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強さ 13話

「豊川社長の事務所がいいんです」 迷いのない、しっかりした言葉。  「それなら断る理由はないな」 豊川の言葉に拓海は直と顔を見合わせて笑顔になる。 「事務所に着くから詳しい話をしよう」 豊川はハンドルを切り事務所のビルの真下にある駐車場へと入る。  ******* ソファーベッドの用意が終わった頃に、チャイムが鳴った。 マンションの入り口のモニターを覗き込む光一の姿を確認すると、マコトはカギを解除する。 「早いよね、コウちゃん、もう来ちゃったよ」 クスクス笑いながらマコトは寝室に居るyoshiに声を掛けた。 「マジで来たのかあ」 嫌そうな顔もどこか照れくささが見え隠れして可愛い。 「アキ君も一緒に来たみたいだよ」 「アキも?」 それには素直に嬉しそうな反応をするyoshi。  確かに歳が近い子が居た方が良いよね?なんても思う。 「社長のマンション、ハンパないですねえ」 アキは周りをキョロキョロしていて落ち着きがない。  「あんまウルサくすると追い出すからな!」 光一に釘をさされ頷くアキ。 部屋に着き、マコトに出迎えられた。  「アキ君、いらっしゃい」 アキに笑い掛けるマコト。 「これ、お見舞いです。あ、嘉樹君食べれますよね?」 見舞いの品をマコトに渡しながらに確認。  「大丈夫だよ。」 微笑まれてアキはホッと息をつく。 「熱は?」 心配そうな光一はどう見ても父親の顔。  「ちょっとは下がったんだよ」 マコトはそう言いながら2人を中へと促す。  「映画は?」 「4枚借りた。夜まで充分だろ?で、寝室で見るのか?」 光一はマコトにDVDを渡すと寝室へと行く。 朝の時とは違い、ベッドに座っているyoshiが居た。  「あ~、もう、寝てろ」 光一はyoshiの側に行く。  「うるせえ、もう平気だよ」 面倒くさそうな顔をされるがyoshiの額を触るとまだ熱い。  「まだ熱いだろ!」 「触んな、金取るぞ!」 ムッとするyoshi。  相変わらずの生意気な態度。 でも、今はそれが嬉しい。 「何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い」 嬉しさが顔に出てるのかyoshiに突っ込みを受ける。 「嘉樹君」 アキが寝室に顔を出す。 「アキ」 アキを見て笑顔を見せるyoshiにアキはちょっと照れる。 ああっ、癒やされる……。 「てめえ、アキ!勝手に寝室入ってくんなよ」 光一はすぐさま阻止する。 「ここはお前んちじゃねーじゃんよ」 素早いyoshiの突っ込み。 「せっかくお見舞いに来てくれたのにさ、アキありがとう」 ニコッと微笑む。 「へへ、どういたしまして」 「だから、照れんなって言ってんだろうが」 光一はアキの頭を叩く。 「光一ウルサい。帰れよ」 「ウルサい言うな!映画借りて来たっつーの。この部屋で見るんだろ?テレビは?」 寝室にはテレビはないのでキョロキョロと辺りをみる光一。 「コウちゃん、映画はリビングで見るんだよ。もう用意出来てるからさ、ほら、アキ君も」 マコトが顔を出し、アキと光一を促す。 「ダメだろ?熱あるんだから」 「yoshi君がどうしてもリビングが良いって」 「却下だろ?」 反対する光一にマコトは、  「yoshi君ちょっと今、不安定みたいでさ、怖い夢見るからベッドに横になりたくないって」 小声で言う。 yoshiはアキと雑談しているので、ヒソヒソ話には気付いていないようだ。 「怖い夢?どんな?」 「言わないんだけど、多分…事故の夢じゃないかな?」 光一はチラリとyoshiを見た。 元気そうに見せているだけ? それならば、  「アキ、どけ」 とアキを退かすとyoshiに近づき彼を横抱きにシーツごと抱き上げた。 「ちょ、何すっ」 身体がフワリと浮いたと同時に自分は光一に抱き上げられている。 驚かずにはいられない。 「リビング行くんだろ?」 yoshiは軽すぎるから楽々と抱き上げれた。 「ば、降ろせよ!」 生意気な口をきく彼も流石に今の自分は恥ずかしいのだろう。  顔が真っ赤だ。  「だめ、このままリビングまで連れてく」 光一はyoshiを抱っこしたまま歩き出す。  「降ろせバカ」 ジタバタと暴れるが光一は平気そうにリビングまで彼を運んで来た。

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