思わないんだろうなあ。
はあっ……
また、ため息が出た。
*****
「アイツ、何してんの?」
寝室に来たマコトに光一の事を聞くyoshi。
「仕事行ったよ。後からまた来るって」
「へっ?アイツ何しに来たわけ?」
光一が来てから5分くらいか?何しに来たのかとyoshiも気になる。
「yoshi君がね熱出してるのを聞いて心配で様子を見に来たんだよ、yoshi君頭上げるよ」
マコトはyoshiの頭を持ち上げて氷枕を置く。
「心配?えー、アイツそんなキャラなの?ヘラヘラしてるからさ」
「コウちゃんはね、感情を上手くだせないんだよ」
「なんで?」
「コウちゃん……親に恵まれてないから。高校はバイトとかして学費自分で出してたもん」
それが何を意味するかyoshiにも分かる。
「苦労し過ぎて感情とか上手く出せなくなっちゃったんだ。でもね、正義感は人一倍。イジメっ子とか許さなかったしさ」
「ふ~ん、マコちゃん幼なじみだっけ?タケ、…あ、豊川さんも」
「うん。タケちゃんとコウちゃんは正反対だったなあ。タケちゃん生徒会長だったし、居残りさせられてたコウちゃんの勉強見てあげたりさ」
「あはは、その関係今も崩れてないじゃん」
クスクス笑うyoshiの頭をマコトは優しく撫でると、
「だからさ、コウちゃんにも、もうちょっと優しくしてあげて……yoshi君を凄く心配してるし、後…お弁当とか作ってあげたんでしょ?凄く自慢されたよ。写メとか撮って」
ニコッと笑いかけられ、yoshiは照れたような顔をして「写メとか撮ってんのかよアイツ」と文句を言うがその顔は凄く可愛くて、ああっ、コウちゃんを嫌ってないんだなあってマコトは安心した。
「うん、凄く自慢されたよ」
「バカじゃねーの」
と赤い顔は熱のせいではない。
その姿をコウちゃんにも見せてあげたいってマコトは思った。
「タケちゃんに接するみたいにさコウちゃんにもやってあげなよ」
「ば、で、出来るわけないじゃん!タケルとアイツは違い過ぎる」
何やらうろたえたようなyoshiの態度にマコトは笑いそうになるが、言葉が引っかかる。
タケル……。
自然に名前を呼んだ。
うん?
何か引っかかる。
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