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強さ 12話

****** 「yoshi君、もうすぐコウちゃんが戻って来るって」 マコトは電話を切るとそう告げた。 yoshiの気が紛れるものがないかとリビングやら探すものの、何も無い。眠らせるのが一番なのだが眠りたくないと駄々をこねられた。  マコトは昔っからyoshiには甘くて、つい、言われた通りにしてしまう。 レンタルしに行くのは1人にしてしまうし、悩んだあげくに光一に電話してみた。  本当は一緒に居るアキが目的。  マネージャー代理のアキが現場から抜けても支障はない。  でも「今からDVD持って戻るから」と電話があった。  「仕事は?」 「外ロケは終わり、後は夜に残りを撮るから大丈夫」 そう言った光一。  収録に時間が空くのは良くある事。  そんな時は愛人の所へ行ってたのに。  この変わりよう……。 まあ、良い事だからいっかあ。  マコトは嬉しそうに微笑む。 「マコちゃん、何でそんな嬉しそうに笑うんだよ?」 「ん?ちょっと思いだし笑い」 マコトは誤魔化す。 「あ~、そーだ、部屋にテレビ持ち込まないとね。待ってて」 マコトが部屋を出ようとすると「待って、俺がリビング行く」と呼び止める。  「ダメダメ、熱あるんだよ?ベッドで横になってる方が良いって」 「やだ、リビングがいい!」 「だーめ!」 「リビングのソファーはベッドになるからお願い!」 「えっ?そうなの?」 「うん。背もたれ倒せるよ」 「うーん、じゃあ、シーツとか敷いて横になれるようにするから」 と、結局はyoshiに負けてしまった。 「マコちゃん好き、ありがとう」 ニコッと笑うyoshiに、やっぱ甘い自分に笑えるマコト。  「ちゃんと大人しくしてないと病院連れてくからね!」 取って付けたような注意にもyoshiはニコッと笑う。  あー、もう! のび太を甘やかすドラえも〇になった気分にさえなる。 ******* 豊川は時計をチラリと見る。  昼を過ぎた所。  嘉樹…大丈夫かなあ?  なんて考えてしまう。  「豊川社長」 後ろから声をかけられ振り向く。 「昨日はご迷惑掛けてすみませんでした」 そう言って頭を深々下げる拓海の姿と、その横にはナオの姿もあった。 「いいよ。拓海が無事なら、じゃあ行こうか?」 豊川は2人を促して車を停めている駐車場まで来た。 「すみません、忙しいのを無理言って」 後部座席に座るナオは申し訳なさそうな顔をする。彼はどうしても豊川に話をしたいと電話したのだ。 時間が少し空いていた豊川はyoshiの話もしたいので、今、仕事で来ている場所を伝えて、来るようにと言っいた。 「いや、いいよ。ちょうど午前中の仕事は終わりだったし……それより、拓海はもう平気か?」 ナオの横に座る拓海にチラリと視線を向ける。 「平気。ナオにも全部話したらスッキリしました」 元気な拓海の声が、もうすっかり元気で安心した。 「良かった。でも、偉かったな、ちゃんと話せて」 「はい。……あの、薫さんに凄く感謝してます!」 「はあっ?薫に?」 豊川は凄く嫌な顔。  「怖そうに見えるけど、凄く優しくて……沢山、勇気貰いました。それにあんな高い部屋貸して貰ったし」 拓海はチラリとナオを見て幸せそうに笑う。 夕べは本当に幸せだった。 気持ちを確かめ合い、本当に愛し合えた幸福感。 「薫の持ち物だからなアレは」 危うくソコに連れ込まれそうだった事を思い出した。 「薫の話はいいから、ナオの話って何だ?」 豊川は仕切り直す。  ちょっと躊躇ったような空気になり、  「あの、」 と切り出したのは拓海。 「俺、今の事務所を辞めるんです」 豊川は驚きはしなかった。  あんな事があったんだ。無理はない。 「それがいい。私もそうした方が良いんじゃないかと言おうと思ってたから」 「はい。………それで、芸能界は辞めるつもりないので、豊川社長の事務所に移籍させて欲しいんです」 「えっ?」 予測してない言葉に豊川は一瞬、言葉につまる。 「ダメですか?」 怖ず怖ずとしたような確認の言葉。 「……ダメなわけないだろ?でも、他にもデカい事務所あるのに」 一流と呼ばれる事務所は沢山あるのに。

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