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存在 5話

豊川を睨みつける光一。 緊迫した空気をどうにかしようとマコトが声を出そうとした瞬間、 「うぃーす、何か鈍い音したよね?」 とその場の空気を読まないような軽い口調で顔を出したのは翔だった。 耳には何個もピアスをつけ、ジャラジャラとアクセサリーをつけまくり、チャラい!の印象を一気に引き受けたような服装に、ヘラヘラした…本人に言わせれば愛想が良い顔をした彼。 高校に入り、いつの間にか仲良くなっていた友人の1人だ。 「翔ちゃん…」 マコトは少しホッとした。 空気を読めない彼の特技は今みたいな張り詰めた空気をクラッシュする事。 「あ、光一、これやるよ。お前んとこのちびっ子に」 翔はデカいクマのぬいぐるみを光一に渡す。 「何?ファンの子に貰ったの?」 早く空気を変えたくてマコトは翔に話掛ける。 「いんや、駅前のゲーセン…」 そう翔が言った瞬間にゴツンと鈍い音が再度響く。 「いてーなタケルン」 翔は頭を押さえながら豊川を見た。 ゴツンという音は豊川が翔をゲンコツで殴った音。 「タケルン呼ぶな!お前はレコーディング抜け出してゲーセン行ってたのか」 ギロリと翔を睨む豊川。 「だってさあ~10日間もずっとカンヅメ状態だぜ?息抜きしないと良い曲も出来ないだろ?」 翔はヘラヘラと笑う。 「だからってゲーセンか!」 「風俗行ったらタケルン怒るし」 「当たり前だ!」 「だから健全なゲーセン。ほら、こんなに可愛いクマちゃんゲット出来たし。ちびっ子も喜ぶ!な?光一」 ニコニコと自分に笑いかける翔にさっきまで怒り心頭だったのが、意気消沈している光一。  「よし君、絶対に美少年になるよな?すんげえ可愛いもん」 「お前……嘉樹に絶対近寄るなよ」 光一は嫌そうな顔をする。 「やだなあ。俺、幼児は趣味じゃないよ。15~6くらいになってくんないとさ」 ガツンッ、  鈍い音がまた響く。 「コウちゃんいたいよ」 頭を押さえながら翔は光一を見ている。  ゲンコツを光一に落とされたのだ。 「てめー嘉樹に手出したらぶっ殺す」 翔を睨みつける光一。 「ほら、タケルン、よし君可愛いと思ってるみたいだよ」 翔はヘラヘラ笑い豊川を見た。 ヘラヘラした彼のおかげで緊迫した空気は壊れた。 翔は高校時代から光一と豊川の険悪ムードをヘラヘラした笑顔で壊してきた。 これにはマコトは感謝している。 ******* 「ほら、嘉樹クマちゃん」 約2週間振りに嘉樹に会った光一。 「クマちゃん」 嬉しそうにクマを抱く幼い彼。 「嘉樹はもうお風呂入ったのか?」 そう聞いたのはもうパジャマを着ていたから。 「うん」 「そっか、じゃあ……絵本読んでやろうか?」 マコトに言われた言葉を光一なりに気にしていた。 パパが欲しい。 どんな気持ちで言葉にしたのか光一にだって分かっている。 自分も幼い頃に親に構って貰えず寂しい思いをした。 痛いくらいにyoshiの気持ち理解出来たはずなのに、どうしてあの時は無視出来たのだろう? 「ご本読んでくれるの?」 目の前の幼い息子は目をキラキラさせて、こんなにも嬉しそうな顔をしてくれる。 「好きな絵本持っておいで」 「うん」 yoshiは元気良く返事をして絵本を取りに行った。 「マコト君に何か言われた?」 キッチンで洗い物をしていた美嘉が光一にそう言った。 妻の美嘉は鋭い。 「豊川が早く帰って嘉樹と風呂入って絵本くらい読めって」 光一は上着を脱ぐとソファーに投げた。 「豊川さん怖そう見えるのに優しいのね」  「アイツ、昔っから無愛想だけどさ……面倒見とかは良いんだ」 そう言って光一はソファーに寝転んだ。 そして、yoshiがお気に入りの絵本を抱えて戻って来た時に光一は爆睡していた。  ****** 目を開けるとすでに朝。 ソファーで爆睡していた自分にかけられた毛布と下に置いてある絵本。 しまったあ…………、  絵本すら読んであげられない罪悪感が胸をチクチク刺す。 「おはよう」 美嘉が声をかける。 「嘉樹は?」 「まだ寝てるわよ」 「そっか」 ため息をついて絵本を手に取る。 「昨日、アナタに読みきかせしてたわよ」 クスクス笑う美嘉。

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