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存在 3話

ナオがこれから守っていくのはyoshiではなく拓海だと気づかされた。 「それは良い事だな」 豊川もニコリと微笑む。 「はい。もっと早くこうするべきでした」 ナオは横に座る拓海の頭を撫でる。 撫でられた拓海は少し恥ずかしそうだったが、同時に幸せそうな顔を見せた。 「それで、豊川さんに嘉樹をお願いしたくて…」 ナオが拓海と一緒に暮らすならyoshiは1人になる。 成人しているのだから1人暮らしでも良いのだけど、やはり過保護だとナオは自分でも思う。 「えっ?……それって」 ナオが言いたい事、何となく想像がつく。 それでも思っている事と違う事かも知れないので豊川は聞き返す。 「嘉樹と一緒に暮らしていただけませんか?…自分でも過保護だと分かってます。嘉樹を今、1人には出来ないし、僕が側で守るよりも豊川さんが側に居てくれた方が嘉樹も嬉しいんじゃないかと思って……それに光一さんも居る。やはり実の父親が側に居た方が良いと思うので、お願いします」 ナオは深く頭を下げる。 「私に任せてくれるという事ですか?」 もちろんそれは願っていた事。 ずっと側で彼を守りたい。 細くか弱い肩を抱き寄せて大丈夫だと言ってあげたい。 自分にはその覚悟も経済力もあると自信を持って言える。 「愛し合っている者同士なら当然でしょ?豊川さんと居る時のあの子は悔しいくらいに良い顔をしてますから」 ナオはそう言って微笑む。 もう未練がない……なんて胸張って言えないけれど、遠くから見守る事は出来る。 幼い時からそうやってきたのだから。 「豊川さんの口から一緒に暮らそうと言ってあげて下さい。僕が言うより数倍喜びますから」 「……ナオ、本当は私から君に頭を下げようと思ってたんだ」 豊川は照れくさそうに頭をかく。 「嘉樹をください」 豊川は深々と頭を下げた。 「もちろんです。……でも、それって本当は光一さんに言うべき言葉ですよね……それと、実の息子のように嘉樹を愛した兄に」 ナオの言葉に豊川も頷く。 そう……光一にいつかは話さなければならない。 幼なじみに息子を奪われるなんて光一も想像していない事だろう。 ***** 「何か俺のせいで嘉樹くん思い出しちゃったんですよね?辛い思い出」 アキはしょんぼりとうなだれ、キッチンのバーカウンター備え付けの椅子に座る。  「何であの映画選んじゃったのかな俺」 「アキくんのせいじゃないでしょ?アキくんがそんな風に落ち込むとyoshiくんが気にしちゃう」 マコトはアキにコーヒーを渡す。  「yoshiくんは自分で乗り越えなきゃいけない所まで来てるんだよ。それにコウちゃんを思い出してくれた方が良いし」 マコトの言葉にアキは頷く。  「yoshiくんが眠ってくれて良かったよ。きっとコウちゃんの歌のおかげだね」 「光一さんの生歌、やっぱ上手いですね。また歌えば良いのに……でも、あの歌誰の歌ですか?」 「コウちゃんが作った歌だよ」 「えっ?俺知らないですよ。アルバム全部持ってるのに」 キョトンとするアキ。 「あの曲はねyoshiくんの為に作った曲だもん未発表だよ。yoshiくんが生まれた時にタケちゃんと作ったんだ。わざわざ英語歌詞にしてさ、照れ隠し?ツンデレも良いとこ」 マコトはクスクス笑う。 「嘉樹くんに?ですか…」 「うん。だからyoshiくんは小さい時にあの歌を聴きながら眠ってたんだよ。コウちゃんに録音してもらって、テープで聴かせてた……yoshiくん身体で覚えてたんだなあ。あんなに眠りたくないって言ってたのに安心したみたいに眠ったから」 「題名なんていうんですか?」 「何って題名だったかな?忘れちゃった、でも、yoshiくん小さいのに英語歌詞覚えるくらいに聴いてたなあ。懐かしいなあ」 マコトは懐かしむように微笑む。 ****** 光一は眠るyoshiの顔を見つめる。目尻に小さな涙の粒。  あの時、マコトにしがみついて何か言ってた。  何と言ってたのか気になる。 きっと……つらい事を思い出したのだ。  頭を撫でたいけど起こしてしまうんじゃないかと躊躇する。 「ごめんな嘉樹……」 謝っても、 謝っても、 足りない。 ******* 小さい子供が泣く声。 「よし君どうしたの?」 まだ若いマコトが頭を撫で声をかけてくれる。 「どうしてボクんちはパパ居ないの?」 泣きながらマコトに聞く幼い自分。 「えっ?パパ?」 キョトンとするマコト。 「お父さんじゃなくパパが欲しいってずっと泣いてるのよ」 困ったような母親の声。 「どういう事?」 マコトから聞かれた幼い自分は、  「だってお友達のパパは遊んでくれるよ。ご本読んでくれたり遊園地行ったり、お風呂もパパと入るって」 そこまで言ったら凄く悲しくなってまた泣き出した。 「お父さんとパパは同じだよ?よし君にもお父さん居るでしょ?」 わんわん泣く自分を抱き締めてそう言ってくれるマコト。 「ちがうもん、お父しゃんはパパじゃないもん!お父しゃんは遊んでくれないもん!遊園地もいくって言ったのに連れて行ってくれなかったもん!約束いつもやぶるもん!だからパパじゃない!お父しゃんはパパじゃないの!」 自分でも何を言っているか分からなかった。  ただ幼い自分にはお父さんは居ても他の友達の父親のような優しいお父さんじゃなく、自分を愛してくれない人が居るだけだと思っていた。  お父さんは他人で、 パパが父親だと勘違いしていた。  「もう!コウちゃんがウソばっかつくから」 マコトはぎゅっと自分を抱き締めてくれて「遊園地行こうか?僕はパパじゃないけど良い?」そう言ってくれた。  「じゃあマコちゃんパパになって」 ようやく泣き止んでマコトを見上げると「僕で良かったらなってあげるよ」と頭を撫でてくれた。  「うん」 「じゃあコウちゃんはどうする?」 「お父しゃんはいらないもん」 俯いて答えた。 いらないなんてウソ。  本当は自分を愛して欲しかった。 遊園地とか、 本とか、 本当はどうでもよくて、マコトみたいに泣いている時にぎゅっと抱き締めてくれたら、 それだけで良かった。  大好きだと言ってくれるだけで安心出来たのに。

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