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強さ 11話

******* 「ったく、マジで着いてきやがって!」 光一はブツブツ言いながらレンタル屋にアキと居た。 マコトからの電話はもし時間空いてたらyoshiの為にDVDを借りて来て欲しいとの内容。 様態が悪くなったんじゃないかと心配していた光一はホッとした。 「でも若い子がどんなのを見るか分からないでしょ?」 アキからの反撃に光一は言い返せない。  チッと舌打ち。 新作や旧作も混ぜてレンタルをし、アキが会員証を持っているから彼が会計に行った。 待つ間、暇である。  ふと店内を見ると本屋も一緒になっているので本棚が視界に入った。 あ、絵本!  マコトが言ってたyoshiが小さい時に読んでた絵本ってどんなんだっけ?と絵本コーナーへと進む。 懐かしさの宝庫!  智也がつい最近まで読んでた絵本やら拓也にたまに読み聞かせてた本。 あの2人には読み聞かせしたのにyoshiにはしてあげていない。 yoshiに出来なかった事をなるべく2人には行った。  でも罪滅ぼしなんかにはならない。だってyoshi本人ではないのだから。 ネコが出てくるとか言ったよな?  トトロか? ちょうど猫バスの絵が視界に入る。 あ、不思議の国にも猫出るよな?ディズニーかな?  色々悩んでいるとクスクスと笑い声。 声をする方を見ると、スッピンに伊達眼鏡をしたリナの姿。 「何?俺のストーカーしてんの?」 と光一はニヤリと笑う。服屋でも会っているから。 「相変わらずの自意識過剰ね。忘れた?この近くに私のマンションあるの」 そう言われて、あ、そうだったと思い出す。 「まるで俺がストーカーみたいだな」 クスクス笑う光一。  「そうね。私に未練あるのかと思ったわ」 なんて言いながら光一と笑い合う。 「で、絵本コーナーで何してるの?」 「いや、猫が出てくる絵本を探しててさ」 「猫が出てくる?何てアバウトな?」 リナは辺りを見回すと表紙が猫の絵本は沢山あった。 「タイトルをさ嘉樹が覚えてなくて」 「嘉樹くん?仲良くやってるのね」 リナはニコリと微笑む。 「なんとかやってるよ。生意気な口聞くけどさ」 「気に入られてる証拠じゃない。」 クスクス笑うリナ。  気に入られている。…アキの言葉を思い出す。  「うわあ、なんかデレデレして気持ち悪い、まあ、分かるわよ…あんなに綺麗で可愛いんだもん。美嘉さん似かと最初思ったけど、貴方にも似てるわね。輪郭とか笑い方とか」 「マジか?そうか?似てるか?」 照れながらニヤニヤする光一。 「だからキモいって」 「あー、そうだ!この前、弁当作ってくれてさ写メ見る写メ?」 リナが見るとも言っていないのに光一はスマホを出す。そこまでされたら見ないとは言えない。  写メを見せて話をする光一は紛れもなく父親の顔をしている。 凄く優しい顔。  ああっ、私……この顔好きなんだよなあ。  せっかく離れたのに……未練あるのは私じゃない! なんて切なくなる。 「もう、光一さん急に居なくならないで下さいよ」 拗ねた顔でアキがやってきた。  店中探したと文句を言う。 「絵本見に来たんじゃないんだ?」 リナの声にアキはピクリと反応。  目の前のスッピン伊達眼鏡美女をリナだと気づき、顔が一気に赤くなる。 でも、素人ではないので騒がない。 そこは心得ている。  騒ぐとリナに迷惑がかかる。現に彼女は見ての通りオフモード。 「嘉樹が熱出して寝込んでるから暇つぶしにと映画をね」 「嘉樹くん寝込んでるの?あ、待ってお見舞いを私もあげたいから」 リナは絵本を手に会計へ。  そして戻って来ると「この絵本にも猫が出てくるのよ。私のオススメの絵本。」と光一に渡す。  「じゃあ、嘉樹くんにお大事にって」 リナは手を振ると店を出て行った。  「はあ~スッピンのリナちゃんも可愛いですね」 後ろ姿に見とれているアキの頭を殴り、  「お前なんぞ置いてけぼりにしてやる」 とアキが借りたDVDを奪い猛ダッシュ!  「ちょっとお!」 アキも慌てて後を追う。 ***** あ~あ、もうヤダなあ。 リナは店の駐車場、光一が走らせる車を見送る。 忘れるとかさ……無理やん?  そう呟く。 忘れる強さなんて持ち合わせていない。

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