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強さ 10話

****** 「光一さん、具合でも悪いんですか?」 不意にアキの声。 「んあっ?」 顔を上げる光一の前に差し出される珈琲が入った紙コップ。 「今日は大人しいし、ため息ばっかでしょ?」 「そんなに、ため息ついてたか?」 光一は紙コップを受け取る。 「25回は」 「数えんな!」 即座にアキの頭を叩く。 「あはは、やっと光一さんらしくなった」 アキに笑われ、光一も少し笑った。 「嘉樹の具合が悪くってさ」 「えっ、ちょ、マジすか!」 アキは慌てたように立ち上がる。 「ちょ、どこ行くんだ」 アキの服を掴む。 「嘉樹君のお見舞いですよ!」 「何でアキが行くんだよ!」 何故かムッとする光一。 「心配だからですよ」 「お前はダメ」 「どうしてですか!」 「嘉樹の寝込み襲いそうだからだよ」 「えっ?」 その言葉に動揺して真っ赤になるアキ。 「お前、何、赤面してんだよ!図星か!ごらっ!」 紙コップを置きアキの胸ぐらを掴み激しく揺さぶる。 「ちが、違いますってば」 「嘉樹に手出したら殺すぞ、こらっ!嘉樹は俺のだ」 鼻息荒く興奮気味の光一。  「光一さん、台詞だけ聞いたら光一さんの方が変態に聞こえます」 よせばいいのに言い返すアキ。 「うっせえ!悪いか」 父親なんだからっ、 その言葉を何故か言えなくてアキを解放する。 「光一さん?」 急に大人しくなる光一を心配したようにアキは彼の顔を覗き込む。 「俺なんて父親とか言えないつーの」 またため息を着いてその場に座る。  「嘉樹くんと何かあったんですか?」 「何もないよ。だから落ち込むんだよ」 そう、何もない。  yoshiが思い出してもきっと何もない。  アキは光一の横にちょこんと座る。 「あの、俺が見る限りでは嘉樹くんって凄く愛想良くて良い子じゃないですか」 「何、当たり前の事言ってんだよ」 光一はムッとしてアキを睨んだ。 「それは外面じゃないですか?」 「てんめえ、喧嘩売ってんのか?」 アキの胸ぐらを掴む。  「最後まで聞いて下さいよ」 アキは光一の手を掴み退かした。 「何だよ」 「でも、光一さんには態度が違う。生意気な口聞いて外面を見せない。これって心を許してる相手にしかしないんじゃないですか?」 「はっ?」 「良くからかってたりするでしょ?あれって光一さんにしかしないんですよ。嘉樹くん光一さんをからかってる時って凄く幼くなるんです。子供みたいに」 アキの言葉に光一は黙った。 「俺も事情知ってるから言いますけど、きっと嘉樹くんの心理の奥底や身体が光一さんを覚えているんですよ。ほら、街で遠くに居る人を気になる時ってあるでしょ?何で気になるのかな?って、で、近くに行くとその人が誰だか分かる。歯医者さんとか白衣とマスクなしでいきなり会うと、気づかないけど、身体や記憶の奥ではどこかで見たと認識している。……ただ、思い出すのに時間が掛かっただけ……嘉樹君もきっとそれですよ。生意気言うのもどこかで光一さんを覚えているからですよ」 アキはそう言うとニコッと笑った。  「アキ…」 光一は真顔でアキを呼ぶ。 「はい」 「お前、説明下手だな」 「ちょ、ちょっと人が!」 アッサリと交わされ怒るアキを見て光一は笑うと、  「サンキューアキ」 と言った。 「ど、どういたしまして」 アキは照れ笑いをする。 yoshi……、 どこかで俺を覚えててくれてるのかな? 思い出して、恨み事を言われたら受け止めるのが自分の役目だよな? なんて考えた。 可愛がらなかった自分が悪いのに嫌われていると落ち込む。  それは違うよな? 「アキ、嘉樹の見舞いさせてやる」 アキの肩を叩く。  「まじすか!わあ、じゃ、何か買わなきゃお見舞い品」 アキは途端にニヤニヤするものだから、  「やっぱダメ、お前下心ありそうだから」 と却下した。  「ちょ、なんすか!えー、お見舞い行きたいですってば!」 と今度はアキが光一の服を引っ張り揺する。  「うるせえ」 と文句を返すとタイミング良く電話が鳴る。  表示はマコト。  まさか嘉樹に?  慌てて電話に出る。

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