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存在 2話
「また、って何だよ!失礼な奴だな!ちゃんとスケジュール調整するよ」
yoshiの言葉にムッとする光一。
「光一はあてになんねーんだもん!豊川さんやマコちゃんならともかくさ」
ぷいとソッポを向くyoshi。
くそう!また豊川かよ!
yoshiは必ず豊川を引き合いに出してくるから面白くない。
「俺がいつ嘉樹にあてにならない事言ったんだよ」
ムッと子供みたいな言い返しに自分でも笑えるけど、豊川の名前がyoshiの口から出るのが凄く嫌だった。
「いつって…………」
yoshiは言い返そうとして、いつだろう?と考えた。
いつ言われた?
ふと、脳裏に「うそつき」と誰かに叫んで泣いている小さな自分が過ぎった。
その瞬間、怖さも同時に来た。
怖い、怖い、怖い……………、まるで暗い宇宙に1人、投げ出されたみたいな感覚。
怖くて不安。
急に息が苦しくなる。
怖い、怖いよ、誰か!
「嘉樹」
名前を強く呼ばれた。
顔を上げると目の前に、 知っているけど、知らない…………若い男性。
今のナオくらいの年齢の………。
その男性が自分を呼ぶ。
何故この人は俺の名前呼ぶの?
どうして俺の名前知ってるの?
「嘉樹!」
強く名前を呼ばれて肩を揺すぶられた。
目の前の若い男性がいつの間にか自分が知っている光一に戻っている。
「光一?」
「うん、どうした嘉樹?」
光一は自分を心配そうに見つめている。
さっきの若い男性が彼似ている事に気付く。
似ているんじゃない。
彼そのものだ。
「嘉樹?大丈夫か?だから言っただろ?ベッドに寝てた方が良いって」
光一が自分の肩を持ち寝かせようとする。
「や……大丈夫だから」
光一の手を退かそうと彼の手を握る。
温かい手のひら。
大きくて「ゆびきりげんまん」小さい自分が彼の手を握りそう言っている記憶。
「約束するから」
若い光一も自分の視線に合わせしゃがんでくれて、何かを約束した。
「ちがう」
yoshiはその記憶を否定するように呟く。
「何?」
yoshiは小さく呟くように言ったので光一には聞こえず、聞き返す。
「違う…」
違う。 知らない。 俺は光一の若い時なんて知らない。
この記憶も自分の記憶じゃない。
そう自分に言い聞かせる。
知らない。 知らないのに怖い。 怖くて不安になる。
「yoshiくん」
俯き不安げに手を口元へと持って行こうとするyoshiの手を握りしめてマコトが彼の名前を呼ぶ。yoshiは思わずマコトにしがみつく。
「yoshiくん大丈夫だよ」
明らかにyoshiの様子がおかしい事に皆、気付いて、マコトは彼を落ち着かせる為に優しく声を掛ける。
「タケルに会いたい」
マコトの耳元で小さく呟かれた言葉。
豊川に今すぐに会いたい。
不安を和らげて欲しい。
「何て言った?」
光一には何て言ったかは聞き取れなかった。
「思い出しちゃったみたい」
マコトが言いたい事が何か光一は予想が出来た。もう会えない義父。
記憶を塗り替えるくらいに良い父親だったのだと嫌でも分かる。
こんな状態のyoshiもちゃんと受け止めて支えるのが今の光一に出来る事。
「嘉樹、少し横になろうか?」
光一の言葉にyoshiは首を横に振る。
こういう時は何て言葉を掛ければ良いのだろうか?
光一はyoshiの頭を優しく撫でながら言葉を探す。安心させてあげれる言葉。
でも、何も思い浮かばない。
そう言えばyoshiが小さい頃、凄くぐずってた事があった。
あの時は幼い彼を抱きしめて、眠ってくれるようにと歌を唄って………、それで眠りについてくれたyoshi。 その後も何回か歌った事があった。
もう彼は大人だ。 でも、懐かしくて光一はあの時の歌を口ずさむ。
******
「あの、豊川さん」
場所を豊川の事務所に移し拓海の今後の話をしていた時にナオが改まって話を切り出す。
「僕と拓海はこれからずっと一緒に暮らして行こうと思ってて…」
ナオの言葉に拓海も嬉しそうに頷く。
あれからホテルで拓海と話し合ったのだ。
このまま拓海を一人には出来ないし、したくない。
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