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存在 4話
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「コウちゃん、よし君パパが欲しいんだって」
レコーディングの合間にマコトにそう言われた。
「パパ?パパってお小遣いくれたりバッグとか買ってくれる?」
タバコをふかしながら答える若い頃の光一。
「もうさ、コウちゃんの頭ってそんなんばっかなの?幼稚園児がそんなパパ欲しがらないよ」
マコトはギロリと睨んでくる。
「じゃあなんだよパパって?」
「よし君が言ってるパパは遊んでくれたり大好きって言って抱っこしてくれるパパだよ」
マコトが言ってる意味は何となく分かった。 ここ最近ずっと忙しくて息子に構っていなかったから。
結婚後、バンドの人気が落ちた。それを理由に家にもあまり帰らず、必死だった。
今思えば何故にあんなに必死に人気を取り戻そうとしていたのか分からない。
一度手にした栄光を取り戻したいだけだったのかも知れない。
もっと大事なモノがあったのに、簡単に手放した。
無くして初めて気が付いた大事なもの……。
それが今なら何か分かるのに。
「何が言いたいんだよ?」
面倒くさそうに返す。
「分からない?よし君寂しいんだよ!コウちゃんが全然構ってくれないから!」
マコトの声は大きくなる。光一が余りにも無関心だから。
「うっせーな!今、それどころじゃねーだろ?レコーディングおしてんだぞ?それに金稼いでるのは俺だぞ?金無いと嘉樹だって玩具も買えないし、飯だって食えない。」
「はあ?違うでしょ?よし君が欲しいのはお金でも玩具でもないよ。コウちゃんとの時間だよ」
マコトは興奮しているのかさらに声が大きくなる。
「だから時間ねーつってんだろ!」
何時もは大人しいマコトにキツく言われ光一もムキになり、声を張り上げた。
「お前は時間作るの下手だからな」
後ろから聞こえて来た声に光一は思わず振り向く。
「豊川…」
鋭い眼光を飛ばし光一を見ている豊川の姿。
「うるさいよお前ら、ブースまで聞こえてきた」
「だってマコトが」
怒っているように見える豊川にたじろぐ光一の側に近付いてくる彼。
「それに禁煙だ」
豊川は光一の指から煙草を取り上げた。
「携帯灰皿」
豊川はもう片方の手を伸ばし灰皿を要求する。
チッ、
光一は舌打ちをして、ふてくされたように灰皿をポケットから出して渡した。
「一応、灰皿は持ってるんだな」
豊川は灰皿にギュッと煙草を押し付けて消す。
フワリと出た白い煙はすぐに消えた。
「嫌みかよ」
ぷいと横を向く光一。
「嫌みだよ。お前、家で吸ってんじゃないだろうな?」
「吸ってねーし!子供いるし」
「一応気にしてんだな」
「一応、一応っていちいちウルサいよ!」
気に障ったらしく豊川を睨む光一。
「あ?」
ギロリと睨み返され光一は迫力に負けてしまって目をそらす。
「そんなに焦ったからって曲が売れるわけでもないだろ?丁度暇になったって思って、あの子を遊園地連れて行ってやれば良いんじゃないか?」
豊川は冷静に何でも受け止める。
いきなりランキング落ちた時も、仕事が減った時も落ち着いていて、 今まで忙しかったんだから休暇だと思えば良いって言い切った。
光一だって、焦っても仕方ないと分かっている。
でも、 急に仕事が減って収入だってそれに応じた収入で、 お金が全てではないけれど、光一は豊川やマコト、それと翔をこの世界へと誘った責任がある。
豊川は大学まで出ているのに、いつポシャるか分からないバンドを一緒にやってくれるし、 マコトは高校卒業後に就職が決まっていて、 翔もアメリカ留学を辞めてまでも一緒に居てくれる。
違う人生があったかもしれないのについて来てくれた。
その責任。
「だから……時間ねーて」
「時間は自分で作るもんだ」
豊川の、この言葉は学生時代から嫌になるくらいに聞いた。
くそう!
「俺だって色々頑張ってんだ!」
「頑張るって言葉は頑張れる人間しか使ってはいけないよな?」
豊川のその言葉には流石にカチンときた。
「なんだよ偉そう!」
光一は拳を握り壁を思いっきり殴った。
ガンッ、
鈍く重い音がその場に響く。
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